『ホラーが書けない』6話 恐怖心はどこから発生するのか【Web小説】
第6話 先天? それとも後天?
人によって度合いが変わる「恐怖心」。
「怖い」の感情に温度差があるのが気になって、俺――紫桃――は友人・コオロギ――神路祇――と話をしたことがある。
俺は閉所や高所が怖い。つり橋など高い場所に立つと、安全と言われても血の気が引き、手に変な汗をかいて動悸が速くなる。そのうち全身に汗がでてきて、その場にいられなくなる。安全なのになぜ怖いのかと聞かれても、俺は怖いからとしか答えられない。
そんな経験から怖いという感情は、本能で先天的なものだと思っている。でもコオロギを観察すると、俺の説は合致しない部分がある。先天ならコオロギも俺と同程度の恐怖心があるはずだからだ。
恐怖に対する温度差が不思議で、俺はコオロギと意見を交わした。テーマはわざとしぼって、
「恐怖心が発生するのは先天と思う? それとも後天と思う?」
――というものだ。
俺は「恐怖」は身を守るための本能的な感情だから、先天的な部分が大きく影響するだろうと考えを述べた。対してコオロギは俺と意見が違った。
コオロギは情報が増えていくうちに「これは怖いものだ」と学習して、恐怖などの感情が生まれるんじゃないか――と。つまり後天だ。その結論に至った理由を聞くと、こう言ってきた。
「以前は蜘蛛を怖いと思わなかったんだ。
蜂や蝶と変わらなくて、家の中で大きな蜘蛛を見ても、いるな~くらいの存在。
でもタランチュラの動画を見たら大きい蜘蛛がニガテになった。
捕食と食事のシーンがね、えぐいんだよ」
⁘ は――い、ちょっと中断するぜ? ⁘
このとき、コオロギは恐怖を感じたという、タランチュラの捕食と食事のシーンを事細かに話してくれたんだ。でもグロかったので小説ではカットしてる。気になるんだったらネットでさがしてくれ。あ、でも自己責任で見てくれよ? では続きだ。
「大きな蜘蛛に咬まれたら痛そうなのと、食べられる側から見たタランチュラが怖くてね、それからは大きい蜘蛛が気味悪く映った。
一度怖いと思ったらもうダメで、好きな要素が見えなくなる。はじめは避ける程度だったけど、どんどん怖さが増していったよ。
それにセアカゴケグモみたいに危険な蜘蛛の存在も知ったから悪循環だ。
今は足の長いデカイ蜘蛛を見ると怖くて秒で逃げるようになった」
とまあ、コオロギが後天説をとるのは体験からきている。リアルだから興味深い意見だ。
コオロギの蜘蛛に対する恐怖を俺なりに分析すると、
蜘蛛が目に入る
▼ タランチュラの捕食&食事シーンを思い出す=怖いタランチュラのように大きめの蜘蛛は危険かも
▼ 危害を加えてくるかもしれない逃げろ!
こんな流れで恐怖心が発生しているのかもしれない。この考えでいくと、姿が見えない妖に腕を引っぱられた場合は、
手を引いた相手は不明
▼ 視覚・聴覚の情報がない=なにもいない判断材料がない
▼なら、どうでもいい
コオロギの思考回路はこうなっているのかな?
俺の場合は全然違う。
コオロギと同じ体験をしたら、こんなふうに考えるぞ。
手を引いた相手は不明
▼ 視覚・聴覚の情報がない判断材料がない
▼ 危害を加えてくるかもしれない=怖いとりあえず逃げろ!
正体がわからないと、好意的なのか敵意をもっているのか判断ができない。そこに俺は恐怖を感じてしまう。理由はやっぱり防衛的なことで、突然攻撃してくる可能性があるから警戒するんだ。
まとめると、俺の場合は警戒心から身を守ろうとする傾向がでる。つまり身を守るという生存本能から恐怖心が生まれるという流れがあるから、恐怖を抱くのは先天的と思うんだが……。
ちょっとした疑問から始めた恐怖心の先天か後天かの意見交換はおもしろかった。違う視点からの意見がもらえて感情の仕組みを知る参考になる。
ほかにも互いの考えを比較すると、いろんな発見があるかもしれないな。
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【参考】
✎ ネットより
タランチュラ:
国外に生息するオオツチグモ科に属する蜘蛛の俗称。成長すると最大28センチになる個体もいる大型の蜘蛛。
セアカゴケグモ:
毒グモ。咬まれると数分後に強い痛みがでてくる。ほかに発汗・発熱・発疹の症状が現れる人もいるらしい。
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