『ホラーが書けない』25話 スマホ怪異【Web小説】
第25話 写真を撮ろうとフレームを見ると
手が届くところにネタの詰まった宝箱がある。これはクリエイターにはうれしい状況だ。しかし頑丈な鍵がかかっていて開かない――と、うまく事が運ばないのが世の常というものだ。でもたまにやさしい手が差し伸べられることもある。
俺――紫桃――は霊感のある友人・コオロギ――神路祇――の体験をもとにホラー小説を書いているが、コオロギはあまり体験を語りたがらない。だから毎回苦労してるというのに、今夜はコオロギのほうから機嫌よく話し始めた。
ARっぽい妖に遭遇したというけど、状況が想像できないからわくわくしている!
「電車は日本各地で見かけるけど、一般道の上を走る路面電車はなかなか見ない。そんな珍しいものが東京で走っていると知り、出かけたついでに乗ってみた。
いつも使っている電車と違って路面電車から見る景色はおもしろい。乗用車やバスと同じように一般道を走るから、スピードはあまり出てなくて、のんびりと都市の景色が流れる。
一車両のサイズが小さいから車内が狭いところも新鮮だ。使い古された座席があって吊り革が下がっている状態はまるで公共のバスのよう。最新設備が見当たらないところはノスタルジックで落ちつく。
たまたまなのか、もともとなのか乗客は少なく、しかも次々と降りていくのでどんどん人は減っていく。いつも利用してる電車のせわしく人が行き交っている様とは正反対だ。ふだんはゆっくり見ることがない景色を楽しみながら最終駅まで乗車した。
終点に着くと車両内にいた乗客は全員降りていった。乗客がいなくなったのを確認して車両から降り、人がいなくなったホームでスマートフォンを取りだした。
初めて路面電車に乗った思い出に車両の写真を撮っておこうと、スマートフォンのカメラを起動する。構えてフレームを確認すると人の姿が映った。
車両の向こう席に、青い半袖のシャツと青いハーフパンツ姿の少し太った人が座っている。どうやら電車が発車するのを待っているようだ。
無断で撮影するわけにはいかないので、車両の写真を撮るのは諦めてスマートフォンをしまい、ホームの出口へ向かった。
少しして、ふと気づいた。
車両から降りるとき、中にだれもいないのを確認したよな?
自分が降りたあと、ホームにはだれもいなかったはずだよな?
ホームを歩きながら矛盾に気づいて困惑したけど、わざわざ戻って車両内を確認するまではないかと思い、ふり返ることなくホームを出た」
思い出すように話していたコオロギが俺を向いた。
「ね? まさにARっぽい妖でしょ。
だれもいないことを確認したあと、スマートフォンのカメラで視たときに出現したんだよ」
「…………」
「どうしたの、紫桃。なんでだまっているの?
今回のは怖くないでしょ?」
「……怖いよ……」
「へ? どこが?」
「スマートフォンで写真が撮れなくなるじゃないか!」
コオロギは笑っているけど、俺には笑えない出来事だ!
俺はカメラを趣味としていて一眼レフでよく写真を撮る。でも大きな一眼レフは荷物になるから平日はスマートフォンを使っている。街中で写真を撮ろうとしたときに、妖が画面に映りこんでいたりしたら……。
嫌すぎる! 怖すぎるわ!!
俺が想像でぞくぞくしていると、のんきな調子でコオロギは言ってきた。
「ヒトだと思ったから写真は撮らなかったけど、撮っていたらおもしろかったかも」
「よせよ、幽霊を撮るなんて気持ちが悪いじゃないか!」
「幽霊?
え~? あれは猫じゃないの?」
「なんで猫なんだよ!」
「動物が人を化かすって言うでしょ?
東京で狐は見たことがないから、身近にいる猫が化けたんじゃない?」
「そんなワケあるかあ!!」
「え~? じゃあ、ハクビシンか狸かな?」
「なんでハクビシンがでてくるんだ?」
「都内でハクビシンが目撃されていて、自分も見たことがある」
「そうじゃなくて、狐や狸が人を化かす昔話は聞いたことがあるけど、ハクビシンも化けるのか?」
「猫に狐、狸が化けるんなら、ハクビシンも化けていいんじゃない?」
「…………いや、待て。そもそもおかしい。
コオロギには『幽霊』という選択肢はないのか?」
⋯⋯⋯✎ 紫桃のメモ ⋯⋯⋯
あやかし情報
・都内、路面電車の車両内
・スマホのカメラフレームに映る幽霊(?)がいる
⋯⋯⋯⋯⋯⋯✐
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【参考】
✎ ネットより
AR(Augmented Reality:拡張現実)
現実世界に仮想世界を重ねる技術。
ハクビシン:
東南アジアからアフリカなどに生息するジャコウネコの仲間。日本にも生息しており、在来なのか外来なのか不明らしい。
頭から尾までの全長は約90~110センチ。体は黄褐色(茶色系)で、頭部は黒色だが鼻すじから線のように白色となっている。
※ハクビシンは「生態系被害防止外来種リスト」(環境省/農林水産省)の重点対策外来種に該当している
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