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高知能ゆえの孤独・渇望・不器用さ〜ギフテッドの苦悩と解放(後編)

前編からの続きです。前編では生きづらさ、心理カウンセリング、WAIS受検について書いています。)

大人のギフテッドとしてどう生きるか

WAISの結果、自分は平均的な知能から逸脱した位置にいることを知った。
これは、今までの人生で出口の見えない迷路を彷徨っていた自分にとって、進路を照らす光であった。
しかし同時に、この迷路の攻略を強いられている人間は滅多にいないという事実も知ってしまった。
これからどう生きるべきなのか?

"青い本"を手に取って

そもそも、正直なところWAISの結果を見てもまだ高知能であることを100%受け入れていない自分がいた。
検査で高得点だったことは事実かもしれないが、実際の生活では様々な不具合が生じている。
本当に高知能ならこの不具合を回避できるはずではないか?

その答えを探して手に取ったのが、ギフテッド界隈で"青い本"として知られる(?)
『ギフティッドその誤診と重複診断』
であった。
この専門書には、ギフテッドの人々が抱えやすい性質や、それらが他の精神疾患や障害と誤診されがちであることがまとめられている。

例えば、発達障害等に誤診されやすいギフテッドの特徴として

・興味関心を持った時の異常なほどの生産性と集中力の高さ(フロー)

・人の話を聞かなければならない場面でも、知的刺激が少なすぎると自身の思考、空想の世界に入ってしまい、集中を維持することが非常に困難

・周囲に馴染めないが、馴染んでいないことを自覚し悩んでいる

・思考速度に差がある人に共感することは難しいが、思考速度が似通っていたり興味関心を共有できる相手とであれば、共感性を示し普通のやり取りができる

などが挙げられている。
確かにこれらは自分にも当てはまる。

また、ひとたびギフテッド特有の興味対象への一点集中状態(フロー)に陥ると、日常生活を含め他の全てを忘れて猛烈に走り続けるため、それを理解できないパートナーとの関係は崩壊しやすい、という記述もあった。
これは1回目の結婚で特に感じたところである。
仕事に集中し過ぎた時期があり、それが決定的なすれ違い、離婚に繋がった。

ちなみに、この記事を執筆している今もフロー状態に入っている。
前後編併せて1万字超の記事を文字通り寝食忘れて一気に書いている。
集中し過ぎて空腹も忘れ、眠さも感じず執筆しながら深夜に寝落ちし、起きたらまた書き始める。
そして冬なのに何故か下着のパンツ1枚でPCに向かっている。

…と、少しこの記事にノイズが乗ってしまったが、ともかくこの”青い本”によって、今までの人生に生じた様々な不具合のメカニズムを理解することができた。

書籍自体について解説を始めると長大になるため、ギフテッドに関する書籍の詳細はまた別記事にしようと思う。

妻との戦い

”青い本”のお陰で自身の特性について再度客観視することができ、WAISの結果も意味のあるものとして腑に落ちた。
次は、実際の生活について考えていかなければならない。

まず、目下の課題として現在の結婚生活をどうするか?
知能というのはこれからどうにかなるものでもないし、今の関係が改善する見込みはない。
最初にカウンセリングを受けた時点では、どうにかして自分の心境を変えて、セックスレスを解消したいという気持ちだったがそれは無理な話だと分かってしまった。
妻と自分では見ている世界が違いすぎたのだ。

WAISの結果を知ってしばらくした頃、妻にこのことを打ち明け、どうしても苦しいから離婚してほしいと懇願した。
ところが、妻は断固拒否した。
当然である。妻視点ではこの苦痛を理解できないのだから。

知能の高さは身長のようなもので、高いだけでその人が優れた人間ということにはならない。
しかし背が高いと目線が上がり、より遠くのものが見えるように、高知能の人間にしか見えない景色がある。
妻視点では見えていない部分があり、そこが問題の核心なのだから納得できないだろう。

それに加え、知能に関して一番難しいのは身長と違って"見た目では分からない"という点。
身長なら相手が自分より背が高いことは明らかだ。
しかし、知能は分からない。

その結果、妻は「時間が経てば気持ちも変わる」という結論に達し、こちらの要望は完全に無視された。

品質の証明による自信

妻との離婚については膠着状態となり苦しい生活は続いていたが、一方で仕事に関してはWAISの結果を知ったことで良い影響が出てきた。
今までは自身の能力に自信がなく、職場で自ら積極的に仕事を企画したりすることは少なかった。
基本的に言われたことをするだけ。

ところが、WAISにより自身の品質が保証されたことで、突然自信を持って積極的に取り組めるようになった。
今まで非効率だった業務手順を自動化ツール、生成AIなどを使って効率化したり、自身の知識や取り組みなどを広く普及させるための研修を企画したりと次々自発的に動いていった。
その他にも、作文力を活かして弁論大会で優秀な成績を残したり、プレゼン力で上司を納得させて企画を通したり、自然体で成果が出るようになっていった。

このように成果を出していくと一目置かれるようになり、ますます頼られたりチャンスが巡ってきたりする。
そんなわけで、数日間に渡る社外研修に派遣されることとなった。

反応した同類発見センサー

研修では、自分と同じように業務の効率化に取り組んでいる人たちが全国から集まっていた。
様々な年代、役職の人たちと共に学んだり意見交換をする中で、一人異質な女性がいた。

自分より少し年下くらいだろうか?
外見はおとなしく小綺麗でしっかりした大人の女性。
そして内から溢れる自信、エネルギーのようなものを感じる。
しかし、彼女を見ているとあまり他の参加者と交流しようとせず"孤高"の雰囲気を纏っていた。

ちょっと変な人だなという印象を持っていたところで、会話のフック、手掛かりのようなものが飛び込んできた。
研修中の発言から、彼女が自分と同じツールを使って業務の自動化をしていることが判明したのだ。

先に述べた通り自信満々の自分は、臆することなく早速"孤高"の女性に話しかけてみた。
まずは業務内容について聞いてみたが、仕事のレベル、考え方が明らかに一般人ではない。
会話のテンポも心地よく、思考も噛み合うし話していてとても楽しい。
他の参加者と話した時の物足りなさとは明らかに違う。

そして、仕事の話をしている時の様子がまるで『物事に夢中になっている時の自分』を見ているかのようだった。
相手を見ているようで全く相手を見ていない。ただ、『これが面白いんだ!』という高揚感をぶつけている。

一通り話をしたあと、他の話題に移ると彼女が自分と同じく理系修士卒であることが判明した。
しかも専攻まで近い。
趣味のやり方も一点集中のめり込み型。
最早自分自身を見ているかのようだった。
自分が女性だったらこんな人なんじゃないかな?
と思った。

この時、自分は離婚の話し合いでボロボロだったからこの女性とはその場限りだったけれど、まさに 同類発見センサーが反応したような出会いだった。

そんな悩み、海を眺めてたら吹き飛ぶぞ!

幸せな出会いを経て現実の日々に戻ってきたのだが、依然状況は厳しいままだった。
離婚の話し合いは平行線のまま。
そんな中、妻の要望で義両親との話し合いが行われた。
しかし、論理的な会話ができる人たちではなく、まともな会話は成立しなかった。
自分の苦しさを説明しても伝わるわけもなく、言われた言葉は……

「そんな悩み、海を眺めてたら吹き飛ぶぞ!」

頭がおかしくなりそうな空間だった。

このままでは折れてしまう。
そう思って助けを求めたのは、東京に住む2人の旧友だった。

普段は特に連絡を取らないし、1年に1回も会わない。
でも、彼らと話したかった。
どこか『普通じゃない』オーラのある人たちだけれど、不思議と居心地が良いあの空間。
今、自分はそれを必要としている気がした。

東京での穏やかなひととき

とある休日、東京駅で合流した学生時代の同級生と共に、二人でお台場を目指す。
幼少期からプログラミングに没頭していた彼は、学生時代の専攻ではなく、その趣味を仕事にしていた。
そんなSEの彼と話しながら、ふと思い出したエピソードがある。

学生時代、趣味が高じて情報系専攻の学生とチームを組んでプログラミングコンテストに出ることになった彼。
しかし、専攻しているはずのチームメート達は全く彼のレベルについていけず、彼は
「みんなやる気がないから僕一人でやってるんだよ」
とぼやいていた。

優秀で寡黙で優しいけど不器用な、そんな彼なら、自分の今の気持ちを分かってくれるのかもしれない。

窓の外に見える眩しいお台場の景色。
ランチを摂りながら、今の自分の苦しい状況、そしてWAISを受検したことを打ち明けた。

自分が話終わると、彼は一言だけ発言した。

「○○くん(自分)が頭良いことなんてみんな知ってたと思うよ」

あ、そうなの。
そんなに認められてたんだね。
心のどこかで、普段連絡も取ってないのに、こんな時だけ都合良く使ってしまうことに負い目を感じていた自分。
その影が霧散した。

食事の後、二人でお台場の科学館へ。
こんな二人だから特に盛り上がることもなく、淡々と静かに展示を見ていくんだけど、それが心地良い。
お互いに相手を見ていないから。
見ているのは、展示と、時々それに対して相手が置いていく言葉だけ。
老化現象に関する展示を見た後、彼は

「体に関することがない」

とだけ言った。
一見意味不明な言葉だけど、自分には彼が考えていることが手に取るように分かる。

「老化現象による結果だけが書いてあって、体内での科学的なメカニズムが説明されてないってことね」

彼は満足そうに「うん」と小さく頷いた。

お互いマイペースだから、気づけば相手が全然違うものに興味を惹かれてどこかに行っていることもある。
あれ?どこ行った?と周囲を見渡すと、彼は壁に掛けられた幅2m、縦1mほどの画面と向き合い、ミニゲームに興じていた。
次々ランダムな箇所に表示される画面上のマークをひたすら手でタッチしていくというシンプルなゲーム。
彼が遊び終わると、制限時間内にタッチした回数が画面に表示された。

振り向いた彼は、少しニヤッとして言った。
「○○くんもやってみてよ」

というわけで、自分もやることになった。
この手のゲームは苦手だが、彼のプレイを見て攻略法は理解できた。
体を後傾させて首を引くことで、目の位置を壁からできるだけ離し、目線の移動角度を少しでも小さくする。
且つ、肘は伸ばして腕を斜め外側に開き、指先を極力画面の両端に近づける。
画面の見方としては、できるだけ広い範囲を俯瞰して見ることで、同時に複数発生するマークを全て把握する。
そして、1つずつマークを押すのではなく、複数のマークを最短で押せるルートをイメージして手を動かし、手の移動距離も最短を心がける。
これを実行したところ、彼を含めその場にいた人たちと比較して1.5倍くらいの高スコアが出た。

自分のスコアを見て嬉しそうな彼。
「さすが○○くん。すごいね。なんでそんなにできるの?」

上記の戦略を話しながら、こんな時間が過ごしたかっただけなんだよなあ、としみじみ思った。

二人の間には、とてもとてもゆっくりと、時間が流れていた。

夕方、穏やかな時間を過ごした科学館を後にして、SEの彼とは解散した。

自分は再び電車を乗り継ぎ、日が暮れる頃、住宅街にひっそりと佇む小さなカレー店に入った。

しばらく待つと、今回の東京で話したかったもう一人が現れた。

先ほど話したSEの彼とは対照的に、外向的で明るい、けれど思慮深く博識な新聞記者。

美味しいカレーを食べながら、彼にもWAISの話をしてみた。
反応はSEの彼と同様だった。
そして、新聞記者の彼はこう打ち明けた。

「ぼくも彼女と上手くいかなくて、心療内科で相談したことあったんだよね。検査まではしなかったけど、そういう傾向はあるってさ。」

彼が言うには、人に対して共感が薄い、冷たい人間だと思われがちらしい。
それは意外だった。

自分は、新聞記者の彼もSEの彼も、とても優しくて温かい人格者だと思っていた。
しかし、共感が薄い薄情者だと感じる人もいるらしい。
むしろ、普通の人は彼らをそう見るのだろう。
ということはつまり、自分自身もそう見られているということ。
実際、それは結婚生活や仕事などでも感じているところだった。

彼らと、世の中の多くの人たちでは何が違うのだろうか?
"共感"というものの捉え方が違うのかもしれない。
自分が彼らに共感する時、感情単体ではなくその感情に至る経緯や構造、思考、それに対する彼らの行動を含めて共感している。
そのロジックが整っているからこそ自然に共感できる。

しかし、言語化されていない綿埃のような感情を投げられるだけだと、どう反応して良いのか分からず困ってしまう。
それを薄情だと言われているのかもしれない。

その後、二人はカレー店を後にして、駅のビアバーで飲みながら仕事について語り合った。

苦手なお酒を飲んで酔っ払いながら仕事について話す彼。
彼の仕事の話は面白い。
個性があって、信念があって、熱量がある。
全然違う仕事をしているのに、結局組織の構造なんてどこも同じなんだな、と彼の苛立ちに共感する。

そうして幸せな時間は過ぎていった。

駅で彼と解散して1人ホテルに向かう道中。
普段縮こまっていた心が、東京の夜空に自然に解き放たれ、広がっていった。

○○年越しの答え合わせ

ここで、もう一人の友人について話しておこう。

自分がWAISを受けたことを打ち明けて以降、時々連絡を取り合っていた学生時代の同級生がいた。

彼に初めて出会った時の印象は強烈だった。
彼は教室内で異彩を放っていた。
物怖じしない、底抜けに気楽で、自由で、一切の力感がない、あどけない少年。
そんな感じ。
彼は自分とは違い、とにかく自由に生きているように見えた。
けれど、何も考えていないわけではない。
彼には彼の譲れない拘りがあり、苦しみもあったと思うが、その拘りを貫き通した結果が自由に見える振る舞いだったのだろう。

そんな彼は今、自由の国にいる。
海を隔ててやり取りをする中で、彼に勧められた一編の映画
『グッド・ウィル・ハンティング』
孤独な天才が自らの才能を認め、心を開いて旅立つまでの軌跡だった。

「○○くんと話してて、主人公と被るところあるよなあと思って」

その後も連絡を取り合ううち、彼も知能検査に興味を持ったようだった。
そして、一時帰国の際にWAISを受検。

まあ、結果がどうなったかは自明ですよね。
○○年越しの答え合わせだった。

あの、あまりに自由で不真面目にも見えるあどけない少年。
あれがギフテッドそのものだったのだ。

そして大海原へ

初めて心理カウンセリングを受けてから1年弱。
時間はかかったものの、友人からの後押しも受け、紆余曲折を経てようやく離婚することができた。

自分は何者なのか?
その答えを求め、ひたすら拘りのスコップで泥だらけになって穴を掘り進めた先で、不意に視界が開けた。
キラキラした海辺に目を細めながら、潮風を胸いっぱいに吸い込む。

男はトンネルから出て一息つくと、新たな居住地を探して大海原へ漕ぎだした。
拘りのスコップを携えて。
陸地は見えない。
見えるのは青い海と水平線だけ。
他の船に出会うことは滅多にない。
この大海原で、孤独とどう向き合うのか?
苦しいこともあるだろう。
でも、たぶん大丈夫。
どうやらこの船の性能は割と良いらしいからね。
落ち着いて漕いでいこう。
このスコップと共に。

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