【#noteでBL】小さく生まれた恋心
まずは、毎月素敵な企画を開催されているなみさん、10回目の開催おめでとうございます。
こうして続けられること、そしてたくさんの方が参加していらっしゃること、すごいです✨
私も、参加できるときはこれからも参加させて頂きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
今回も企画小説に参加させて頂きました。
3つのワードは、「雨の日の恋」「ルマンド」「ダンボール」。
浮かんできたのは、引っ越しでした。
雨の中の引っ越しは大変そうだけど、思いついたから書きました!
参加させて頂いた企画は、こちら。
読んでくださる方に楽しんでもらえる作品になっていればいいなと思います。
小さく生まれた恋心
雨は苦手だ。
気圧の変化で頭が痛くなる。気分も上がらない。
何も引っ越しする日に合わせて降らなくてもいいのに、起きた瞬間から雨音が窓の外から聞こえていて、動くのさえ億劫になる。
それでも時間は待ってはくれなくて、お迎えの車が家のインターホンを鳴らした。
母と二人暮らしだったアパートの一室にあったそれほど多くない荷物は、車の荷台に詰め込んでも余裕で乗せられるくらいのもの。
母が玄関のドアを開けると、背の高い優しい表情をした男の人が顔を現した。
「おはよう。生憎の雨だね」
「おはよう。そうね」
「翔くんも、おはよう」
「おはようございます」
「荷物、車の荷台まで運ぶの一緒にお願いできる?」
「もちろんです」
すぐにこちらに向かって声をかけてくれたのは、今日から翔の父親となる本条義隆さん。母の再婚相手だ。初めて会った時から優しく笑う人だった。不思議と嫌だと感じることもなく、母の幸せそうな姿を見ていたら自然と受け入れている自分がいた。
玄関先に置いてあるダンボールをすっと持ち上げると、「行こうか?」と問いかけられたので駆け足で向かいダンボールを持ち上げてあとに続く。
大きな背中を見ていると、小さい頃に見た本当の父親の姿が重なってしまい、ふるふると頭を振る。
僕が五歳の時、父親は家を出ていった。外で女を作り、その相手との未来を選んだ結果、僕と母は捨てられた。
でも、それを恨んだことは一度もない。母と二人の生活は裕福ではないけれどそれなりに幸せだと感じていたからだ。
いつも笑って話して過ごしてきた。そんな時間が僕はとても好きだった。終わってしまうのは寂しいけれど、これからは新しい家族も増えてもっと楽しい時間が過ごせるようになると信じている。
「ここに乗せてもらえる?」
「あっ、はい」
先に置いたダンボールの横をトントンと叩いて見せてくれるから、言われるままそれを乗せると、
「あとひとつは僕が運ぶから、翔くんは自分の身の回りのものを」
「わかりました。ありがとうございます」
「じゃあ、戻ろう」
雨の中を二人で駆けて再び部屋へと戻っていく。
忘れ物がないかを確認し、貴重品などの入ったさほど大きくないショルダーバッグを斜め掛けにした僕は、玄関先にいる母と本条さんの姿を見つけた。
二人とも幸せそうに笑っている。それだけで、この選択が間違っていなかったんだと思えることができる。
「忘れ物はない?」
「うん。大丈夫だよ」
「じゃあ、行きましょう」
「うん」
ずっと二人で過ごしてきたアパートには、正直名残惜しい気持ちはあるけれど、僕は振り返ることなく扉を閉めると、前を向いて駆け出した。
三人で車に乗り込みシートベルトをしめると、車が発進する。助手席に座る母が楽しそうに会話をしているのを感じながら、僕は移り行く外の景色をぼうっと眺めていた。
「翔くん、本当は司も連れて来ようと思っていたんだけれど、家で待ってるっていうものだからごめんね」
「いえ。雨だし出たくない気持ちわからなくないので」
「雨は嫌い?」
「嫌いじゃないけど、好きでもないかな」
嫌いというより、このズキズキと疼く頭痛がやっかいだから苦手といった方がいい。
いつからだっただろう? 物心ついたときにはすでに頭痛に悩まされていた。
そういえば父親がいなくなった日も、ちょうど雨が降っていて、真っ赤な傘に知らない女性と二人で入りながら振り返ることもなく消えていった。
母は涙一つ見せることはなく、毎日忙しく働きながらも僕には寂しい思いをさせないようにといつも笑顔で溢れていた。
だから僕も知らないふりを続けてきた。
本当は一人で泣いていたことも、苦しんでいたことも――。
「翔くん、着いたよ」
「あっ、すみません」
「どうして謝るの?」
「だって僕、寝ちゃって……」
「気にしなくても大丈夫だよ。それに眠れるってことは、僕の運転に安心してくれてるってことだと思うから」
「それは、はい……」
いつの間にか眠ってしまっていた。心地よい揺れに誘われて目を閉じたまでは覚えているけれど、きっと一瞬で落ちたのだと思う。
慌ててドアを開け外に出ようとしたら、雨に打たれて動きが止まった。
「慌てなくていいよ。荷物も運ばなきゃ行けないし、ちょっと待ってね」
そう言うと、本条さんはスマホを取り出して誰かに電話をかけている。
「もしもし、司か。今、家の前に着いたよ。悪いが傘を持ってきてもらえると助かる」
電話の相手は、本条さんの息子で、実はまだ一度も会ったことがない。すぐに電話を切ったことから、中から息子さんが出てくることを察して、つい構えてしまう。
第一印象は大切だよな――これから一緒に生活するわけだし、失礼のないようにしなきゃ――。
――トントン――
車の窓ガラスを軽く叩く音がして少し体を後退させると、車のドアが開かれた。
「えっ、あっ……」
「どうも。傘開いてるから出てきて」
「あ、はい」
顔を上げた瞬間に目が合った人物に、身体中のありとあらゆる穴が開いた気がする。
だって、そこには僕がずっと憧れていた学校の先輩が立っていたから。
確かに、彼の苗字は『本条』だったけれど、まさかこんな偶然があるなんて思いもよらなかった。
「ほらっ、こっち」
「あっ、すみません」
止まったまま動けないでいる僕に向かって声をかけられたことで、何とか体を動かして車の外へ出て傘を受けとると、今度は助手席の母の方へ行き、同じように傘を開いて対応している。
その姿を傘で顔を隠しながら見つめていた。
まだ心臓がどくどくしていて鳴り止まない。
「こっちです。足元に気をつけてくださいね」
母とのやり取りに思わず反応して傘と共に顔を上げると、紳士みたいにリードしながら玄関までの道を誘導していて、遠くなっていく姿をその場から見守るだけで精一杯。
近づくなんて恐れ多くて仕方ない。
「翔くん?」
「あっ、あの……」
「確か、二人は同じ高校なんだよね?」
「そう、ですね。僕、全然知らなくて……」
「きっと驚かそうと思ってたんだと思うよ。僕にも言わないようにって口止めしてたくらいだから」
「で、でも、お母さんも何も……」
「葉子さんも口止めされてたんじゃないかな」「そ、なんですね……」
知らなかったのが自分だけだということに、何だか胸の奥がもやもやするけれど、僕はゆっくりと家に向かって歩き始める。 その後ろで再びエンジン音がすると、車が駐車スペースへと向かって動き出した。
「おい、何ぼーっとしてんだよ。父さんが駐車終わったら、荷物運ぶぞ」
「あ、は、はい」
「いつまで狐につままれたみたいな顔してんだよ」
「だって、本条先輩……。突然目の前に現れたらびっくりするでしょ?」
「さあ、俺はお前が弟になるって知ってたし」
「言ってくれれば良かったのに……」
「それじゃ意味ないじゃん」
意味がないっていうのは、驚かそうと思ってたからってこと?
それとも、ただの意地悪……?
「じゃあ、二人とも荷物を中に運んでくれる?」
「了解」「はい」
「よろしく。じゃあ僕は運んできた荷物を葉子さんと片付けていくとしようかな。はい、最後はちゃんと鍵閉めてね」
高校生の男子が二人で十分に運べる量だから、本条さんは車の鍵を先輩に渡すと、ささっと家の中へと入って行った。
残された僕たちは、少しの間の沈黙のあと、荷台に乗せていたダンボールを家の各部屋へと運んでいく。
30分ほどで運び終わると、車に鍵をかけて二人で家の中へと入った。
「終わったよ。はい、鍵」
「お疲れさま。翔くんの部屋に案内してあげたら?」
「そうだね。ついでに荷物も運ぶよ」
「いいね。手伝ってあげて」
「わかった」
優しさ全快の優等生っぷりが学校と同じで、僕はまたそれをじっと見つめていた。
「荷物はここにある二つだけ?」
「そう、です」
「じゃあ、一つずつ持って一回で済ませよう」
「わかりました」
そう言って、まずは一つ目のダンボールを持ち上げてすぐ床に置いたと思ったら、二つ目も同じように持ち上げている。
「俺、こっち持つから、お前あっちね」
指で合図をしながら告げられてそれに頷くと、指示された通りにお互い荷物を持ち上げて歩き出す。
それほど重たくはないけれど、ゆっくりと慎重に運んでいく。
「階段上って手前がお前の部屋ね」
「はい」
一歩一歩確実に階段を上がって、もうすぐそこまでってところへやって来ると、ひょいっと僕の持っていたダンボールを軽々と奪い取って部屋へと運んでくれた。
「これで全部?」
「そうです」
「じゃあ、とりあえずここが今日からあんたの部屋だから。片付け先に始めてて。すぐ戻ってくるから」
「はい」
今日からここが僕の部屋――。
中を見渡すと、机とベッドと本棚がまっさらな状態で配置されている。
おそらく、母と北条さんが用意してくれたものだろう。
置かれたダンボールの一つ目を開けて、中のものを出して片付けを始めると、しばらくして先輩がドアにもたれ掛かっているのが視界に映った。
「あの……」
「ん?」
「そこで何を?」
「見学……的な?」
「は、はぁ……けん、がく?」
尋ねる僕に疑問系で返されてどう返事をしていいのかわからずに挙動不審になっていると、突然先輩が僕の前にしゃがみこんできた。
びっくりして一度俯いた顔をそっと上げると、そこには見覚えのあるパッケージのお菓子を一本持ってこちらに向かって差し出している先輩がいた。
「食べる?」
「あ、後で頂きます。今、そんなに手が綺麗じゃないので」
「俺は今やるって言ってんだけど?」
「でも……」
僕の返しが気に入らなかったのか、先輩は小さくため息を吐くと持っていたお菓子の袋を慣れた手つきで開封し、半分だけ先を出して口元へ近づけてくる。
食べろってこと?
戸惑っている僕を見て、先輩がそれを唇に当ててきた。
断る選択肢はないってことだよな――。
そう察して、閉じていた口を開いてそれをぱくっとくわえた。
「うまいだろ?」
「ふぁい……」
「ルマンド、俺の好物だから覚えといて」
悪戯っ子みたいな顔をして笑うから、胸の奥が煩く脈を打ち始めてしまう。
久しぶりに食べたルマンドは、いつもよりもずっと甘く感じて口の中に広がっていく。
「二人とも降りてきて」
母の通る声が一階から二階の部屋まで聞こえてきて、一旦手を止めてダンボールの蓋を閉めると、僕は立ち上がった。
先に行けよというように合図されて、そのまま部屋をでるとリビングへと降りていく。一分もたたないうちに、先輩もゆっくりと降りてきた。
テーブルの上に用意された引越蕎麦を見つけて、手を洗ってから先に座っている先輩の隣に腰を下ろす。
「葉子さん、翔くん、ようこそ本条家へ。これから、末長くよろしくね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」「司くんも、おっきい弟だけど翔のことよろしくね」
「もちろんです」
「じゃあ、いただこう」
初めて食べる新しい家族との少し遅めの昼食は、案外すんなりと受け入れられた気がする。
それはきっと、本条さんの柔らかい人柄のおかげだと思う。
「司、明日は翔くんを学校まで案内してあげろよ」
「わかってるよ」
「あっ、よろしくお願いします」
今日から、色々な初めてが始まる。
それが本条先輩と同じになるっていうことがむず痒い感じもするけれど、楽しく過ごせるといいな。
まだ少し頭痛が残っているのは、外が雨だから。
お風呂で体を温めて部屋に戻った僕は、ふと部屋の隅に置いたダンボールに目をやると、そこに先輩の好物であるルマンドを見つけた。
――今日から、よろしくな――
小さく黒マジックで書かれた文字に、胸がきゅっとする。
不器用な先輩の小さな優しさが伝わってくる気がした。 雨の日に微かに感じた胸の高鳴りは、憧れだった先輩から小さな恋へと変わっていった。
Fin.
いやぁ、ルマンドとダンボールをどう登場させようかと考えながら、本当は両端でお互いにくわえさせようかと悩んだりもしたのですが、ここに落ち着きました。
この二人、これからどんな生活が始まっていくのかちょっと楽しみだったりします。
ちょくちょく書いていけたらいいなと思いながら、今回も楽しく書かせて頂けました!
なみさん、お受け取りくださいー!
よろしくお願いいたします。
