『ホラーが書けない』9話 働くときの条件にはどんなのがある?【Web小説】
第9話 仕事に就くなら正規と非正規、どっち?
東京都内の昼下がり。
有給休暇をとった俺――紫桃――は、友人・コオロギ――神路祇――とひさしぶりに会い、昼飯を食べる約束をしてカレー店を訪れている。
オフィス街にあるカレー店はシンプルな造りだ。狭い店内は厨房を囲むようなカウンター席とテーブル席がいくつかあるだけ。遅い昼休みだから俺たちのほかに客はおらず、お好きな席へどうぞと言われて窓際のテーブル席に着いた。
カレー店なのでカレーしかないが、料理が早く出てくる・値段が安い・美味いの三拍子がそろっているから、ランチタイムはビジネスパーソンに人気がある。そんな店でカレーを楽しみながら互いの近況を話している。
コオロギの近況を聞けば、前に会ったときとは違う派遣先で働いている。俺が知っているだけでも5回以上は仕事が変わっていることになる。
パソコンスキルが高いのになぜ正社員を目指さない?
正社員に就職すれば生活が安定するはずだろう?
コオロギのスキルを知っているからもったいないと疑問に思ってしまう。
俺は会社員だが非正規雇用の経験もあるから比較ができる。正社員で働くと毎月の給与は保証されるし福利厚生も充実しているのに比べて、非正規の収入は不安定だ。福利厚生も充実しているとは言いがたく不利な点が多い。それなのにコオロギが非正規を選ぶのはなぜなんだろう?
二人ともカレーを食べ終えていたからコオロギに質問した。
「そういや、コオロギはなんで非正規で働いているんだ?
派遣だと給与は時給制の場合が多いから収入が不安定にならないか?」
「非正規で働く場合は、やっぱり収入面がデメリットになるよ。
今の派遣もアルバイトのように時給制で、働いた時間分しか給料が出ないから、祝日が多い月は収入が減ってしまうし、もちろんボーナスなんてない。
でも派遣だと、いろんな仕事ができるからいいんだ」
「いろんな仕事?
正社員でも人事異動で部署が変われば、いろんな業務ができるぞ」
「そうかもしれないけど、大きくは変えられないでしょ?
業種で仕事の内容はほぼ決まっているし、異動も組織のバランスを優先するから希望した部署へ必ず異動できるとは限らない。
その点、派遣だとやりたい仕事ができる。
今回はチラシの校正だけど、派遣先を変えれば通販カタログだったり書籍の校正だったりといろいろ選べる。
それに校正だけじゃなくて、Webサイトのコーディングやパソコン講座のアシスタントなど、職種の変更もできるところが利点なんだ」
「前職とまったく違う仕事か。
魅力的だけど、一から業務内容を覚えないといけないし、必要となるスキルも違うはずだから大変なんじゃないのか?」
「そりゃあ大変だよ。
即戦力が求められる派遣は、業務をこなせるスキルがないと採用されない。
Webサイトのコーディングなら、サイトの仕組みやプログラミング言語など、基本知識にパソコンスキルがないとコーディングできないからね。
学校みたいに手取り足取り教えてくれるわけじゃないから、自分でスキルを磨いていくしかない。
学ぶのは大変だし人間関係もうまくできるか不安だから、安定を求めて正社員を目指す人が多いんだろうけど、自分にとっては新しく始められることが魅力なんだ。
新しい技術が登場したら挑戦してみたいし、使いこなすスキルを身につけたい。
目的がかなう新しいトコロは刺激があって楽しいよ」
非正規のデメリットがあっても、目をきらきらさせながら話すコオロギを見ていると、楽しいようすが伝わってきて、なんだかうらやましい。
「コオロギは本当に仕事が好きだよな」
「仕事も遊びも、やるからには全力投球したい。
それに楽しまなきゃ、もったいないじゃん」
今の職場も満足していると楽しげに話していたところへ食後のコーヒーが運ばれてきて、会話がいったん切れた。
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