見出し画像

1/25 縄の超・交流会で見た緊縛ショーの世界(前編)

最後を飾る悟空さんのパフォーマンスが終わった時、一瞬会場は暗闇と静寂に包まれた。
そこには、言葉にしきれない余韻が漂っていた。
どこまで行っても、何十年極めても使っているのは縄だけ。
それなのに、ここまで多くの人を釘付けにし、人の心を揺さぶることができるのか。

それはただの技術じゃない。
ただの芸術でもない。
縄による生き様の表現であり、
絆であり、愛であった。

そして演者に、万雷の拍手が送られる。
「感動した」なんていう薄い感想では、
どうしても済ませられなかった。
だから、これからこの体験の全貌について、感じたこと、考えたことをできるだけ正直に
書いていきたい。


(予備知識無しでも読みやすいよう、固有名詞を減らす目的で敢えて「受け手さん」で統一して記述します。ご了承下さい。)


あの日の朝、自分は電車に乗り、会場へと向かっていた。
電車に揺られながら、この1週間の回想と葛藤が脳内に溢れる。

1週間前、初心者講習で初めて縄に触れ、昨日ようやく対人で後手をするところまで学んだばかりの自分。
まだ縄の世界について、そして緊縛についてほぼ何も分かっていない。
緊縛ショーは見たことがなかったし、たまたま良いタイミングでイベントがあると聞いたから行ってみようと思っただけだった。
特に楽しみにもしていなかったし、期待もしていなかった。

確かに縄を触って講習会で他の受講者と一緒に学ぶのは楽しかった。
縄を媒介とした心身の操作技術や相手との身体的、精神的やり取りは面白いし、知的好奇心があった。
しかし、そもそも自分は苦痛を与えるのも与えられるのも嫌だし、性的欲求を満たしたいわけでもない。
車窓を流れる景色を見ながら
「自分はこの世界に向いていないのだろうか?」
とそんな考えが何度もよぎっていた。

陰鬱とした気持ちで電車を降り、歩いて会場へ向かう。
そして到着したのは今池のベルベットアイスクリーム。

既に会場は多くの人で賑わっていた。
特に出入り口付近は混雑しており、人混みを苦手とする自分はその人口密度に気圧されるように会場の奥へと逃げ込んだ。
そして少し空いている場所を見つけ、ひっそりと体育座りで観覧場所を確保した。

建物の地下、窓もなく、日の光が当たらないまさにアンダーグラウンドな異世界感が漂っていた。
ステージ上には縄を掛けて吊るための支点がいくつか用意されており、中央には直径2m程度の白いラグが敷かれていた。
ラグの上には大きめの風呂敷が置かれ、なんとも言えない雰囲気。
これから何を目にするのだろうかと想像力が掻き立てられる。

しばらくすると、司会の鵺神さんがステージ上でマイクを握り、話し始めた。
途端にイベントの雰囲気が出てくる。
緊縛ショーのことは何も分からないけれど、
得も知れない期待感が湧き上がってきた。
緊縛は文化だから、地域性があるらしい。
話を聞いているうちに肌寒い会場の温度感が少し上がった気がした。

鵺神さんが登場して10分程度だろうか?
緊張感からか喉が渇いてきた。
そしてトークを聞いているうちに客席が埋まり、いよいよという雰囲気になる。
演者は4組らしいが、どんな人なのかもよく分からないし、出演順を言われてもイメージが湧かない。
まずは主催者でもある永遠さんのショーが始まるらしい。
鵺神さんは演者紹介トークを終え、袖に消えていった。

入れ替わるように受け手さんが登場し、薄暗闇の中、ラグの上に座り、長いリボンのようなものをラグの上に広げて置いてからポーズをとる。
白い衣装は水の流れを想起させるようなミステリアスで少し爽やかな趣があった。
アンダーグラウンドな雰囲気の逆を突く演出は想定外で、開始前から自身の先入観が崩れていった。

そして数瞬の後、音楽が流れ始め、ステージが照らされ、受け手さんがリボンを持って舞い始める。
そうか、水というよりは空を飛んでいるような演出なのか。

緊縛ショーって縛って吊るすだけかと思ってたけど、様々なストーリー性を付加できるんだな。
これは2組目以降も楽しみだ。

やがて受け手さんは舞い終え、力尽きたように再びリボンを置いてこちら向きでラグの上に座り込む。
青いライトに照らされる白い衣装。
そこに現れた永遠さんが、後方から受け手さんを包み込むように抱く。

まだ縄が出てこない!

かなり衝撃だった。
でもそれが良い。
観衆の期待感を最大限まで高める。
そして張り詰めた期待感が頂に達した時、永遠さんは受け手さんの両腕を優しく後手に組み、無駄のない所作で風呂敷から縄を取り出し、流れるような後手縛りが始まる。
最初の縄が受け手さんの鎖骨下を右から左へとシャープに流れていく。
手順自体は歴1週間の自分と同じだ。
しかし、なんだろう?
この張り詰めた空気が奔流となって溢れ出すような縄筋は!

もう、そこからは夢中になった。
永遠さんと受け手さんの表情、目線がさらに観衆を世界観にのめり込ませる。
次々と縄を掛けていくのではなく、時折手を止めて愛情を確認するかのように受け手さんと見つめ合う永遠さん。
波打つようなスピードの変化に翻弄され、二人の世界に魅了された。

やがて後手縛りと脚縄が完成し、支点に通された縄を引くと受け手さんの体が宙に浮いていく。
当然重力から解放されているわけでは無いのだが、美しすぎてまるで再び飛んでいるかのように感じられた。

腰高くらいまで吊り上げたところで、永遠さんは受け手さんの体に優しく回転を加える。
すると支点につけられたスイベルが回転し、ゆっくりと伸びやかに身体が回る。
回転によってそれまであまり見えていなかった背部の縄も見える。
細部まで美しい結び目と受け手さんの表現力に息を飲んだ。

その後も美しく優しい世界観で縄が展開され、やがて受け手さんの身体が元通り白いラグの上に着地した。

僅か1m程度しか浮いていなかったはずなのに、あまりの表現力に魅了され、壮大な旅路から帰還したかのような感覚があった。

そして、名残惜しむかのように丁寧にゆっくりと解かれていく縄。
縛って吊るしたら終わり、では無いんだ。
最後の結びが解けるまで、二人の世界にかけられた魔法は解けないんだ。

最後の最後まで、優しく見つめ合う二人。
そして、殊更にゆっくりと、最後の縄が受け手さんの胸から滑り落ちるように解かれた。

一瞬の静寂。
無意識に呼吸を止めて見ていたのだろう。
ふぅ、と小さく息を吐き、余韻を味わった。

いやぁ、すごい。
これが緊縛ショーなのか。
正直、思っていたのと違う。
もちろん良い意味で。

本日1組目、永遠さんのショーが終わり、再びライトに照らされ明るくなった会場。
他の観客と共に拍手をしながら、この複雑な感情をどう脳内で処理すれば良いのかと思考を巡らせていた。

緊縛ショーって、もっと激しいパフォーマンスだと思っていた。
こんなに優しくて温かい世界観で、観衆の心を動かせるのか。
お二人が作り出した美しい空間、時間に深く感じ入り、ゆっくりと余韻を噛み締めていた。

(中編に続く)
※中編では獅子若さんと谷崎椿さんのショーについて綴ります。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集