『ホラーが書けない』5話 「怖い」の感情に温度差があるのはなぜ?【Web小説】
第5話 恐怖体験しても怖いと思わない思考の謎
小説を書くために部屋にある本棚へ向かい棚をあさる。ペラペラと中身を確認して何冊目かで求めていたデータを見つけて机に戻った。
俺――紫桃――が手にしているのはノートだ。ここにはこれまで集めてきた奇譚がまとめられている。表紙に「No.7」と書かれているからこれは7冊目で、棚にはまだ数冊のノートが並んでいる。改めて見るとけっこうな数になったものだ。
俺が集めている奇譚の情報源はたった一人から得たものだ。話をしてくれた人物は俺の友人で、コオロギ――神路祇――という。コオロギは世間でいう霊感もちで、よくもまあ、こんなにと感心するほど、さまざまな不思議現象に遭遇している。
コオロギの体験はホラーが多いけど時には感動ものもあり、零感の俺には知りえない世界にいつも引きこまれる。ファンタジーを読んで、どきどきしていた子どもの時分と同じ気持ちになるけど、怪奇ものだけは慣れない。
俺はホラーを中心に体験談を集めているが怖いことはニガテだ。それなのになぜホラーに興味をもっているのかといえば、未知のことを知りたいという思いが強いからだ。
恐怖より好奇心が勝っているとはいえ、ニガテなものに対して簡単に耐性がつくわけではない。だからコオロギが遭遇した怪異を聞くたびにぞわぞわしている。おまけに俺は想像力が豊かで、自分自身に置き換えてしまうから気味が悪くてしょうがない。
コオロギが体験してきたホラー系の出来事は、俺には絶対降りかかってくるなと願う内容なのに、コオロギはあまり怖いと感じないらしい。そのせいでホラーがコメディー化するのはしょっちゅうで、ホラー小説のネタを求めている俺には頭の痛いことだ。
それにしても俺は怖いと思うのに、なぜコオロギは怖いと思わないのか?
感覚の違いを不思議に思い、コオロギに質問したことがあったっけ――。
「前にさ、見えないナニカに手を引っぱられたって言ったよな。
無言のまま急に腕を引かれたのに、コオロギは怖いと思わないのか?」
するとコオロギはこう答えた。
「見えないから怖くないし、不思議ではない」
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うん、大丈夫だ。
読者が言いたいことはわかっている。
コオロギは言葉足らずだ。
現状だと、なにが言いたいのかわからないよな?
ご安心を。
ちゃんとコオロギから詳細を聞いてみたら、こういうことだった。
『見えないから形相がわからなくて怖いかどうか判断できないし、声も聞こえないから相手の意図することもわからない。だからリアクションの取りようがない。それに妖からちょっかいを受けることはままある。いちいち気にするようなことではない』――と。
コオロギにとって腕を引っぱった姿なきモノは、窓から入ってきた突風と同義のようで、体に感じた圧に驚きはするけど別段気にするものではないらしい。
でもなあ、『よくあるから怖くない』って……。
俺なら恐怖体験を何度もしたら、外へ出るのが怖くなって家に引きこもるぞ?
コオロギの考えはわかったけど、恐怖に対する温度差が違いすぎる。奇妙な体験をしてもあまり恐怖を感じていないコオロギは、恐怖心がないのかと思ってしまう。そこでなにに対して怖いと感じるのか聞いてみたら……
「怖いと思うものはあまりないな~。
でも生命の危険がありそうな場合は恐怖を感じる」
――と返ってきた。コオロギってシンプルだ。
長くなるからここでいったん区切るけど、「恐怖」の分析はまだまだ続くぞ。
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