『ホラーが書けない』22話 アナタも幽霊などのアヤカシを見てるかも【Web小説】
第22話 アヤカシが「視える」と「見えない」の差はなんだろう?
俺――紫桃――には異能をもつ友人がいる。異能は仰々しいか。まあ、簡単にいうと霊感があるという意味だが、その異能者・コオロギ――神路祇――と新宿の店で飲んでいたら、珍しく視えたようで店員のことを褒めていた。
小説や漫画、映画に登場する霊感がある人って、幽霊とか妖怪など妖の類いが視えてることが当たり前のパターンが多いよな?
ところがコオロギの異能は変わっていて、妖の姿を視ることは少なく、なにもない所から獣のニオイを感じたり、姿が確認できないモノがコオロギの髪や腕にふれてきたことを感知するというパターンが多い。
だから今回のようにコオロギに視えた経験が増えることは、俺にとってありがたい。
ん? なんで『ありがたい』のかって?
おいおい~、忘れたのか?
俺はコオロギの体験をもとにホラー小説を書いている。でも妖を視たという体験談は少ないからとても貴重なんだ。
ちなみにコオロギの異能をわかりやすく五段階の★で表すと、こんな感じになる。
異能スペック
視覚:★★
聴覚:★
触覚:★★★
嗅覚:★★★★★
味覚: ―
★の数=コオロギの奇妙な体験
コオロギは圧倒的に嗅覚に関する奇譚が多く、次に触覚が続いて視覚となる。
俺自身は零感なので、この世界が異能者の目にはどんなふうに映っているのか知ることができない。でもネットや書籍、漫画や映画などの情報から、霊感があれば妖が視えるのは当たり前と思っていた。だからコオロギの異能に偏りがあって、視ることは少ないと知ったときは衝撃を受けた。
未知の世界は俺を引きつける。なにが視えていて、どんな風景なのか。視えているときの異能者の状態はどうなっているのか。知りたくてうずうずしてくる。
コオロギから妖を視た話を聞いたときに、俺はコオロギと視えることについて考察したことがある――。
「紫桃は物が見える仕組みって知ってる?」
「幽霊は見えないけど物が見える仕組みは知ってるぞ。
物を見るには光が必要で、光がない暗闇では物はおろか自分の姿すら見えない。
俺たちが見ているのは、物に光が当たって反射した色をとらえていて、物体の形までわかる仕組みだ」
「さすが紫桃!
なら、同じパーツをもってて幽霊が視える人と見えない人がいることを不思議に思ったことはないか?」
『パーツ』って……。人体の組織を機械のように言うなよ。
これだからパソコン慣れしているやつは……。
「確かに角膜・水晶体・網膜など目の構成は一緒だ。
正常な組織なら同じように見えていてもおかしくない。
どうして違いがあるんだろう?」
「自分の考えだけど、視えてても気づいていない人はけっこう多いと思う」
「幽霊が視えていても気づいていない?
なんでそう思うんだ?」
「フォーカスだよ。
例えば自分と紫桃が同じ場所に立ち、渋谷の街風景を見ていたとする。紫桃は道を行く女の子をとらえて、自分は店の前にいる猫に目がいく。
この場合、紫桃のフォーカスは女の子に合っていて、ほかは背景となり、猫の存在すら気づいていないかもしれない。そして自分は猫にフォーカスが合っている。ただ女の子は猫よりサイズが大きいから存在は認識されるけど詳細まで覚えていることはない。
フォーカスを合わせた対象に対しては、詳細まで注意深く観察するけど、その他もろもろは背景と処理されてしまうから認識されにくいんだよ。
これに当てはめると、街の中に妖がいて視野に入っていたとしても、フォーカスが合っていないから、妖と気づいていないパターンがけっこうありそう」
「言いたいことはわかったが……
俺を女好きのように言うのはよせ!」
「ごめん、ごめん。
わかりやすくていいかなと思って(笑)」
「ったく」
「まあまあ。お詫びって言っちゃあなんだけど、おもしろい体験を話すよ」
なんだと!?
しらふのときに、コオロギのほうから進んで体験談の提供だと!?
不吉なことの前ぶれか!?
ちょっと怖いぞ!
でもとりあえず、気が変わらないうちに聞いとけ!
「しょ、しょうがないなあ。それで許すよ」
本当は叫びたいくらい興奮しているけど、気持ちを抑えてコオロギが話し始めるのを待った。
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