魂のラリー ~60歳からの反撃~(第1話)
ピン、ポン。ピン、ポン。
その乾いた音は、どこか心臓の鼓動に似ていた。
大分県、某所にある体育館。
60歳になったばかりのカコは、トレードマークである黒髪のおかっぱ頭を揺らしながら、目の前の小さな白球を睨みつけていた。
息が上がる。足がもつれる。それでも彼女は、ラケットを握る手だけは緩めなかった。
「カコさん、無理しないで。休憩しよう」
11歳年下の夫、カズが心配そうに声をかける。
彼は私の「ツインソウル」だ。何千年の時を超えて、この時代でようやく巡り会えた、魂の片割れ。
彼と出会ったとき、私の人生はバラ色になるはずだった。
しかし、運命の神様というのは意地悪だ。
7年前、私たちを襲ったのは「心筋梗塞」という悪夢だった。
――ピー、ピー、ピー。
あの時、病室に響いていた電子音を今でも思い出す。
私の心臓は一度、悲鳴をあげて止まりかけた。死の淵を彷徨い、戻ってきた世界は、色のないリハビリの日々だった。
動かない体。先が見えない恐怖。
「もう、いいわ。私なんて……」
何度もそう腐りかけた。
けれど、カズは諦めなかった。
「宇宙は乗り越えられない試練なんて与えないよ」
そう言って、毎日私を支え、背中をさすり続けてくれた。
そして出会ったのが、この小さな「卓球(ピンポン)」だった。
直径40ミリのボール。
これを打ち返すたびに、止まりかけた私の心臓が、力強くビートを刻み直していくのがわかった。
ピン、ポン。
生きている。私は今、生きている。
「……ううん、まだやるわ」
カコは、汗で少し額に張り付いた黒い前髪を払いながら、夫に向かってニカっと笑った。
それは病室で見せていた弱々しい笑顔ではない。頂点を目指すアスリートの顔だった。
「私ね、決めたの。この卓球で、もう一度人生の頂点を取りに行くって」
ツインソウルの二人が始めた、還暦からの大逆転劇。
その幕が、今上がった。
(つづく)
魂のラリー
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