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『ホラーが書けない』16話 友人は特殊な能力をもってるのでは…?【Web小説】

第16話 ふつうとは少し異なる勘の良さ

 俺――紫桃しとう――がいつ友人のコオロギ――神路祇こうろぎ――に異能があると気づいたのか。

 「わたし、霊感あります!」とコオロギが宣言したのではない。映画や漫画みたいに「モンスターが現れた! わたしが倒します!」という展開もなかった。

 じゃあ、なぜ異能をもっていると気づけたのか……。

 言うのはちょっと恥ずかしいけど、俺がコオロギに恋心を抱いてて、よく観察していたからなんだ。

 恋をしていたらさ、わかるだろ?

 気になるヒトの声が聞こえたら耳をそばだてるし、席を立てばどこへ行くのかなって一挙一動を追ってしまう。ちょっとした異変でもすぐに気づくし、どんなにささいなことでも覚えている。

 日々コオロギを見ていたから、俺が恋していたからこそ、異能があることに気づけたんだ。……念のために言っておくがストーカーじゃないぞ?

 では俺がコオロギに霊感があると知った経緯を書いていく――。



 当時の俺は職業訓練に通っていて、コオロギはクラスメートの一人だった。

 コオロギの容姿は俺の好みで訓練初日に一目惚ひとめぼれした。そこで仲良くなりたくて俺のほうから声をかけ、少しずつアプローチしていた。何度も話すうちに親しくなり、同じ年齢と知ったころにはだいぶ打ち解けていた。

 クラスメート20名は社会経験のある人たちばかりで全員が無職だった。再就職に向けた訓練はぎすぎすしそうなイメージがあるが、そうではない。学生の時分に戻ったときのように和気あいあいとすごしていて、授業が終わると勉強会という名の飲み会を行う受講生もいた。

 訓練が始まって1カ月もすぎたころ、またクラス全員での飲み会があった。小さなグループでの飲み会はちょくちょくあったけど、クラスでの飲み会はひさしぶりで全員の気分がうわついていた。

 宴会は盛り上がり、無事に終了した。俺もいい気分で酔っていて、帰り道もクラスメートと雑談を楽しんでいた。駅に着いてホームで電車を待っていたら、コオロギが俺のところにやってきたんだ。

 笑顔でいることが多いコオロギだが、このときは真面目な顔をしていた。俺の前まで来るとためらいを見せて視線を落とし、しばし無言でいた。それから意を決したように顔を上げたら「親孝行したほうがいい」と言ってきた。

 俺はぽかんとなった。それから親不孝者みたいに言われたことにイラッとして、酔ってたこともあり、怒り気味に「俺が親孝行してないみたいだな」とコオロギに返した。

 コオロギは失言に気づいて申し訳なさそうな顔になった。「そういうわけじゃないけど」とあわてて弁解し、うつむきかげんで視線を左右に動かしている。

 軽く握りしめた手を口に当て、焦った表情で思考をめぐらせていたけど、言葉が浮かばなかったようで「ごめんなさい……」と謝ってきた。それからコオロギは黙りこんでしまった。

 俺はワケがわからず、イラつきながらコオロギの反応を待っていたけど、そこへ電車が来たので帰路についた。

 このときは気づけなかったけど……
 コオロギの言葉足らずだったんだよな。

 嫌なことを言われた翌週もいつものように職業訓練に向かった。コオロギとはずいぶん親しくなっていたけど、あの言葉にはムカついた。休みが明けても俺の中でくすぶっていて、コオロギを避けるようにしていた。

 そんな状況が数日続いていたときに連絡が入ったんだ。

 夜にスマートフォンが鳴った。連絡は母からで珍しく遅い時間だ。通話に出ると「お父さんが入院した」と告げられ、俺は言葉を失った。

 頭の中で「入院した」という単語がめぐり、母がスマートフォンの向こうでなにか言っていたけど聞こえてなくて……。そのあと、どうやってすごしたのかもあやふやだ。


 翌朝、始発の電車に乗って実家へ向かった。一晩たったから気持ちも落ちつき、メッセージのやり取りでだんだんと状況がわかってきた。

 父は風呂から上がったあと心筋梗塞で倒れた。物音に気づいた母が発見し、すぐに救急車を呼んだから一命をとりとめた。俺にすぐ連絡しなかったのは動転してスマートフォンを家に忘れていたからだ。父の容態が安定し、入院に必要な着替えを取りに帰ったタイミングで連絡してきた。

 無事がわかって安心した今なら余裕があるけど、きのうは頭が真っ白になって、なにも考えられなかった。父とはそんなに仲がいいわけではないが、親の死に直面すると怖くなった。

 もう会えない……のか?

 嫌な考えがよぎり、親孝行していないという後悔の念がわく。同時にあの日のコオロギの言葉が浮かんだ。

『親孝行したほうがいい』

 コオロギが俺に言った台詞せりふは、まるでこの日が来るのを知っていたようなタイミングだ。それによく考えれば、コオロギは嫌味を言うやつではない。純粋に今のうちに親孝行しておいたほうがいいと助言したのでは……?

 地元へ向かう電車の中、父の体調を気にしながらもコオロギがあのタイミングで言ってきたことが引っかかって、ずっと考えていた。



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 神無月そぞろ @coinxcastle


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