Tyler, The Creator「DON'T TAP THE GLASS」全曲解説。前作から引き継いだものと新機軸
先日来日公演を行ったTyler, The Creatorについて語る、NiEWの対談企画に参加しました。お相手はhashimotosanさんです。
また、9月8日(月)にJ-WAVEの番組「GRAND MARQUEE」の、NiEWとのコラボコーナー「NiEW EDITION」に出演しました。こちらもTyler, The Creatorの解説です。Podcastとしてアップされているので、聴き逃した方は是非。
昨年リリースしたアルバムのツアー「CHROMAKOPIA: THE WORLD TOUR」で来日したTyler, The Creatorですが、ツアー中の7月にはまた新たなアルバム「DON'T TAP THE GLASS」をリリースしました。対談とラジオでもそのことについて触れていますが、新作は前作「CHROMAKOPIA」とはまた違った魅力を持った作品です。前作についてはこちらで書いています。
新作について対談やラジオでは語り切れなかった部分も多いので、補足も兼ねて全曲解説していこうと思います。
まず、今回の作品はコンセプチュアルでじっくりと聴かせるような作りだった前作から一転、踊らせることに特化したようなダンサブルな路線の作品です。とはいえ前作にもコンセプトとそこまで強い結びつきのないパーティチューンの「Sticky」が入っていたりしたので、そこまで真逆というわけでもなく、ゆるく繋がっている印象もあります。
オープニングを飾るのは、Pharrell WilliamsをSk8brd名義でフィーチャーした「Big Poe」。タイトルのBig PoeとはTyler, The Creatorの新しいオルター・エゴの可能性がGeniusで指摘されていますが、本人は名言はしていません。「俺はBig Poeだ」と繰り返すフックは確かに自己紹介っぽいです。曲のテーマは主に女性とフレックスの話で、王道のパーティチューン。イントロではそのまま「踊れ」と言っています。ビートはデフォルメされたオルガンのようなシンセに、ガツガツとしたドラムを合わせた電子ブーンバップ的なもの。途中Busta Rhymesの2001年のシングル「Pass the Courvoisier Part II」の声ネタが真っすぐ飛び出してきて驚かされます。
続く「Sugar On My Tongue」はエレクトロ。対談でも話しましたが、初期の西海岸シーンではWorld Class Wreckin' CruやEgyptian Loverなどエレクトロが盛んで、こういった路線にはTyler, The Creatroの地元回帰的なモードが感じられます。リリックは口説きもの。乗せ方はラップというより地声の歌っぽいアプローチです。Free NationalsのT. Navaが入れるヴォコーダーにも注目。
「Sucka Free」は爽やかなシンセを使ったGファンク風味の一曲で、ここでもT. Navaのヴォコーダーが西海岸の風を運んでくれます。また、対談でも触れましたが最初のヴァースではThe Gameの名曲「How We Do」のフロウを、「CALL ME IF YOU GET LOST」収録の「CORSO」に続き二度目の引用。ビートやイントロでの地元話とあわせて、西海岸愛を打ち出してきています。リリックはフレックス系。
「Mommanem」はドイツのニューウェーブバンド、Gorilla Aktivの「Montagehalle」をサンプリングしたエレクトロ路線。最後までドラムレスで、シンセのみに乗せてラップしています。「ぶちまけろ、吐き出せ」と繰り返すフック通り(?)、ヴァースのリリックはちょっと愚痴っぽい感じ。短い尺で次に同ネタ使いの「Stop Playing With Me」が続く、インタールード的な立ち位置の曲です。「Stop Playing With Me」はネタのシンセにドラムと凶悪なベースを加えており、エレクトロ路線という意味では同じながらよりアグレッシヴな仕上がり。時折入る8つ打ちのクラップにロウエンドからの影響が感じられます。リリックはフレックスと擦り寄ってくる人への威嚇。
そこから「Ring Ring Ring」ではまた雰囲気が変わります。この曲はRay Parker Jr.の「All in the Way You Get Down」をサンプリングしたクールでソウルフルなビートで、ヴォーカルはファルセットの歌声をメインに披露。ラップは少なめです。ブリッジでの同じフレーズを連呼するラップはちょっとMike Jonesっぽくも聞こえます。ここでもT. Navaのヴォコーダーをフィーチャー。リリックは去り行く恋人に電話をかけるというもの。
次の「Don't Tap That Glass / Tweakin'」は二曲を繋げた作り。前半の「Don't Tap That Glass」部分ではニューオーリンズバウンスの要素を取り入れ、Swizz Beatzをハイプマンとして起用しています。フックでは「モンスターが中にいるぜ、グラスを叩くなよ」と言っていますが、恐らくこの「モンスター(monster)」はSwizz Beatzのレーベル名であるMonster Music Groupともかけたもの。Swizz BeatzはBeyoncéのニューオーリンズバウンス風味の曲「Get Me Bodied」を手掛けていたこともあるので、ビートも含めてある意味Swizz Beatzへのトリビュートと言えそうです。また、途中Too $hortの「ビア~ッチ!」の声ネタもサンプリング。これは前作の「Balloon」でのLukeの声ネタ使いに通じる使い方です。リリックはワイルドで攻撃的なノリ。
「Tweakin'」部分では、なんとメンフィスラップのレジェンドのTommy Wright IIIの「Meet Yo Maker」のドラムをそのままサンプリング。振り返ると前作の「Darling, I」ではQ-Tipの「Vivrant Thing (Violator Remix)」のドラムを使っており、Tyler, The Creatorは今ヒップホップのドラムをそのまま使うのに凝っているのかもしません。Tommy Wright IIIはスケートビデオ経由でリバイバルヒットを果たしたアーティストなので、スケーターとしての顔もあるTyler, The Creatorがその一面を出してきた曲でもあります。リリックはフレックスやツアーの振り返りなど。
ニューオーリンズバウンス、メンフィスラップときて続く「Don’t You Worry Baby」はアトランタベース風味。なぜかサウス色強めです。ここではアトランタ拠点のラップグループのA-Dam Shameのメンバー、12 Gaugeの「Let Me Ride」から声ネタを引っ張ってきています。Tyler, The Creatorはコーラスで少し歌っているのとブリッジで少しラップしているのみで、主役ながら若干控えめな登場。代わって目立つのが客演のMadison McFerrinで、包容力のある歌声で808が効いた清涼感のあるビートを乗りこなしています。曲のテーマは終わりも含む恋愛もの。
Yebbaを迎えた「I’ll Take Care of You」は、メロウでR&B色強めのウワモノにガシガシとしたドラムを合わせた、ちょっとジャングルっぽさのある一曲。爽やかな二人の歌声にCrime Mobの名曲「Knuck If You Buck」の声ネタがストレートに入ってくるミスマッチが楽しいです。かなり声ネタの存在感が強く、ブートレグを膨らませたみたいな趣もあります。Yebbaは「私があなたのケアをする」以外の歌詞がなく、Tyler, The Creatorは「君の愛は俺の心とソウル」「なんで過ぎ去ってしまったのかわからない」「ちょっと待って、俺は今色々やっているところなんだ」と歌っていることから、恐らく曲のテーマはカップルのすれ違いによる別れ。Crime Mobの「逆らったらぶっ飛ばすぞ」という声ネタは忙しい時の機嫌の悪さの表現のように聞こえ、ただただワイルドな元ネタとは異なる意味を引き出しています。
ラストの「Tell Me What It Is」は、「本当の愛を見つけるのは無理なのか?」と問いかける一曲。サラっとKelisの「Millionaire」でのAndre 3000ヴァースからの引用も飛び出します。ビートは浮遊感のあるシンセに硬質なドラムを合わせたもので、乗せ方はラップではなく全編歌です。終盤での「なんで愛を見つけることができないんだろう?」の連呼に切実さが宿っています。
全編を通してリリックで語られているのは主にセルフボーストや恋愛の話です。Tyler, The Creatorは今回の作品について「コンセプトはない」とツイートしていましたが、そうは言ってもうっすらと前作での夢を追う中で恋愛や結婚について考えるようなコンセプトを引きずったものがあるように思います。特に「なんで愛を見つけることができないんだろう?」と歌う「Tell Me What It Is」は前作っぽいリリックです。ツアー中にノリで作ったら、前作で歌っていたような歌詞が自然と出てきたということなのかもしれません。
音楽面では声ネタの多用が特徴の一つとして挙げられます。前作収録の「Balloon」など以前にも行っていた試みですが、今回はBusta RhymesにToo $hort、12 GaugeにCrime Mob(とLil Scrappy)と数が違います。NiEWの対談ではこれをThe Gameのネームドロップ芸っぽいと話しましたが、そのほかに近い試みを行っていたヒップホップのアーティストとして「Don't Tap the Glass / Tweakin'」に参加していたSwizz Beatzも挙げられます。T.I.の「Bring Em Out」やCassidyの「I'm A Hustla」など、声ネタサンプリングは一時期のSwizz Beatzのトレードマークの一つでした。
また、今回「Sugar On My Tongue」、「Stop Playing With Me」、「Don't Tap the Glass / Tweakin'」、「Don't You Worry Baby」と4曲でMantronixの「King of the Beats」のサイレンを使用しています。これもSwizz Beatzが自身の「It's Me Bitches」やEveの「Tambourine」など、複数の曲で使い倒してきたネタです。Swizz Beatzに限らずJ Dillaなども使っている定番ネタではありますが、「Don't Tap the Glass / Tweakin'」ではSwizz Beatz本人も出てくるトリビュートっぽい曲だったので、Swizz Beatzの影響も少なからずあるのではないでしょうか。
Swizz BeatzにしてもThe Gameにしても、オルタナティヴヒップホップではなくメインストリームど真ん中にいるアーティストです。ただ、Swizz Beatzはどんな時代でも一聴してそれとわかる個性を備えたプロデューサーで、The Gameはトレンドを追うタイプながら自身が心から好きなヒップホップへの憧憬を強く打ち出すラッパーでもあります。いわば二人は「メインストリームにいながら染まりきらない」アーティストで、それはオルタナティヴとメインストリームを繋ぐような今のTyler, The Creatorの立ち位置とも通じるものです。オルタナティヴヒップホップにしてはメインストリームのヒップホップが好きすぎるし、メインストリームのヒップホップとしてはオルタナティヴすぎる。前作よりもさらに一歩ヒップホップ回帰を進めた今作は、そんな今のTyler, The Creatorのモードが先人と重なる瞬間と共にたっぷりと味わえる快作です。
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