『ホラーが書けない』31話 予知能力が発動するとき【Web小説】
第31話 友人の予知能力はちょっと変わってる?
俺――紫桃――の友人は不思議なやつだ。幽霊や妖怪など妖の類いが接触してきたり、時には零感の俺には見えないナニカを視ることもある。
そんな変わった友人・コオロギ――神路祇――は、俗にいう「霊感のある人」なのだろう。そんな異能があるだけでも珍しいと思うけど、霊感の枠とは違う能力があることも俺は知っている。それは―― 予知だ。
さっきまで予知能力のことを話していたが、コオロギは予知できることをすごいと思っていなかった。俺には衝撃的なことなのに、コオロギはたまにあることだという。理解できず、どんな予知があるのか尋ねたら体験を話し始めたんだ。
「新宿区のオフィスビルでのことだ。
そのときは高層ビルで勤務してて、仕事はパソコンを使った作業をしていた。チーム制ではないから休憩は自由にとれるスタイルだったよ。
いつものように作業していて、きりがよかったから休憩に入ったんだ。
ずっと座って作業するから、休憩に入ると体を動かすようにしている。ビル内に設置されている非常階段を使って階段の上り下りをし、体をほぐして気分転換をしているんだ。この日も運動するために非常階段へ行き、下の階へ向かった。
3フロア分の階段を下りたらUターンして階段を上り、もとの階まで戻った。非常階段からフロアへ入る扉は防火用の鉄扉になっている。扉はロックされているのでIDカードを使って解錠する仕組みだ。
いつもだと階段の上り下りを終えたら、すぐに非常階段からフロアへ戻るけど、この日はドアの解錠はせず壁のほうへ行き、ぴったりと壁に背をつけた。
壁についたとほぼ同時に、ピッとドアを解錠する音が鳴っていきおいよくドアが開かれた。そのままドアは壁にぶつかって大きな音を立てた。
ドアが開いたとき、自分はドアと壁の間にできる三角形の隙間部分に立っていた。隙間は一人分ぎりぎりのサイズしかなく、ドアが目の前に迫ってきたときはぶつかると思ったよ。でもドアの端が壁に当たったおかげで、隙間にいた自分に直撃はなかった。
壁に当たった衝撃とはね返ったドアから判断して、ものすごい力で開けたんだと思う。機嫌が悪くてドアにうっぷんをぶつけたのだろう。
壁にぶつかった反動でドアが閉じようとしていくなか、自分が隙間から出て行くと、男性が青ざめた顔で見ていた。手に持っていた書類を床にばらばらと落として怪我していないか聞いてきた。
乱暴にドアを開けた先に自分がいたことに動転し、謝る言葉は途切れ途切れで体は小刻みにふるえている。無傷であったことを伝えても、男性は放心していたのかその場から動かなかった。
男性が落とした書類を拾い集めて渡したら、気にしないでくださいと言ってオフィスに戻ったよ」
思い出すように体験を語っていたコオロギは、話し終えると今度は俺に視線を向けて言葉を続けた。
「身の危険が迫るようなときに、意図せず回避していることはたまにある。
そのときは『危ないからこうしよう』とか『こんなことが起きそうだからこうしよう』とか知っているわけじゃないんだ。
無意識に行動していて結果がでてから取った行動の意味がわかる。だから『予知なのか』と聞かれても『わからない』としか言えないんだ」
言い終わるとコオロギはクールな表情になって黙ってしまった。俺は過剰な期待をこめていたことに対して、なんだか悪いことをした気になった。
沈黙が気まずいと思っているとコオロギが聞いてきた。
「もう遅い時間だけど、紫桃は今夜どうするんだ?
ビジネスホテルにでも泊まるのか?」
「友達のところに泊まる予定。
コオロギは電車の時間、大丈夫か?」
「あ―――、始発で帰ろうかと」
「えっ? 終電逃がしたのかよ!」
「違う。今から帰るのはおっくう。
数時間もすれば始発があるから、それまでカフェですごそうと思って。紫桃は気にせず友達のところへ行ってよ」
「それなら始発まで付き合ってもいいか?(ひさしぶりだから、もっと話したいし)」
「自分はいいけど、紫桃は約束してるんじゃないの?」
「まだ連絡してないから大丈夫」
「そっか」
いつものコオロギに戻っていて、歩きながら辺りをきょろきょろと見回している。夜の街さんぽを楽しんでいるようで安心できた。そこで俺はずっと引っかかっていたことを口にした。
「……コオロギ、今日はいろいろ引きとめて悪かった」
「引きとめていた?」
不思議そうに首をかしげているコオロギのようすに、さっきまでの焦りは完全に消えて、ほっこりしてきた。
あいかわらず鈍いなあ。
本当はランチだけの約束だっただろう?
それなのに仕事が終わったあと、飲みに行こうと強引に誘ったというのに……。
そろそろお開きかと思っていたところ、朝までコオロギと一緒にいられるなんて運がいい。電車の始発までの数時間、有効に使わねば!
今回は制作の神様は俺の味方のようだ。このチャンスにホラー小説のネタとなる話をコオロギから聞きだしたいなあ。
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