第1章|生まれ変わり一回目 はじまりの子(しの)― 人生のギアが切り替わった日 ―
入籍する日の、二週間ほど前だった。
お腹に、まだ名前のない命がいることを知ったのは。
驚きはあったけれど、喜びや不安よりも先に浮かんだのは、
「人って、本当に妊娠するんだなあ」という、
どこか他人事のような不思議さだった。
計画していた人生の延長線上、という感覚はなかった。
むしろ、静かに、でも確実に、
もう元の場所には戻れないと知らされた瞬間だった。
まだ「母」になる前の私
当時の私は、高校で期限付き常勤講師として働いていた。
一年ごとに更新される契約。
来年度は別の学校へ行く流れも見えていた。
仕事は楽しかった。
部活はサッカー部。
平日は授業と準備に追われ、土日も休みはなかった。
この生活を、
結婚しても、子どもを持っても、
続けられるだろうか。
答えは、ずっと曖昧なままだった。
「いつかは変えたい」と思いながら、
その“かわりどき”だけが、見つからなかった。
しのが来て、決まったこと
妊娠がわかって、私は仕事を辞める決断をした。
迷いがなかったわけではない。
でも、決めた瞬間、
胸の奥がふっと軽くなるのを感じた。
正直に言えば、ホッとしたのだと思う。
逃げたかったわけではない。
ただ、もうこの生活を続けることが、
自分にも、これから生まれてくる子にも、
合わなくなっていた。
しのは、
私から何かを奪ったのではなく、
迷い続けていた選択に、終止符を打ってくれた。
家族になる、という確信
夫とは、付き合うと決めたときから、
「この人とは家族になる」という感覚があった。
特別な理由があったわけではない。
ただ、疑いがなかった。
しのを妊娠して、その感覚は、
「予感」から「確信」に変わった。
後になって、しのはこんなことを言った。
「しのはね、父上より先に母上のところにおったんよ。父上のほうが、あとから来た。」
その言葉が事実かどうかは、わからない。
けれど、私の人生の感触としては、
確かにそうだった気がしている。
生まれ変わり一回目
今振り返ると、
一人目の妊娠と出産は、
「母になる」出来事というよりも、
それまでの私が終わり、
新しい生活が始まる合図だった。
仕事の仕方も、
時間の使い方も、
人生の重心も、
すべてが、静かに切り替わった。
しのは、
人生のギアを切り替えるために、
最初に来てくれた子だったのだと思う。
このあと私は、
生活の拠点を移し、
「働きながら子育てをする」という道を選ぶ。
そのとき、
二人目の子が、お腹にやってきた。
生まれ変わり二回目は、
世界が少しずつ広がっていく物語になる。
第二子の記事はこれです。
