『ホラーが書けない』17話 マジか! 身近にいた異能の持ち主【Web小説】
第17話 友人に特殊な能力があると気づいた瞬間
電車に座り、車窓を見ているが景色は頭に入ってこない。
俺――紫桃――の頭の中はコオロギ――神路祇――の「親孝行したほうがいい」という言葉がずっとリピートしている。不安になるので別のことを考えようとするけど、どうしても嫌な展開を考えてしまう……。
父が倒れて緊急入院したので地元へ戻っているが、乗っている電車が異常に遅く感じる。ただ移動することしかできないもどかしさにイラつき、不安を感じながらやっと郷里に戻った。
病院に到着したとき、病室に入るのが怖かった。弱々しい姿の父を見るのが嫌だったからだ。しかし対面した父は想像していたよりも元気で心底ほっとした。「この死にぞこないが」とか軽口をたたくような話をしつつも、最悪な事態にならなかったことに感謝して、涙がでそうになるのをこらえていた。
父の容態は安定していたが、付き添っていたくて訓練校には数日休む旨の連絡を入れていた。実家から病院へ通う日を送っていたが、父の病状は良好だと医者が判断すると、母は俺に東京へ戻るように言ってきた。
俺が職業訓練に通っていることに気をきかせたのだろう。父の入院を機に、親を安心させるために早く就職しようと決めていたから素直に甘えた。日曜に父の見舞いを終えたらその足で東京へ戻った。
月曜から以前と変わらず職業訓練を受講する日々が始まった。
数日休んだだけなのに、かなりひさしぶりに感じた。そしてコオロギを見るのも、ずいぶんひさしぶりに思えた。
俺はコオロギに聞きたいことがあった。休憩中は人の目があったので遠慮していたが、昼休みに入り、コオロギが教室を出て一人になったのを見計らって単刀直入に質問した。
「あのさ、父親が入院したんだけど……
こうなるって知っていた?」
自分でもばかなことを言ってると思ったけど、なぜかコオロギは知っていたような気がしたんだ。
突然問われたコオロギは言葉に詰まり、目が泳いで返答に困っていた。知っていたんだとなぜか納得できて、言いたくなさそうなコオロギに追求はしなかった。
俺に刺さった言葉『親孝行したほうがいい』。
この一度だけならただの偶然ですませられた。コオロギに異能があるなんて思いつかなかったはずだ。でもこの前にも、コオロギの言動に引っかかるものを感じたことがあった。
「鍵、忘れないで」
喫煙所から教室に戻ってきた俺に、自席へ向かっていたコオロギがふり向いて突然言ってきたんだ。
いきなりで驚いたけど、念のためポケットをさぐってみたら家の鍵がない。煙草を吸おうとライターをさがしたときに取りだして、長椅子に置いたことを思い出し、あわてて喫煙所に戻った。
コオロギは煙草を吸わないから喫煙所に行くことはなく、俺が鍵を忘れたなんて知るよしもないはずだ。どうしてわかったんだと引っかかりはしたけど、授業が始まると忘れてしまった。
この鍵のことは「偶然」で片づけ、すっかり忘れていたが、父が倒れることを予知したような言葉を受けて、俺の中で点と点が結びついた。それでコオロギにさっきの質問を投げたんだ。
明確な返事はもらえなかったけど、この二つの出来事からコオロギには常識では考えられない不思議な能力――異能があるのではと思うようになっていた。
これが俺がコオロギに異能があると気づいた経緯だ。
今までの常識が通じない異能をもっているコオロギ。俺はもっと知りたいと思うようになり一緒にいる機会を増やした。するとコオロギの周りでは不思議な現象が起きていて、俺のような零感の者とは明らかに違う世界を見ていることに気づく。
同じように日本で生活しているのに、異なる世界を視ている――。
この違いに興味がわき、これまで見向きもしなかったホラーやオカルトの情報を集めるようになり、コオロギの体験を聞きだすようになる。
はまっていく世界は広くて深い。コオロギの話は尽きず、あまりの数の多さにせっかくだから記録しておこうと思い、俺はノートに書いて残すようにしていった。
俺の部屋にある本棚を見れば奇譚が書かれたノートが並んでいる。ノートの数を見れば、かなりの数になるだろう。このまま眠らせておくのは惜しいので、体験をもとにしたホラー小説として書いてみようと考えが浮かび、今に至っているというわけだ。
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