『ホラーが書けない』26話 霊感は伝染すると聞くけど…【Web小説】
第26話 霊感がある人の近くにいると、幽霊が視えるようになるのか?
新宿の居酒屋で俺――紫桃――は、ほくほく気分で友人と会話を楽しんでいる。
ふだんは奇譚を話したがらない友人・コオロギ――神路祇――が饒舌になっており、次々と話してくれるからだ。こんな機会はめったにない。だからこれ幸いと俺は質問して体験談を引きだしている。
話に花が咲いていたところ、お店のスタッフがやって来た。
「お話し中に失礼します。
2時間の飲み放題がそろそろお時間になります。
なにか注文なさいますか?」
えっ! そんなに時間が経っていたのか!
俺がビールを頼んでコオロギはソルティドッグを選ぶと、すぐに運ばれてきた。冷えたビールを飲みながら、周りの会話に耳をそばだててみる。
ほかの客は職場でこんなことがあったとか、出かけてこんなことしてきたなど、近況を話していて、みんな楽しそうにしている。
周りからすると、俺たちはさっきからずっと奇妙な会話をしている変なやつらと思われてるんだろうなあ。でもな、大真面目に「幽霊とは」で議論してるんだ。
「紫桃はどんなのを『幽霊』っていうんだ?」
「幽霊は人が亡くなり、肉体が焼かれてこの世に存在しなくなっても、未練があるため現世に残った人の精神というか、魂のことじゃないのか?」
「紫桃もその考えか。
正式な定義はわからないけど、一般に死んだ人の想いが残ってヒトの姿で現れるのを『幽霊』と呼んでいるよね。
じゃあさ、幽霊の目的はなんだと思う?」
「未練の解消かな?
やり残したことをなんとか成就させたい……とか?」
「そうなるよね。
それなら電車内にいきなり現れた青い服を着たヒトっぽいのは動物が化けたものだよ」
「矛盾しているぞ。人の姿をしていたんだから幽霊だろう?」
「スマートフォンのカメラフレームに映ったモノはヒトに見えた。
でもそいつは長椅子に座っているだけで目的はなさげだった。
幽霊の存在理由が未練なら、登場したからには自己主張してくるでしょ?」
「座ってるだけでなにもしなかったから未練がないと判断したのか?
それだけで未練がないと決めつけるのは単純すぎないか?」
「自分の感覚だけど、そいつからは悲しいとか悔しいなどの激しい感情はないようだった。
椅子に座って車両の外を眺めるだけで動くようすはまったくない。電車が発車するのを待っているといった感じで、自分が立ち去るときもなにもしてこなかった。
それに妖と気づいても、怖さはまったくなかった。あれは愉快犯的なもので、動物が化けてみて、ニンゲンがどんな反応するかなとイタズラを仕掛けてきたんだよ」
「…………(そうなのか?)」
「でも100パーセントの確証はないなあ。
そいつの表情までは見えなかったし、妖が視えるコトは少ないから比較できるサンプルも少ないし――」
カクテルを飲みながらコオロギの独り言が始まり、分析モードに突入したようだ。
友よ、なんでキミはいつもそうなんだ……?
幽霊でも動物が化けたモノでも、俺だとパニックになる怪異だぞ。
冷静に分析をしてるコオロギが一番怖いわっ!
コオロギは異能者、いわゆる霊感がある人で、幽霊や妖怪などの類いとの遭遇体験を何度もしている。そんな正体不明なモノをまとめて「妖」と呼んでいるけど、動物が化けるなどの妖怪の類いと、ヒトの魂がもとになっている幽霊は異なる枠になっているようだ。
さまざまな怪奇体験をしているこの友人は、零感の俺から見ると霊感がある人なんだけど……。
「やっぱりコオロギは霊感があるよな。
妖が視えてるじゃん」
「霊感じゃない!
視えたのはバグだよ! たまたまだよ!」
「…………(かたくなに霊感があることは認めないよな)」
コオロギは頬を膨らませて怒っている。
ヤバイ、機嫌を損ねたら奇譚が聞けなくなる。
話をそらさないと!
「と、ところでさ、幽霊が視える人と一緒にいたら、霊感がない人も視えるようになるとネットにあったけど、コオロギはどう思う?」
「正確には『視えるようになる』ではなく、視るのがうまくなるんじゃないかな?」
「どういうこと?」
「バードウォッチングと似たような感じかな。
バードウォッチングを始めたばかりの人が森の中で野鳥を見つけるのはけっこうむずかしい。そこに野鳥を見つけるのがうまい人が付いてコツを教えれば見つけるのがうまくなる。
同じ原理で妖が視える人が視ている方向を注視するようになれば、やみくもにさがすより視える確率が上がる。コツをつかめば一人のときも妖をさがすことがうまくなるんじゃないのかな?」
「なるほど。一理あるかもなあ」
いつも思うけどコオロギは異能に対して独特の解釈があっておもしろい。ネットの情報だと、霊感がある人の隣にいれば異能が伝染するような言い回しが多い。そういわれても零感の俺には非現実的すぎて腑に落ちない。
でもコオロギの妖がいる場所がしぼれるようになるから、視る確率が上がるという現実味のある考えだと納得がいく。
それにしても……
コオロギは自分に霊感があることは認めないくせに、他人に霊感があることは否定しない。コオロギはほかの異能者のことをどうとらえているのだろう? さぐりを入れてみよう。
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