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『ホラーが書けない』15話 異性と仲良くなるのは難しい?【Web小説】

第15話 自分から踏みださないと始まらない

 ふ―――。
 思い出しても恥ずかしいぜ。

 ともかく、俺――紫桃しとう――がコオロギ――神路祇こうろぎ――と出会ったのは職業訓練だった。

 えっ?

 「それで俺らがどうやって仲良くなったのか?」って?

 気になるか?

 ん―――。

 じゃあ今度はその話だ。


 職業訓練ってさ、受講生は就職に焦っていて就活に向けてぴりぴりしているイメージがないか? ところが意外なことに俺が通った訓練はゆるかった。

 職業訓練は朝から夕方まで座学や実践を学ぶが、授業が終わるたびに10分から15分程度の休憩時間をはさむ。そして昼休みは1時間ある。

 座学の授業は講師の声しか聞こえず居眠りを誘うくらい静かだが、休憩に入るととたんに教室や廊下で雑談に花が咲く。まるで高校のようなところだった。

 でもはじめのうちは、互いを様子見している変な緊張感があったよ。まったくの他人だし、年齢も性別も違うから当然だよな。堅苦しい状態で毎日すごすのはキツイかもと思ったけど杞憂きゆうだった。最初の週末にあった懇親会で受講生同士の仲は一変したんだ。

 受講生が企画したのか、それとも訓練校側の配慮なのかは不明だが、いつの間にか懇親会という名の飲み会がセッティングされていて、クラス全員が参加した。

 スタート時点はぎこちなかったけど、みんな社会経験があるのでコミュニケーションをとり始める。次第に親密度がアップし、宴会が終わるころにはむかしからの友人のようにノリノリの受講生もいた。

 これぞ飲みニケーションってやつだ。この日を境にクラスに漂っていた緊張感はなくなり、高校の教室のような雰囲気になった。

 職業訓練は学生の時分に戻ったようで毎日が楽しく、俺は再就職に向けて意欲がわいていた。そして色恋事にも期待したい。当然、一目惚ひとめぼれしたコオロギが気になり、恋への発展を想像した。

 俺は恋に関しても用心深いところがあり、すぐにアプローチ開始とはならない。まずはコオロギの為人ひととなりを観察する。コオロギは地方から東京にでてきたばかりで田舎者丸出しだった。

 俺の周りでは地方出身を隠そうとする人が多かった。ところがコオロギは気にしてるようすはない。またこれまで会った地方出身者は、遠慮がちな性格でコミュニケーションに苦労していたけど、コオロギは老若男女の区別なく自然体でクラスメートに接していた。

 コオロギは美人なので黙っているとクールな感じがして近寄りがたい。ところが話をするときは人なつこい笑顔になり、さわやかな空気をまとう。年配の受講生にしてみれば娘や息子に近い年齢だから、めんどうをみたくなるようで可愛がられていた。

 集団の中に入るとコオロギは聞き役タイプで埋もれてしまうけど、クラスから浮くことなく輪の中にいる。教室ではだれかと一緒にいることが多いが、ふいといなくなって一人で行動していることもある。たいていは他人の目を気にして集団行動をとるというのに、マイペースで行動できるコオロギに好感がもてた。

 数日観察したあと、俺はコオロギに初めて声をかけた。

 もはや話した内容は覚えていないが、コオロギは敬語で受け答えをしていた。俺は年上には敬語を使うけど、同世代だと親しみやすさもこめてラフな感じで話すようにしてたから堅いなと感じた。でも話す回数が増えていくと、だんだんとくだけた口調で話すようになった。

 コオロギの容姿は俺の好みだ。クール系美人なのに笑ったときは、あどけなさも見える。落ちついていて包容力があり、陰で支えてくれるような……。そんな俺の勝手な理想はすぐに幻想だと気づいた。

 コオロギのは残念……失礼、ユニークなものだった。口調は男友達とほぼ同じで、初めて間近で耳にしたときは、画家ムンク氏の絵画『叫び』のように、顔に手を添えて「男口調はやめてええぇぇええ」と頭の中で絶叫した……。

 男口調を聞いてショックを受けていたところに、さらに残念な事実を知る。

 コオロギの話は言葉足らずでわかりにくいうえに、思考回路は小学生男子レベルの子どもっぽさがあるのだ。外見と会話のギャップに、俺は画家ダリ氏の絵画を初めて見たときのように、えも言われぬ衝撃に襲われた……。

 話すたびに俺の中にあった聡明でひかえめなコオロギは、がらがらと崩れていった。コオロギのユニークぶりは、この小説を読んでいけばわかってくる。だからここでは実況しないよ……。

 とにかく、コオロギと知り合ってしばらくの間は、「その口調で話すのはやめてぇ!」「なんだその小学生思考は! 俺の夢を壊さないでくれぇ!」と胸の内で叫んだものだ。

 でも敬語で話していたときにあった遠慮じみた感じがなくなり、コオロギの飾り気のない言葉には裏表がないことに気づいた。それからは腹を読む必要がなくて安心でき、俺はコオロギに対して遠慮しなくなった――。



 これが俺とコオロギとの出会いだ。

 漫画や小説だと、アクシデントが発生して異能者が華麗に登場ってパターンだろうけど、現実はそうじゃない。たまたま同じ時期に職業訓練を受け、たまたま同じクラスだったという偶然の出来事だ。

 ここでまた疑問をもった読者がいるんじゃないかな?

 ――そうなんだよ。この時点ではコオロギはユニークな美人という認識しかなかった。そこへある出来事が起こり、俺はコオロギが異能者だと気づくことになるのだ。



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【参考】
✎ ネットより

ムンク(エドヴァルド・ムンク)
 ノルウェー出身の芸術家。
 今回のエピソードに出てきた作品『叫び』は「The Scream」というタイトル。

ダリ(サルバドール・ダリ)
 スペイン出身の芸術家。


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カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle


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