大人保育園「第一話」東西最強の極道、「子ども」になる。
あらすじ
東日本最強の極道・神崎蓮司。そして、西日本最強の極道・真壁龍二。
長年敵対してきた二人は、壮絶な銃撃戦の末、気がつくと子どもの姿になり、不思議な「大人保育園」で目を覚ます。
そこは、中身は大人のまま、人生をもう一度やり直すための場所だった。
天然だが芯の強い保育士・森野ひよりに振り回されながら、
「ありがとう」
「ごめんなさい」
「いただきます」
といった人として生きる上で最低限のことを一から学び直す二人。
しかし、保育園での日々は、やがて二人が背負ってきた過去や因縁、そして人生そのものを変えていくことになる――。
「あなたは、大人としての振る舞いができていますか?」
一話2000文字前後、全十話完結の笑って泣ける、新感覚ヒューマンドラマ。
二人の極道
神崎 蓮司(かんざき れんじ)(44)は、自身が所属する東部連合会直系、「神崎組若頭」だった。
黒髪を肩まで伸ばしたオールバック。
神崎は8年前の抗争を思い出す。
亡き妻、神崎 美咲(かんざき みさき)を銃弾から庇った際に、右の頬を掠めた銃弾の傷跡が、ナイフで抉られたように生々しく残っている。
黒いスーツを着こなし、レイバンのサングラスを着用。知能派ではあるが、昔気質の武闘派でもある。
一方、西日本を牛耳る西部連合会直系、「真壁組若頭」真壁 龍二(まかべ りゅうじ)(42)は、典型的な坊主頭。
眉毛を反り落とし、付いた名前は「西の狂犬」。一見ありふれた異名だが、その狂気じみた行動は想像を絶する。
真壁は女性を知らない。幼少期に現組長に拾われ、ただ極道として生きてきた。興味のあるものはただ一つ。
「親父(組長)のためなら人の命すら奪い取る」
徹底的な武闘派組織の一員として生きてきた。
そんな、東西最強の極道と呼ばれた二人。
互いの組長は老いている。
その東西の覇権を懸けた「代理戦争」が、ついに決着の時を迎えようとしていた。
廃工場。そこには数百人の男たちが苦しみもがいていた。
東のトップ・神崎蓮司と、西の雄・真壁龍二。
前回の抗争から8年、今まさに二人は睨み合っている。
異様な静寂が流れる中、立ち尽くすのは二人だけ。
互いを見据え、不敵な笑みを浮かべる東西の頂点。
神崎は煙草の煙を吐き出し、静かに口を開いた。
「真壁、久しぶりだな。やっとお前の首を持っていける日が来たぜ」
その低く、呻くような声は、一般人が聞けば震え上がるほどの貫禄が漂う。
だが、真壁はそれを聞いて、目を大きく見開いて叫んだ。
「黙っとれや!神崎!やっとワレのタマが取れる日が来たんや!大人しくくたばれや!」
神崎は煙草をコンクリートへ捨て、足で踏みつけた。
彼にとって、妻・美咲を奪った張本人は目の前の真壁だった。
「黙ってろ腐れハゲが……それは俺の台詞なんだよ。抜かしてんじゃねえぞ」
真壁は、口を大きく開けて笑い出した。普段知的で冷静な神崎が怒りを露わにしているのが、楽しくて仕方がない。
「あんときは笑わせてもろうたわ!嫁が目の前で倒れて、お前がわんわん泣き崩れとる姿は傑作やったで!男のくせに女一人死んだくらいでボロ泣きしよって。ほんま情けないヤツやのう!」
神崎の脳裏に、8年前の映像が蘇る。
たまたまだった。
美咲は、追い詰められた神崎を救うため、強化ガラス仕様の特注ベンツで抗争の現場へ駆けつけた。
あの日、美咲は神崎を車に乗せて逃がそうとしていた。
その瞬間、どこからともなく一発の銃声が響いた。
神崎は咄嗟に美咲を庇った。
しかし、銃弾は神埼の頬を切り裂き、美咲の胸を貫いた。
彼女も極道の妻だ。見た目は優しく、おしとやかな美人だったが、その中には、神崎と一生を添い遂げる覚悟があった。
神崎はサングラスを外し、右手で握りつぶした。
拳からは血が滴り落ちる。
そして、ジャケットからチャカを取り出し、天敵にまっすぐ狙いを定めた。
左手でしっかりと右腕の肘を抑え、銃の反動を抑える。
片手での発砲では反動を殺しきれず、20メートル先の標的を正確に捉えることはできない。
その瞬間、真壁は一気に神崎へ駆け出し、片手で銃を撃ち続ける。
無論、ぶれているので、弾が当たることはない。
眼球が飛び出しそうなほど大きく目を見開き、舌を出しながら走りこむ真壁。
対する神崎は冷静に真壁の頭を捉え、一撃での制圧を狙う。
「終わりだ」
放たれた銃弾が、真壁の顔面を貫く。
容赦なく撃ち込まれる二発、三発の凶弾。
しかし、狂犬はすでに至近距離まで肉薄していた。
デタラメに連射されたうちの二発が、神崎の顔を無残に打ち砕く。
そのまま交差するように、二人は崩れ落ちた。
相打ちである。
西と東の大抗争は、二人の呆気ない死によって歴史に終止符が打たれるはずだった。
——だが。
神崎蓮司が目を覚ますと、視界に飛び込んできたのは見慣れぬコンクリートの天井。
周囲を見渡せば、小さな子どもたちが眠りこけている。保育園児くらいだろうか。
「どうなっているんだ……」
呟いた自分の声の高さに驚愕する。
紛れもない、子供の声。
立ち上がってみても、極端に低い視界が違和感を煽るばかりだ。
「どうなっとんねん!」
神崎が後ろを振り向くと、坊主頭の少年が同じように驚いて自分の体を触っている。
どこかで見たような気がする。
「神崎ぶっ殺して、ワシも死んだはずや!どうなっとんねん!」
「真壁……か?」
目の前にいる少年は、真壁の面影を残している。
その坊主頭の子供は、神崎に近づいてきた。
「おいガキ!ここはどこやねん!どうなっとんねん!」
何が起きているのか聞きたいのは、神崎の方だった。
そこへ、一人の「大人」が姿を現す。
亡き妻・美咲に生き写しの女性。 ポニーテールに茶髪。
清楚で知的な顔立ち。
なぜ、死んだはずの妻が目の前にいるのか。
「こら!蓮司君と龍二君!お昼寝しなきゃ駄目でしょ!」
その声を聞き、神崎は瞬時に状況を悟った。
ここは死後の世界。
美咲が自分を迎えに来てくれたのだ、と。
ついでに、要らないおまけ(真壁)まで引き連れて。
真壁はすぐに食いつくと思っていたが、なぜか「もじもじ」している。
神崎は思い出す。
「西の狂犬・真壁龍二に怖いものはない。ただ一つ、女性を除いては」という話を。
「美咲じゃないのか?」
神崎が呟くと、美咲だと思っていた女性が呆れた顔をした。
「二人とも寝ぼけてないで、お昼寝の時間はしっかり守りなさい。先生の名前は森野ひよりでしょ。美咲?美咲ちゃんなんて、この園にはいません。」
そして、子供になってしまった神崎と真壁を並ばせた森野 ひより(もりの ひより)(27)は、しゃがんで二人に言った。
「ひ、よ、り、先生。はい。呼んでみようか」
少年真壁は、照れた顔で答えた。
「ひ、ひより先生」
頭を撫でられる真壁。
それを見て神崎は思う。
「どうなっているんだ……」
「どうもこうもお昼寝しなさい。神崎蓮司君」
どう見ても、亡くなった妻の「美咲」そのものだったのだ。
だが神崎は思う。死後の世界だろうと、妻に会えたのだから。
現実か夢か、それとも死後の世界なのか──。
何も分からない。
ただ一つ、確かなことがあった。
東西最強の極道は――
明日から「保育園児」になる。
第一話 完
第二話「極道、先生に叱られる」へ続く
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