『ホラーが書けない』23話 人混みに立ち続けるあのヒトはアヤカシなのか?【Web小説】
第23話 霊とすぐには気づかない。でも違和感がある
しらふのときだと奇譚を話したがらないコオロギ――神路祇――が妖に遭遇した体験を話そうとしている!
こんなことはめったにないから、俺――紫桃――はコオロギの機嫌を損ねないように用心しながら聞く体勢に入った。
「新宿駅ってさ、東京の中でも利用者が多いし、小田急線や京王線、地下鉄もあるから改札を出ても人でごちゃごちゃしている。新宿西口側の地下通路を通ったときのことなんだ」
「新宿西口の地下通路……。
ああ、あそこって人が多すぎるよな。
たまに対面した人と進行方向がかぶる『お見合い』を、何度もしている人を見たら、東京に来たばかりで人混みに慣れてないんだろうなあと思ってしまう」
「自分はよくやるけど」
「…………(まだ慣れないのかよ)」
「とにかく、その日の新宿西口も往来する人であふれていたよ。
東京の街を歩く人たちは動きが早く、あっという間に通り過ぎるから印象に残る人なんてあまりいないけど、雑踏の中で目にとまった人がいたんだ。
その人は四角張った顔をした男性で、白髪交じりの髪は肩に届きそうな長さをしている。櫛を通していないのか髪は全体的にくたびれてて、風が吹いたあとのように髪の一部が顔にかかって乱れていた。服装は山伏が着るような白い衣装を身につけていて、目を大きく開いて身じろぎもせず、柱を背にした状態でいた。
今風ではないので、ちょっと浮いてるなと思ったけど、このときは変だと思わなかったんだ」
「えっ? 変わっているよ!
山伏みたいな格好してたら違和感ありすぎだろう?」
「紫桃は東京に住んでいたときに、新宿駅周辺で袈裟姿のお坊さんが托鉢しているのを見たことない?」
「見たことあるぞ」
「今でもたまに托鉢してる人を見かける。
その人も同じようなことをしていると思ったんだ」
「なるほど。
じゃあ、コオロギはいつその男が妖と気づいたんだ?」
「帰りの電車で『そういや、ひさしぶりに托鉢している人を見たな』と浮かんだことがきっかけ。その人は普通と違ってたから妖と気づいた」
「普通と違うって、なにが違っていたんだ?」
「まずその男性は目立っていたんだ。踏み台に乗っているみたいに頭二つ分くらい高い位置にいた。胸あたりまで姿が見えていたから存在に気づけた。
そして周囲との遠近感が妙で、周りの人よりもひと回りくらい姿が大きかった。くわえて全体的に色素が薄くて一人だけモノトーンのように見えていた。色彩が多い中に一人だけ白黒だと目立つから違和感をもったよ。
最終的に妖と判断したのは、現実にはありえないとわかったからなんだ。
立ち止まっている人がいると、歩行者はぶつからないようによけていく。遠目でもその行動はわかる。でもその人の周りはすいすいと人が通っていたんだ。厚みがないと気づいて実体のない妖とわかったよ」
「なるほどなぁ」
「思い出さなければ妖と気づかず、変わったヒトのまま終わっていた可能性が高いタイプだった。
妖ってさ、特別扱いになっているけど、ほかの人たちも実は視ているんじゃないかな?
ただ違和感がもてなくて、ソレが妖だと認識できていないだけなのかも」
ここまで話すとコオロギは首をかしげた。顎に手をやると、黙りこんで思考をめぐらせている。少しして口を開いた。
「ほ――ん……。話してるうちに疑問がわいた。
新宿西口で見かけた妖のコト、勝手に山伏と思って、山伏の衣装を着ていると判断していたけど、白い服はもしかしたら死装束だったのかなあ?」
「…………」
「ん? 紫桃、なんで黙ってるの?」
「……怖いんだよ……」
「えっ、怖いか?」
「怖いよ! なんでコオロギは平気なんだ!?」
以前なら霊なんていないと思っていたから、幽霊の類いを視たという話を聞いても怖いと思わなかった。しかしコオロギの体験談や一緒にいたときに俺自身も体験してしまった不思議な現象などから、コオロギの話す妖は存在すると知っている。
今話したその不気味な男は新宿にいるんだろう?
得体のしれない霊体がいたら、見えなくとも怖いに決まってるじゃないか!
ビクついてる俺の横でコオロギは涼しい顔をしている。
「すぎたことだし、害もなかったからなあ。
んじゃ、安心させてあげるよ。
もしかしたら新宿駅で見たのはただのコスプレかもしれない」
「なんでだよっ!」
「だってさ、東京っていろんな服装の人がいるじゃん?
アニメキャラやゾンビの格好をしている人がいても驚かないよ。
だから最初に見たときも、妖方面ではなくヒトだと思ったんだ」
確かに東京だと奇抜な格好をしている人は多い。見たときは釘付けになるけど、わりといるから珍しいとは思わない。そんな街では人の姿をしている妖を幽霊と判断するのは難しいかもしれない。
コオロギの楽観的な考えを聞いてビビっていた俺の不安は薄らぐ。気持ちに少し余裕がでてきたので、これを機に奇譚をいろいろ聞いてやろうと思いついた。
「コオロギ、もっと不思議な体験を話してくれよ」
「やだよ、恥ずかしい」
「『恥ずかしい』? なにが?」
「恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!」
「基準がわからないぞ!」
コオロギの思考回路は理解不能なところが多すぎる!
しらふのときに体験を語りたがらない理由が「恥ずかしい」だと!?
エロそうな百〇やB〇の漫画は堂々と買うくせに、恥じらう部分が違うだろっ!
⋯⋯⋯✎ 紫桃のメモ ⋯⋯⋯
〇〇年〇〇月〇〇日
コオロギからの情報
・新宿駅西口の地下広場あたり
・白い和装姿の男性幽霊が出没する
⋯⋯⋯⋯⋯⋯✐
_________
【参考】
✎ ネットより
新宿駅について:
新宿駅はJR東日本の統計データによると、乗車人員第1位となっている。
JR東日本「各駅の乗車人員 駅別乗車人員(ベスト100)」
1位 新宿駅(77万5386人)
2位 池袋駅(55万8623人)
3位 東京駅(46万2589人)
※数字は「乗車した人」の一日平均。2019年度のデータより
※JR東日本のWebサイトより
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