見出し画像

素浪人わたり放浪奇(七) 雨葉村の妖怪寺〜役者絵と、水と油の恋心【四の巻】|リライト版

四の巻 芝居小屋の新人役者

「見て見て!わたり!あっちには相撲の場所や弓道場、そっちには剣の大道芸や猿回しもある。ほらほら、芝居小屋もたくさんあるよー」
遊技場には見たこともねぇものがやたらあって、三吉はすっかり夢中になっていた。遊戯場には、あばたーという面をもらえば村民なら誰でも入ることができる。俺たちは宿から面をもらい、遊技場に入った。
「なぁ、三吉、芝居小屋に行かねぇか」
「え、わたり、芝居になんか興味あったの?」
三吉は不思議そうに俺を見た。
「(いや、疲れてとにかく座りてぇ)ほら、これにしようぜ。『お千代お披露目公演 東州女一人旅』」
俺は適当に看板を指さした。
「いいね!行こう!行こう!」

 芝居小屋は三割ほどの客の入りだった。どうやら新人役者の初主演舞台だったらしく、あまり人が入ってなかったらしい。俺と三吉は舞台から向かって座敷の左奥に座った。
 舞台の筋書きは、島国育ちの娘が島を出て本州に渡り、都を旅して珍事件を解決していくという話だった。
 俺たちは新人役者のお千代の演技に釘付けになった。芝居の最後にお千代が透き通るような高い声で『東州女一人旅』歌い上げた。

島を離れて 舟に乗りゃ
波が袖引く 名残り風

東へ 東へ 日は昇る
知らぬ都が 呼んでいる

泣くな 泣くなと 鴎が鳴けば
笑ってみせます 一人でも

お囃子が続く。

さても不思議な 城下町
狐が化けるか 人が化ける

嘘とまことが 入り混じる
この世はまるで 合わせ鏡

東へ 東へ 道は続く
草鞋ひとつで どこまでも

涙こぼせば 足が止まる
明日は明日の 風まかせ

お千代は大きな傘を回しながら、美しく舞った。

花は散っても また咲くが
人の縁は 風次第
されど私は 旅をゆく
誰かの笑顔を 土産にして

 芝居小屋は溢れんばかりの拍手に包まれた。歌も舞もすこぶるうまいが、笑うと幼子のようにあどけない。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花とは、まさにお千代のような女のことを言うのだろう。

 舞台が終わった頃には旅の疲れも忘れて、すっかりお千代の虜になっていた。
 「お千代ちゃん、可愛かった〜。また来よう!でもさ、なんかこの小屋寒くない?」三吉は立ち上がって体を縮こませた。
「あぁ」
生返事していたら、初老の男にぶつかっちまった。ぶつかった拍子に男が杖を落とした。
「あいすみません」
杖を拾うと見た目よりもズシリと重たい杖で俺は驚いた。男に返すと、俺は面を外して謝った。
「ありがとう。いやいや、こちらこそ不注意で申し訳ない。これは南蛮渡来の鋼でできた丈夫な杖でしてな。君たちもお千代さんの贔屓かね?」
男が面を外して会釈した。学のある礼儀正しい男のようだった。
「そうなんです!今の舞台ですっかり贔屓になっちゃいました」
三吉がひょこっと顔を出して手を挙げた。
「ほほお、私たちもお千代さんを以前から贔屓にしておりまして、これも何かのご縁、居酒屋で一杯どうですか?私が奢りましょう」
男には連れがいて、面を外すと、眼鏡をかけた若い男だった。
「ドウモ。初めマシテ。ワタシもお千代さんの贔屓デス」
「行きます!行きます!俺たち、この村についたばかりで、まだ何も食べてないんです。なぁ、わたり?」
俺は頭を押さえながら頷いた。



雨葉村の妖怪寺〜役者絵と、水と油の恋心【五の巻】へつづく


 昨年、創作大賞エンタメ原作部門に応募した作品をリライトしてお届けしています。
 別アカウントにありましたが、整理するためにこちらに引っ越しすることにしました。
 今回歌詞の部分はAIに作成してもらいました。
※名称を一部変更しました。

いいなと思ったら応援しよう!