『ホラーが書けない』32話 正夢を見たことはあるか?【Web小説】
第32話 正夢は珍しいものだよな?
俺――紫桃――の友人・コオロギ――神路祇――は不思議なやつだ。なにが不思議なのかは、「霊感がある」といえば伝わりやすいかな。でもな、漫画や映画などに登場する霊感とは能力が少し異なる。
霊感があるといえば、すぐに思い浮かぶのは幽霊が視える人を想像するだろう。コオロギも視る異能はあるけど、視えるのはまれなことで、姿の見えない妖がふれてくることが多い。
ちまたで聞くような異能者じゃないけど、そういった霊感よりもコオロギにはもっと変わった能力がある。どうやら予知能力のようなものがあるんだ。
予知――未来のことがわかる。あらかじめわかっていれば危険を回避できるし、選択するシーンでは良いほうを選ぶことができる。予知する異能は、未来を知っているから余裕をもって選べるものと勝手に考えていた。でも違っていた。
コオロギの場合は、未来が視えるわけではないという。しかし結果を見れば、まるで先のことがわかっていたかのように行動しているから、俺はこれも予知の一種だと思っている。
自在に操れる異能じゃなかったことにはがっかりしたけど、危険回避できているのはすごいことだ。
夜の街を歩きながらコオロギの体験談を思い返していて、「無意識でも予知できる異能はすごいな」とこぼしたら、コオロギはきょとんとしていた。そこから始まったのが次の会話だ。
「紫桃も予知した経験はあるんじゃないのか?」
「あるわけない」
「正夢は見たことないのか?」
「正夢?」
「正夢を知らないのか?
正夢とは夢で見たことが未来で事実となる――」
「単語の意味は知ってるぞ!」
「ふぅ、よかった。知らなかったらどうしようと焦ったよ」
「まったく。正夢は知っているけど、夢が現実になったことはないよ」
「 ?? 」
「なんで不思議そうな顔してるんだ?」
「そう……なんだ……?
ほ―――ん? 夢は正夢にならないのか……?」
首を左右に傾げながらぶつぶつと始まった独り言。これはコオロギが思考の迷宮へ入る合図のようなものだ。俺はあわててコオロギを引きとめる。
「コオロギは正夢を見たことがあるのか?」
「……よく見るものじゃないのか?」
いぶかしげに聞いてきたので俺は心の中で突っこむ。
正夢は一生のうちで数回見るくらいのレアなことだと思うぞ!
コオロギは珍しい動物でも見るような目で俺を見てきて、確認するように質問してきた。
「就活で職場見学をしたら、夢で見たオフィスだった……ってことない?」
「……ない」
「旅先で石碑を見たときに、夢に出てきたやつだった……ってことない?」
「ない!」
「あれ? 正夢って……珍しいことなのか??」
なんなのっ、本当になんなんだ!?
なんで一般的に『不思議』なことがコオロギには当てはまらないんだよ!
人は寝ているときに必ず夢を見ているといわれている。見ていたとしても俺は夢を覚えていることはあまりない。夢の内容を覚えているだけでも珍しいというのに、コオロギは激レアの正夢を珍しいと思ってないなんて異常だよ!
俺からすると『超常現象』なのに、コオロギには『日常』という感覚の差がある。ホラー体験をしているのに本人は怖いと思っていないし、不思議な体験をしたという自覚もないから、埋もれたままの奇譚がたくさん眠っているに違いない。
さらっと出てきた正夢も、詳しく聞けば興味深い体験がわんさか出てくるはずだ。「もっと詳しく聞かせろ!」と言おうとしたら、さっきまで横にいたコオロギの姿が消えている。
さては俺の好奇心に捕まると察知し、そそくさと逃げたな?
街路を見回すと、俺から逃げるように早足でコオロギが歩いている。このパターンは「今は話したくないぞ」の合図だ……。
こういうときは勘がいいんだよなあ。
くそう。いずれ聞きだしてやる。
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