淡い初恋 【#noteでBL小説企画】
こんばんは。
今回も企画小説に参加させて頂きました。
お題を見て、1つのワードに釘付けとなっていた私。
「ヤンキー」「卒業」「スポブラ」の『スポブラ』に反応。
これって、どういう感じに表現すればいいんだろうか?と。
男の子が興味本意でつける?とか、つけている男子を見てしまったとか、色々想像するなかで、これにしようと書きました!
5000字以内ということで、おそらくギリギリくらいの文字数だと思います。
参加させて頂いた企画は、こちら。
今回で2回目の参加となりました。
こういう企画でお話し書くのって、書いたことのないジャンルとかにも挑戦できるので楽しいです。
なみさん、ありがとうございます。
そして、同じように参加されているみなさまの作品を読ませてもらえるのも今から楽しみです。
それでは、楽しんでもらえますように。
淡い初恋
クラスでは決して交わることない僕たちなのに、何故か君から目が離せないんだ。
高校三年の夏休みが終わって、まだ暑さの残る新学期。始業ベルが鳴ると同時に教室へ入ってきたのは、金髪頭の男子生徒だった。
もともと目立つ存在ではあったけれど、まさかこの時期に思いきりすぎだろって突っ込みそうになる。
そんな勇気があるわけもないのに――。
相変わらず気怠そうに歩きながら、当たり前のように自分の席へ座ると、すぐさま鞄を机の上にどかっと乗せてその上に両腕を組み、顔を伏せてしまう。
そんな一部始終をクラス全員がぽかんと見守っていた。
担任の溝口先生も呆気に取られたように何も言えないまま、話が進んでいく。
「じゃあ、始業式だ。体育館へ移動するように」
「はーい」
一通りの話が終わり、先生の言葉で生徒たちが立ち上がって体育館へ移動が始まる中、溝口先生が僕の名前を呼び、「悪いけど、田端のこと体育館まで連れてってくれ」とお願いされた。
なんで僕がと思う反面、どことなくその役回りが自分であることに快さを感じていた。
「田端くん、始業式始まるから体育館へ移動しよう」
誰もいなくなった教室で、そっと君に近づいて行き声をかける。
反応を見せない君に調子に乗った僕は、ゆっくりと腕を伸ばして金髪の前髪にそっと触れた。
ふわふわの髪は、思ったよりも柔らかくて指をするりと通っていく。
長くてカールした睫毛、鼻筋は通っていて、唇もぷくりと赤い。気がつけば、順番に指先で辿っていた。
「あっ……」
ふと視線を感じて唇に触れていた手を離すと、閉じていたはずの目が開いてこちらを見ていた。
誤魔化すことも出来ずに固まっていたら「体育館、行くんだろ?」と倒していた体を起こして君が立ち上がる。
「う、うん」
「さっ、行こう」
何事もなかったかのように君が歩き出す。僕はその後から少し距離を空けて着いていく。
あの真っ直ぐな視線に、まだ胸の奥がどきどきと脈を打っていて苦しい。
そう感じていた。
◇◇◇◇◇
始業式の日から、気がつけば君を目で追いかけている自分がいた。
基本的に授業中は寝ていることが多いけれど、たまに起きているときは真面目にノートを取っていたり、誰かとふざけたりしていて、先生に注意されていることもある。
一緒にふざけることができないのが僕たちの距離感を物語っているようで、勝手に嫉妬心さえ生まれてしまう。
今日は朝から天気予報で急な雨に気を付けるようにとお天気お姉さんが悲しそうに眉を下げて言っていたので、ちゃんと折り畳み傘を鞄に忍ばせてきた。
朝一番に教室に来るのが僕の日課で、教室で飼っている亀の世話をするためだ。
三年になってすぐの頃、遅刻してきた田端くんが包み込むようにして連れてきた『亀きち』と名付けられた亀は、自転車通学の君の前をノソノソと歩いていて、車に引かれたりしたら困るとそのまま学校に連れてきた。
「おい、学級委員長。こいつの世話係任命していい?」
初めての君との会話がこれだった。
何で僕が――と思いながらも、嫌な気はしなかった。むしろ、田端くんの中に僕の存在があることにちょっとした嬉しさがあったくらいだ。
亀きちの水槽を眺めながらそんなことを考えていると、誰かが教室へ入ってきた気配がして、ドアの方へと顔を向ける。
「あっ……」
「最悪……雨にやられた」
「びしょびしょじゃない。早く拭かなきゃ……風邪引いちゃう」
僕は、もしものためにタオルも鞄の中に常備していた。急いで自分の席まで駆けていき、タオルを取り出すと君の元まで近づいていく。
その体は雨に濡れたシャツが透けてラインを映し出していた。
引き締まった体――ぷくりと主張する尖った赤みのある二つの蕾。
それはまるで、小学生の頃の体育の授業で見てはいけない女子のスポーツブラを見てしまったときのような、ドキドキする瞬間だった。
何とか見ないように顔を背けながらタオルを差し出すと、するりと手からタオルが抜き取られていく。
「学級委員長、さすがだな」
「な、何が?」
「タオル持参してるとこ、とか。どこ見ていいかわかんなくて赤くなってるとこ、とか」
「ちょっ……」
言われた言葉にはっとして顔を上げると、にんまりと笑いながらこちらを意地悪そうに見ている君がいて、全部見透かされていると感じた。
でも、それを認めてしまうことはできるはずがない。
「そんなことないし……」
そう言って、今のこの状況を誤魔化すように背を向けると、自分の席へと戻っていく。
それが僕の精一杯に出来ることだった。
いつの間にか体操服に着替えていた君の首には、今朝渡したタオルがしっかりと掛けられていて、それを見るたびに胸の奥がとくんとする。
何度も何度も確認するようにチラ見してしまっているせいか、ふいに君と目が合う回数が増えた気さえしてしまう。
見ていることがバレないようにすっと目を逸らしてしまうけれど、それがあからさますぎれば誤解されてしまいそうでハラハラしながら、教室の窓側に干されているシャツが風に揺られて柔軟剤のいい香りが鼻腔に届くことを擽ったくも感じていた。
「学級委員長、これ洗って返すわ」
「そんな、別に大丈夫だよ」
「そういうわけにはいかない。じゃあ、また明日な」
HRが終わって、まだたくさんのクラスメイトがいる中で堂々と僕に声をかけてきた君は、ふわふわとタオルを片手に振りながら、乾いたであろうシャツを着て帰って行った。
周りの人たちは、その様子を不思議そうに見ている。
無理もないだろう――だって、僕たちは同じ部類に属さない関係性だから。
「武宮って、田端と仲良かったっけ?」
「いいや。お天気お姉さんの助言を信じて持ってきたタオルが役に立ったみたい」
「へえ……」
クラスで一番仲の良い角振が話しかけてきたことに正直に答えると、興味なさそうな返事がきたのに、今はそんなことも気にならない。
本当に、人間って単純――。
この日は、一日中心が落ち着かなかったわりには、すごく気分は良かった。
◇◇◇◇◇
「おはよ。これ、サンキュ。あと、お礼」
まだ誰も来ていない教室で亀きちの世話をしていると、隣にすーっと誰かが近づいてきて、タオルとチョコを差し出された。
顔を上げれば、いつもの数十倍優しそうな顔をした君がいて、ぽかんと見惚れてしまう。
「おい、学級委員長」
「あっ、はい」
いつまで経っても受け取らない僕を不思議そうに覗き込んでいる君と視線がぶつかって、その距離の近さに思わず体を引いてしまうと、倒れそうになった体がしっかりと支えられた。
「あっぶな」
「あの、ごめん……」
お互いにさっと離れて距離を取ると、僕はようやく腕を伸ばして落ちてしまったタオルとチョコを拾いあげる。
「しっかし、委員長って細い体してんのな」
「田端くんががっちりしているだけだから……」
「まっ、俺だって少しは売られたケンカで負けないように鍛えてはいるけど」
「そんなの自慢にならないじゃん……。そもそもケンカって、しちゃダメでしょ」
「だから、売られたらだって」
「うーん……」
そっかと受け入れるのも違う気がして困っていると、突然君が笑い出した。
「なんでそんな悩むんだよ! そっかでいいとこじゃん」
「いやぁ、だってそう言えばケンカをするの認めたみたいで嫌だなって思ったから」
「っとに、どこまでくそ真面目なんだよ。そんなとこまで深く考えんなって」
「でも……」
「はいはい。とりあえず、それ返したからな」
「う、うん」
それだけ伝えられると、ささっと教室から出ていってしまった。
一人取り残された僕の手の中には、タオルとチョコがしっかりと握られている。
そのタオルからは、昨日の風に乗って鼻を擽ってきたあの柔軟剤の香りがする。
僕は、目を瞑り匂いを吸い込んだ。
結局、君が教室へ戻ってきたのは朝礼ギリギリの時間だった。どこで時間を潰していたかはわからないけれど、本来ならこれが君のデフォルト。それなのにここ二日ほどは早く来てくれてたんだと今更ながらに気づく。
わざわざ僕にこれを返すために早起きしてくれたってことだと思ったら、すごく嬉しかった。
だけど、その嬉しさは長くは続かなかった。それからすぐ、君の隣にはとてもお似合いの可愛い女子がいたから。
「あの二人、付きあってんのかな?」
「知らない……」
角振の言葉に明らかに不機嫌そうな対応をしてしまう。あの日以来、君が僕と関わることはなくなっていた。もともと交わることのなかった二人だったのだから、今まで通りに戻っただけ。ただ、それだけなのに。
こんなにも胸の奥が苦しい――。
残り少ない高校生活がこのまま終わってしまっても、僕は後悔しないのだろうか? だからといって、自分からどう行動していいのかもわからない。
今は、顔を伏せることでその現実から目を背けることしかできなかった。
顔を上げれば嫌でも二人の姿が目に飛び込んでくる。それを真っ直ぐに見ることができるほど、僕は器が大きくない。
◇◇◇◇◇
結局、僕たちの関係は何も変わることのないまま卒業式当日を迎えてしまった。
金髪だった髪色は、今朝教室に入ってきた時には黒色に変わっていて、どちらの色も君なら似合っていると心の中で思っていた。
「武宮ー、大学行っても元気でな」
「角振も。またな」
式典も終わり、クラスメイトで別れを惜しんでいる中で、僕はまた君の姿を探している。ずっと変わらなかった。どんなに苦しくても、君を目で追いかけている自分が変わらずにいた。
最後にちゃんと話したい。そう思って何とか君の姿を探す。
「ねえ、田端くん知らない?」
「さあ、知らないけど……」
君の彼女を見つけて思わず駆け出していた。君のことを訪ねると、素っ気ない返事が返ってくる。
「本当に知らない?」
「知らないってば。それに、私たちもう別れてるし」
「えっ?」
「もう時効だと思うから教えてあげる。実は、この写真を見せて条件を出したの」
そう言って、彼女がスマホを取り出すと、一枚の写真を僕に見せてきた。そこには僕と君が写っていて、あの倒れそうになって支えられているものだった。
「なに、これ……」
「たまたま二人のこと目撃しちゃって、保健室で寝てた田端にこれ見せたら、武宮には言うなって。だったら、見せない変わりに私と付き合ってって言ったの」
「なんで、そんな……」
「武宮が戸惑うようなことしたら許さないってすごい剣幕だったけど、私からしたらラッキーってね」
「じゃあなんで別れたの?」
「そりゃ、卒業までに好きになれなかったら別れるっていう向こうからの条件だったから」
「ふざけんなよ……。くそしょうもない」
「なに?」
「おまえなんて、田端と釣り合わない」
「じゃあ、あんたは釣り合うっての?」
「少なくとも、俺はあんたよりずっとあいつを好きだって自信はある」
捨て台詞を残して、僕は走り出す。
急げばまだ間に合うはずだ。
学生生活でこんなに全力で走ったことなんてあっただろうか。
「田端くん!」
ようやく君の後ろ姿を見つけて、名前を呼ぶ。歩いていた足を止めてゆっくりと君が振り返る。
「武宮じゃん。どうした?」
「このまま終わりなの? 僕、まだ伝えてないことがある」
「なに?」
「ぼ、ぼくは……。もっと君と話したかった。もっと君に近づきたかった」
「へえ、武宮って優等生のくせに変わってんのな」
「田端くんは、違うの?」
「だって、俺とお前じゃ違いすぎだろ?」
「なにも変わらないよ。僕たちはなにも違わない」
「今まで、ありがとう。亀きちのことも、任せっきりで悪かったな」
「そう思うなら、ここから僕たち友達になろう」
「はっ? おまえなに言って……」
「亀きちも田端くんも僕が大切にする。それで、どうかな?」
「っとに、どこまでバカなんだよ」
「いいじゃん。ね?」
バーカと言いながら君は笑うと、大きな手で僕の髪をくしゃくしゃにした。
僕の淡い恋心はまだ始まったばかり。
Fin.
