「君がすごい魔法使いであることを知っている」|葬送のフリーレン
前回は『葬送のフリーレン』における、魔法使いの階級制度の必要性と儚さについて、現実社会のそれと比較しながら書いた。
今回はそこから話を広げて、社会的な信頼・証明と、人同士の相互理解や信頼関係は一致しない、という物語の描写について書いていきたい。
フリーレンは魔王を討伐した勇者一行のメンバーであり、「歴史上、一番多くの魔物を殺した大魔法使い」だ。
しかし大魔法使いフリーレンが今生きている時代には、彼女が魔法使いであることを社会的に証明する資格は存在しない、という齟齬が起きている。
フリーレンが魔法使いであることを証明できるのは、彼女が肌身離さず持ち歩く『正杖(せいじょう)の証』だけだが、この証の意味を知っている人間はほとんど生き残っていないのだ。
S1E18『一級魔法使い選抜試験』の回想シーンで、フリーレンは自分が持つ『正杖の証』をヒンメルたちに見せている。
フリーレンは「すごいでしょ」と自慢げにそれを差し出すが、ヒンメルもハイターもアイゼンも、「何、この錆びた首飾り」という冷めた反応を返す。
「これだけが、私が魔法使いであることの証だったんだけどな」と少し残念そうに言うフリーレンに、ヒンメルはこんな言葉をかける。
フリーレン。
たしかに僕たちは、その首飾りのことは知らない。
でも、僕たちは君がすごい魔法使いであることを知っている。
それでいいじゃないか。
ヒンメルのこの発言は、同時にふたつのことを示唆しているように思う。
ひとつ目:社会的な役割を果たすために必要な資格や権威づけは、時代によって移ろうものであること。
ふたつ目:それらは、人対人で相互理解や信頼関係を築くためには必ずしも必要なものではない、ということだ。
しかしここでフリーレンは、ヒンメルに対して「でも、すぐ死んじゃうじゃん」とそっけない返事をする。
ここで場面は、現在に戻る。
フリーレンとフェルンが一級魔法使いの選抜試験に申し込んだ後のシーンだ。
『正杖の証』を知っている人間がほとんど残っていないことについて少し落ち込んだ様子のフリーレンに対し、今度はフェルンが、かつてのヒンメルと同じような言葉をかける。
私たちはフリーレン様が、すごい魔法使いであることを知っていますから。
ここでフリーレンは、はっと表情を変える。
ほんの一瞬だが、ヒンメルに言われたときとは明らかに異なる反応をする。
自分が本物の魔法使いであることを知っている仲間がいても、人間は「すぐ死んじゃう」と興味なさそうに言っていたフリーレンの気持ちが、動いた瞬間なのではないかと思う。
これは以前に書いた、フリーレンの世界で頻繁に起きる『反復と変奏によって浮かび上がる「相互理解」というテーマ』にも当てはまるような気がする。
ヒンメルたちが、「わかっている」と言った。
フェルンとシュタルクも、「わかっている」と言った。
その関係性の中にある信頼は、いつも本物だ。
フリーレンはここでは、フェルンに対して「でもすぐ死んじゃうじゃん」とは返さない。
「そうだね」と言って、フェルンの頭を撫でる。
そしてまたフェルンとシュタルクと3人で、同じ方向に向かって歩き始める。
『正杖の証』の意味を誰も知らなくても、近しい仲間はフリーレンが大魔法使いである事実を知っている — というこのエピソードは、以前に以下の記事で取り上げた勇者ヒンメルの「本物性」の話にも通じると思った。
うまくつなげて書くことができなかったが、よければ以下もご一読いただければ幸いだ。
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