素浪人わたり放浪奇(八) 雨葉村の妖怪寺〜役者絵と、水と油の恋心【五の巻】|リライト版
五の巻 雨葉村での新たな出会い
俺たちは遊戯場の外の居酒屋で、あばたーの面を外して酒を交わした。初老の男は寺子屋の玉庵先生と言って、眼鏡の若い男はシャオという名前の塾生だった。
聞くと、寺子屋でエレキテルで動く南蛮渡来の細工箱の使い方を教えているらしい。
「ところで、わたり殿、なぜ口に手拭いを巻いているんですか?」
玉庵先生が俺に酒を注ぎながら聞く。
「そうなんだよー。わたりはいつも口に手拭いを巻いてるんだ。特に女といるときは必ず。俺と二人のときは外してるよな」
口篭っていると、三吉がかわりに答えた。
「オー、せっかくのいい男なのにモッタイナイデス」
シャオがカタコトなのは中国からの留学生だったからだった。
「ほら、あそこの給仕の女もあなたの顔を見たがって膳を運んでくるのに、あなたが顔を隠すから残念がってますよ」
先生は面白がっているようだった。
「恥ずかしいからだよ。ばーか」
俺は三吉を小突いた。手持ち無沙汰になって、キセルを出して火打石で火をつける。玉庵先生や三吉、シャオがキセルを吹かす俺をにこやかに眺めていた。
玉庵先生とシャオは、お千代がまだ無名のころから贔屓にしていたらしく、お千代の苦労話をいろいろ聞かせてくれた。今日の舞台のお千代のあの場面が良かった、あの歌が良かったと話は盛り上がり夜は更けていった。
次の日の朝、宿で目覚めた俺はまだ頭がくらくらしていた。昨日長旅で疲れたところに酒を飲んだので酔いがまわっちまったらしい。
キセルに火をつけて煙草を吹かしていると、三吉は元気に朝飯を食いながら、昨日のことを話し出した。
「いや〜、お千代ちゃん可愛かったなぁ。贔屓にしている玉庵先生もシャオさんもいい人で楽しい宴だったね」
三吉は沢庵と飯をかっこんだ。それをお茶で飲み込むと、三吉は急に神妙な顔つきになった。
「なぁ、わたり。俺たちは武家の出で、素浪人となって刀を持って生活してるけど、もうそろそろ俺はこういう生活を終わりにしたいって思うんだよ」
少し驚いたが、心当たりはあった。俺たちは素浪人として用心棒や人斬りを頼まれて生計を立ててきた。しかし、ペリーとかいうやつがこの国にやってきてから時代は変わってしまった。最近では仕事がめっきり減ってしまったし、こんな家業は早く辞めたいとも思っていた。
「……..あぁ、俺もそう思ってたところだった」
「だから、玉庵先生の寺子屋で南蛮渡来の細工箱の使い方を一緒に習わないか?絶対これから細工箱の時代がくると思うんだ」
三吉は真剣な眼差しで俺を見た。
「すぐに人を信用するのは三吉の悪い癖だ。どんな奴がわからねぇじゃないか」
「わたりはいつも慎重すぎるよ。玉庵先生が遊びにおいでって言ってたから、とりあえず見学にいこう。百聞は一見に如かずって言うじゃないか」
まぁ、見学くらいならいいか。怖いもの見たさっていうことで。
「わかったよ。南蛮渡来の細工箱の現物も見てみたいしな。ダメでも後で話のネタくらいにはなるだろう」
「やったー!!」
さっきまでの真剣な面持ちはどこへ行ったやら、くしゃくしゃの顔で三吉が笑った。久しぶりの二日酔いで、俺はまだ頭が朦朧としていた。
昨年、創作大賞エンタメ原作部門に応募した作品をリライトしてお届けしています。
別アカウントにありましたが、整理するためにこちらに引っ越しすることにしました。
※名称の一部を変更しました。
