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暑い日に見つけた、古海の耳〜ここは猫の街ミルミアシリーズ2-9

ここは猫の街ミルミア。
太陽がジリジリと
街全体を焦がすように照らしています。
いつもなら散歩猫で賑わう広場も
ほとんど誰ともすれ違いません。

本格的な夏に
猫達はぐったりしています。
トトのパン屋ヒゲのオーブンでも、あまりの暑さに今日は臨時休業です。


「あつい…あつすぎるよぅ」
今日は火をいれていないオーブンの前の
石の床に体全体をぺたっとくっつけて
つっぷしたままミコがいいました。

「ほんとに暑くて困ったね。こんなに暑いのは何年振りだろう。いつまで続くのかな。」

「遊びに行きたいのに外出たくないよぅ…」

カランコロン

「…今日はやってないのか。」
「ノワール!ごめんね、流石に暑すぎてオーブンに火を入れる気にならなかったんだ。まだしばらくお休みすると思う、申し訳ない。」
「…いや、いいんだ気にするな。」

「ノワール涼しそうな顔してるね!こんなに暑いのに平気なの?私は暑すぎて溶けそうだよぅ」
「…さっき川で水を浴びてきた。」
「そっか!それいい考えだね!トト行ってみよ!」
「いいよ、行ってみようか。こうしてても暇だしね」

ノワールと別れて、2匹は街の中を流れる川を目指して歩き出しました。


太陽に晒された石畳の道は
熱を帯び、じっと立ち止まると足を火傷してしまいそうです。
時折ふく風まで熱を帯びていて、暑い匂いしかしません。
2匹は注意深く日陰の道を選びながら歩いているとガルフの魚屋の前へ差し掛かりました。

「おわぁっ!」
バッシャーンッ

「わ!大丈夫?!」
「いててて…よう!こんな日に会えると思ってなかったぞ!」

氷水をぶちまかして転んだガルフでした。
「氷どうしたの?」
「魚を冷やすのに氷室からもってきたんだけどよぅ…俺としたことが…くぅぅ」
「あ、でもこのあたり少し涼しくなったね!」
「そうだな!少し元気出たぜ、もう一回分けてもらってくるぜ!」

ガハハっと笑いながらガルフは走って行ってしまいました。

ミコとトトは顔を見合わせて少し笑いました。


アーチ型のレンガでできた橋がかかった川のところまでやってきました。
ここは川まで広い階段がついていて、
浅くなっているので水遊びするのに丁度いい場所です。
街の中の静かさが嘘みたいに、ここでは元気な声が響き渡っています。

「わー!みんなここにいたんだねー!なんでもっと早く気がつかなかったんだろ!」
そういうとミコは階段を駆け降りて
飛沫をあげながら川へつっこんでいきました。

「よいしょ」
トトは階段に腰掛けて足だけ川につけました。 
とめどなく流れる水が足を撫でて
冷たい水がとても心地よく
一気に体が楽になりました。

「きゃー!わー!」
他にもたくさん猫たちが集まって水遊びをしています。

楽しそうなミコを見て、
トトはきてよかったなと思いました。
ふっと視線を上げると、反対側の川岸に
トトと同じように足だけ川にいれて座っているセリナが見えました。

いくら川が冷たくて心地よいとはいえ
冬物のセーターを編んでいるのは異様でした。

「おーい!セリナー!」
「あ、トト!毎日暑いねー!
ちょっと待ってて、そっち行く!」

「まいったまいった、暑すぎて今日は手芸教室どころじゃなかったよ。子猫たち集中できなくてさ!せっかく集まったから今日は水遊びしに川行こうって言ったら喜んで喜んで。」
「そうだったんだ。でもいくら川の水が気持ちいいからってこんな炎天下でよく冬物のセーターなんて編めるね?見てるだけでもいっそう暑いよ。」
「ふふ、私の秘密知りたい?」
「?」
「セリナー!秘密ってなに?!知りたい!」
「ミコ、こんにちは!ふふ、それでは教えてしんぜよう!秘密は銀河文具店にあり!」
「え?文具屋さん?」
「セリナに言われて来たって言ってごらん。」
2匹とも不思議そうな顔でお互いを見合わせました。
「ふふ…君たちはちゃんと聞けるかな?健闘を祈る!いってらっしゃい!」


セリナに言われた通り、
2匹は銀河文具店へ足を運びました。
銀河文具店は先程の橋を渡ってから二つ目の小道に入ったところにあります。

銀河文具店ではいつもと同じように鉱石や化石の博物館のように美しくインク瓶やガラスペンなどがかがやいていました。
お店の中は心なしか少しひんやりとしています。
「いらっしゃいませ、今日は何をお探しですか?」
「こんにちは!セリナに言われて来ました!」
「こんにちは。こんなに暑いのに、セリナが外で冬物のセーター編んでたのを不思議に思って聞いたら、秘密はこちらにあると言われて来たのですが…」

「ああ、そうでしたか。セリナさんのご紹介ならお教えしなくてはなりませんね。」

そういうと、文具店の店主は
こちらへどうぞ
と言って店の奥へ2匹を案内しました。

ソファとテーブル、
そして本棚。

「なんだろうね?」
「なにか全然わかんないけど楽しみ!どんな秘密なんだろ!」

「お待たせしました、こちらをどうぞ。」
美しいミントグリーン色の紅茶を、持って来ました。
カップの中で柔らかな湯気が揺れています。

「熱いお茶ですか?」
「えー!こんなに暑いのに!」
 
「まあ、まずはお飲みになってください。」

熱い淹れたての紅茶。
爽やかなすっきりとした香りです。

「…すごくいい香り。なんだか心が落ち着くね。」
「うん、そうだね。ホッとするって言ったらいいのかな?」
「いい香りでしょう?とても珍しい茶葉なんですよ。」

「んー、でもやっぱり暑いよ。なんでこれがセリナの秘密なの??」
「ははは、これはまだ秘密ではありませんよ。ではご説明しましょうか。ただ、方法を知ったからと言って誰でも涼しくなれるとは限りませんのでご理解くださいね。」
「はあ、そうなんですね。」
「わくわく」 
「だいぶ心が静かになりましたか?それでは準備は完了です。この後、しおねの谷へ行って貝の化石を探し耳に当てて聞いてみてください。」
「…それだけ?」
「はい、これだけです。」

文具店の店主はにっこりして言いました。
「あとは自分次第です。アドバイスできることがあるとすれば…できるだけ心の声を小さく静かにするということでしょうか。化石たちの声はあまりに小さいですから。」

それではうまくいきますように、と
化石を掘るための道具を貸して送り出してくれました。

「しおねの谷か…またちょっと歩くね。」
「うん…でもここまできたらどうしてもセリナの秘密知りたい!」
「よし、じゃあ頑張っていこうか!」


相変わらず猫の気配がしない
しんとした道を歩いていきます。
しおねの谷は街から少し離れた場所、古代の森を抜けた先にあります。
古代の森を抜ける時は
木々が太陽を遮って
ジリジリとし焼き付けるような暑さから二人を守ってくれました。
それでも森は暑さに蒸されて
息苦しいことには変わりありません。

森を抜け、しおねの谷にやっと到着しました。

「探すのは貝の化石だったよね、よーしやるぞー!」

ここ、しおねの谷は大昔、
まだ猫の種族が誕生していない頃は海の底にあったと、偉い学者さん達が発見した場所です。
その名残で、今では見かけないような魚や海藻、貝の化石が沢山みつかるのです。

「あったよ!ミコ!この辺たくさん埋まってそうだよ!」
トトは肉球ぐらいの大きさの巻貝の化石をもって手を振っています。
「すごい!もう見つけたの!そっちいくー!」
文具店の店主が、貸してくれた道具は
驚くほど使いやすく、
化石のそばで岩を砕くと
簡単に化石がぼろっとでてきてくれます。
「やったー!そして、耳に当てるって言ってたっけ」

ミコはそっと化石に耳をくっつけました。
「…全然涼しくなんないなあ。ねえ、トト?」

トトはミコの隣で目をつぶって
じっと化石に耳を当てています。
すると、化石から微かに揺らぎのようなものが出ているのが見えました。
「え!なにそれ!」
「…ちょっとだけだけど、涼しさを感じるよ。なんだろう、懐かしいようななんか不思議な感じ。」
「私のとった化石がダメなのかなあ?何にも感じないよう。トトのでやってみてもいい?」

トトはどうぞと、
ミコに自分の見つけた貝の化石を渡してあげました。

「…んー?全然やっぱりなんにもかわんないようー!」
「なんでだろうね?ミコの見つけた化石貸してくれる?そっちでもやってみる。」

トトはさっきと同じように、
ミコの化石を耳に当て目をつぶりました。
すると、やはりさっきみたいに揺らぎのようなものが出て来ました。

「すごい!またなってる!やり方が悪いのかなあ。」

涼しくなれ涼しくなれ
そう思いながらトトの真似をして目をつぶって化石を耳に当ててみましたが、やはりうまくいきません。

「トトー!ミコー!」
「あ!ぷぎゅだ!」
ぷぎゅは以前トトの店で、
店中のパンを走らせるという不思議な悪戯をした
古代の壺に閉じ込めらていたふわふわの
小さな子です。

「なにしてるの?」
「やあ!涼しくなりに来たんだよ。文具店の店主から、ここらの化石の貝を耳に当てて聞くと涼しくなるって教えてもらったんだけど…」
「うまくいかないの!トトはできたんだけど…」
「ほーぅほーぅ、ミコ達も古海の耳やりにきたんだね。こんなの簡単だよー!」
「こかいのみみ??」
「そうだよー、ぷぎゅが壺に閉じ込められる前はみんなやってたよ。みてて」

そういうと、
ミコが持っていた化石の貝を借りて
耳に当てました。
すると、トトの時よりも沢山のゆらぎ
いえ、それどころかみたこともない大きな魚や
海藻が化石の貝を中心に現れました。

「わ!なにこれ!すごい!涼しい!…あれ?おさかな触れない…」
「すごいね!これはいったい…どういうことなの?」
「この貝の化石がおしゃべりしてるのをよく聞いただけだよ。さっきのはたぶん1番楽しかったことを教えてくれたんだよ。」
「えー!全然意味わかんない」
「ミコはうるさすぎるんだと思うよ。そうだなー、まずはこの谷に吹く風の音をよく聞いて。その次は草の揺れる音、石に風があたる音、そしたら次は化石のおしゃべりが聞こえてくるよ。」
「聞く…」

ミコはぷぎゅに言われた通り、目を閉じて風の音を注意深く聞いてみました。
さー……

草の揺れる音。

ころ……

小さな石に風があたる音。

その奥に、
もっと小さな、
かすかな声。

……

しゃ……

「……!」

耳に当てた化石が、ひんやりと冷たくなりました。

「わ!ミコすごい!」

次の瞬間。

ミコのまわりに、古い古い海の風景がふわりと広がりました。

わずかにしか陽の光の届かない、
静かな海の底。

ただ揺れる水に身を任せながら、
やわらかな海藻がゆっくりと踊っています。

時折、
周りの水を大きく揺らす、
見たこともない大きな生きものの気配。

気が向けば、
その生きものは海藻をひとくち食べて、
また静かに去っていきました。

「わあ……なんて涼しくて、心地いいんだろう……」

ミコの周りに広がった海は、
トトとぷぎゅにも見えていました。

魚の気配。
水の揺らぎ。
遠い海の静けさ。

—ああ。
心が安らぐ。

もしかしたら、
私が私になる前、
こんなふうに過ごしていたのかな……


まだまだ暑い日が続いていますが
ミコはときどき化石の貝に耳をあてて、
その微かなおしゃべりに耳を傾け、
遠い記憶に思いを馳せているようです。

ここは猫の街。


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