「北側諸国の平穏のために、なんだってやってきた」|葬送のフリーレン
アニメ『葬送のフリーレン』の第1期で一級魔法使いのゲナウが最初に登場した時、私は正直、胸くそが悪くなるような男だと思った。
第1期の一級魔法使いの選別試験では、ゲナウは人間同士が殺し合うような一次試験を執り行った。
優秀でない者は死んでもかまわないと、言わんばかりの態度だった。
受験者たちを見くびり、油断し、試験会場の結界をフリーレンに破られるまで、遠くの丘から高みの見物を決め込んでいた。
しかし第2期が始まってすぐ、私は良い意味で「騙された」と思った。
フリーレンの世界では、言葉が乱暴で、ときに非道にも思えるような人物こそが、強く優しい人物であると、何度も学んだはずだったのに。
言葉による欺きや、操作。
これは『葬送のフリーレン』という物語に通底するひとつのテーマだ。
見誤り、見くびっていたのはゲナウではなく私の方だったと、気づかされた。
S2E35『神技のレヴォルテ』で、シュタルクはゲナウに「俺には、あんたがいいやつに見えるよ」と言った。
魔族に襲われ廃墟と化した村と、亡くなった村人たちの死体を、それでもゲナウがひとりで守ろうとしていたからだ。
そのときゲナウは、シュタルクに対してこのように返す。
私はいいやつではないさ。
それとは正反対の人間だ。
北側諸国の平穏のために、なんだってやってきた。
そのために人だって殺してきたし、大勢見捨ててきた。
ここへきて、私の中でゲナウの姿が、ヴィアベルと重なる。
北部地域で魔族討伐部隊の隊長を務める一級魔法使いのヴィアベルは、自分の故郷を守るためなら「なんでもやってきた」と言った。
S1E20『必要な殺し』ではヴィアベルは、有事に駆り出されて戦った、国同士の戦争の話をしていた。
人間によって前線に配置された女や子どもの兵士とも戦い、殺してきたと、ヴィアベルは話した。
そして彼は、こう続けていた。
ためらい、臆することはあっても、必要な殺しは全部やってきたぜ。
ヴィアベルとゲナウは、同じものを選んでいる。
* * *
S2E36『立派な最期』で、ゲナウはシュタルクと共に、強敵「神技のレヴォルテ」と壮絶な戦いを繰り広げる。
最後は命懸けの攻撃で、レヴォルテを討ち取る。
その直後に、大怪我を負ったシュタルクもゲナウも、倒れ込む。
意識が遠のくなか、ゲナウの頭では「俺には、あんたがいいやつに見えるよ」と言ったシュタルクの声が再生されている。
そして意識が途切れる寸前、ゲナウのかつての相棒が魔族に撃たれ、倒れたときの様子が回想される。
致命傷を負った相棒は、死ぬ間際、ゲナウに対してこう言った。
まだ俺を助けようとするんだな。
やっぱりな。
おまえは、いいやつだよ。
この言葉が奮い立たせたかのように、ゲナウはかろうじて意識を取り戻す。
うつ伏せのまま、腕の力だけで引きずるようにして体を動かし、倒れているシュタルクのもとに向かおうとする。
自分と共に戦った「いいやつ」を救うために、動かない己の体を必死に前に進めようとする。
そして途中で、ゲナウの意識は途切れる。
俺には、あんたがいいやつに見えるよ。
私の頭の中でもう一度、シュタルクの声が響く。
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