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【ショート】 冷たくなったオニオンスープ

―― short story ――

俺は二番目だった。
それでよかった。
彼女の隣に立てるなら、順番なんてどうでもいいと思っていた。

だから、少しだけズルをした。

テーブルの向かいで、彼女がスプーンを動かしている。

もう湯気は出ていない。
薄い膜の張ったオニオンスープを、彼女は何も言わずに口へ運んだ。

「温め直そうか」

そう聞くと、彼女は首を横に振った。

「これでいい」

初めの頃は、何を考えているのか分からなかった。

いや、初めの頃の方が分かりやすかったのかもしれない。

俺が近づくたび、肩がわずかに固くなる。
それでも逃げない。
触れれば、静かに目を閉じる。
嫌だとは言わなかった。
……言わせなかったから。
好きだとは、もちろん言われなかった。

誘えば、彼女は俺の家に来る。
いつからか、肩は震えなくなっていた。
俺を見る目に、熱が滲むことさえあった。
玄関を開ければ、奥から「おかえり」と聞こえてくる。
その声だけを聞けば、普通の恋人同士だった。

彼女には、別の男がいる。

正確には、彼女が最初に好きになった男。
今も、その男と同じ部屋で暮らしている。

それなのに、彼女はときどき俺の部屋へ来る。

冷蔵庫を開ける。
俺のシャツを畳む。
歯ブラシを、俺の隣に並べる。

その一つ一つを見ていると、選ばれたような気がした。
スプーンが、皿の底に触れる。
小さな音がした。

「ねぇ」

彼女が顔を上げる。

「ずっと、こうしていたい?」

俺はすぐに頷いた。
彼女は少しだけ笑い、冷めたスープを飲み干した。
それが、どういう意味だったのかは分からない。

ただ、その夜から彼女の方から触れることが増えた。
抱き寄せると、俺の首筋から耳元まで、彼女の指が滑る。
頬を包まれれば、自然とその手へ顔を傾けた。

俺は何も聞かなかった。

聞いてしまえば、この部屋に置かれた歯ブラシが、
明日の朝には消えている気がしたから。

自宅の玄関まで送る。
扉を開く。
白いうなじに目をやり、
そのまま視線を落とした。
一番目の男の靴がある。
体の中で何かが這いずり回る。
気づけば、彼女がこちらを見ていた。

「……いや?」

その声で、息を吐いた。

「まさか」

笑ったつもりだった。
手を伸ばし、彼女の髪を結いていたゴムを外す。
落ちる癖っ毛から、俺と同じシャンプーの香りがした。
肩の力が抜ける。

「これ、頂戴」

口元に持っていくと、目を閉じる。
香りが強い。

「……いいよ」

その声に、心が満たされる。

扉が閉まる。

一人になった廊下で、髪ゴムを指に絡ませる。
外して、また絡ませる。

そのままポケットに入れて、背を向けた。









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