見出し画像

名探偵コナン番外編 天空のプロポーズ


 黒づくめの組織「ナイトバロン」との戦いが終結し、江戸川コナンと灰原愛がロスアンジェルスに移住してから5年が経っていた。ふたりはロスに移住して1年後、ベルモットから解毒剤を貰い大人の姿に戻っていた。その後灰原はFBIに入局したが、コナンとはすれ違いの生活を送るようになってしまった。コナンはそれに不満を洩らしたため、灰原は上司に相談し、FBIの仕事を大幅に減らしてもらった。今は半々の割合でコナンの仕事を手伝っている。


 コナンはリビングでソファに座り、依頼人の情報の入ったノートパソコンとにらめっこしている。
 付けっぱなしにしてあるテレビからは、女性キャスターが英語でローカルニュースを喋っている。
「今朝、ダウンタウンにある高層マンションの34階から猫が転落しましたが、奇跡的に足に軽傷を負っただけで助かりました。近くの芝生に落ちたことが幸いしたと見られます。専門家は『猫は空中で体制を整える反射能力がある』とコメントしてます」
「へえ、34階から落ちて軽傷かよ。猫ってすげーな」
 そこへ灰原がサンドイッチとコーヒーカップの載ったトレーを持ってくる。灰原は自宅兼事務所にいるときはいつも白衣を着ている。コナンはいつものジャンパーである。
「朝から精が出るわね。朝ごはんまだでしょ」
「お、サンキュー」
 リモコンでテレビを消し、ノートパソコンを脇に置いて灰原からトレーを受け取るコナン。
「そういえばメール見た?」
「ん? まだだけどどうかしたのか?」
「服部さんからメールが来てたわよ。和葉さんとの新婚旅行でロスに行くから、都合のいい日を教えてくれって」
「あいつ、また来るのかよ」
 服部がロスに来るのはこれで3度目である。
「いいじゃないの。このところ仕事ずくめだったから、たまには息抜きしなさいよ」
「そうだなー。じゃ、あいつの好きな大谷翔平選手の試合のチケット買って、その日に合わせようぜ」
「はいはい、どうせ私にチケットの手配頼むんでしょ」
「お願いします。灰原さん」両手で拝むコナン。
「しょうがないわね」


 夜、ロスの海辺の倉庫街でライダースーツを来たベルモットが、煙草を吸いながら誰かを待っていた。
 やがて約束の時間になると、倉庫の影から黒ずくめの服を着た長身の男が現れた。
「……よう、ベルモット。5年ぶりだな」
「あらジン。やっぱり生きてたのね。とっても嬉しいわ。また一緒にマティーニでも作らない?」
「悪いなベルモット。オレは一度寝た女と二度寝ねえ主義なんでな」
「まあ、久しぶりに会ったのに随分な言い草ね。でも分からなくもないわ。あなたはずっとシェリーを愛していた。これまで何度もチャンスがあったのに生かしておいたのがその証拠。でも残念ね。彼女には素敵な王子様がいるの」
「ほざけ! 裏切り者の女狐が!」
 ジンがベルモットに向かってサイレンサー付きの銃の引き金を引こうとした瞬間、銃声が鳴って銃が弾かれる。
「んっ!」
 突然、倉庫の屋根から黒いニット帽とスラックスを着たFBI捜査官、赤井秀一が立ち上がると屋根から飛び降りた。片手に持った銃をジンに向けたまま。
「……やっと会えたな。愛しい愛しい恋人さん」
「おまえ、ライか!」
 ライは5年前に、来葉峠で死亡したところをジンは確認していたはずった。
「私は好敵手を探していたのだよ。ベルモットに張れば会えると思ってね」
 肩を竦めるベルモット。
「形勢逆転よ。どうするジン?」
「ふん、死に損ないと女狐を地獄に送るのはオレの役目じゃねえんだよ」
 ジンが指を鳴らすと彼の背後からもう一人男が現れた。
「おまえは……スコッチか!」
 スコッチと呼ばれた男は、無言でポケットから長身ナイフを取り出した。ナイフの切っ先が月明かりで煌めいている。
「ほう、白兵戦をお望みか。いいだろう」
 赤井はそう言って銃を捨てると、腰のベルトに付けた革製のシースからサバイバルナイフを引き抜いた。その瞬間、スコッチが電光石火の速さで飛び出した。ナイフの切っ先が赤井の顔を狙う。



 服部と和葉がロスに来た翌日、4人で待ち合わせてドジャースタジアムに行き、デーゲームの野球を観戦した。その試合は大谷翔平選手がホームランを3本打ちドジャースが快勝。服部は終始上機嫌だった。
 野球を観戦したあと、コナンは服部たちを連れて、アミューズメント施設や映画館、高級ブティックやレストランの入った複合ビルエンジェルスゲートに入った。
 和葉と灰原、服部とコナンがそれぞれ連れ立って店を見て回る。
「……愛ちゃんもコナン君みたいに薬で小いそうなっとったんやね。大人の愛ちゃん、ごっつ美人やわー。なんか見とれてまう」
 灰原を見る和葉の瞳がきらきら輝く。
「和葉さんもとってもキュートでチャーミングね。私、あなたのことが大好きよ。服部さんにはもったいないわね」
「いやーん。愛ちゃん誉めるの上手やわー。照れてまう」
 両手を頬っぺに当てて、左右に身をよじらせる和葉。

「なんやあのふたりいちゃついてんなー」
 ふたりの様子を見て、平次が呆れたように呟いた。
 「大方ウマが合うんだろうな。見てるこっちが恥ずかしくなるぜ」呆れ顔のコナン。
「和葉がな、大きゅうなった灰原嬢ちゃんにどうしても会いたいゆうさかい、ロスに来たんやで」
「大人の姿で会うの初めてだもんな。……しかし服部、よく和葉ちゃんと結婚したよな。大したもんだぜ」
「アホ! お互い好きで5年も付き合うてんのに、結婚せえへんっちゅうわけにもいかんやろ」
「そんなもんか」不思議そうな顔をするコナン。
「おまえこそ灰原嬢ちゃんと長い付き合いなんやろ。結婚せえへんでええんか?」
「いや、オレと灰原はずっと前から夫婦みたいなもんだしよ。改めて結婚する必要がないっつうか……」
「アホ! そないなことゆうとったら愛想尽かされるで。……おなごはな。結婚っちゅうもんがえらい大切なんや」
「そんなもんか?」少し眉をひそめながら、コナンは灰原の横顔をちらりと見た。

「愛ちゃん、コナン君とロスで暮らして何年経つの?」
「もう5年目よ。早いものね」灰原は遠い目をした。
「ええな、5年も一緒に暮らせるなんて」
「そうね。お陰でこの街にも慣れてきたわ」
「ふたりは恋人同士なんやろ? どや? そろそろ結婚話とか」
「ないわ。彼、私のことを空気のようにしか思ってないみたい」白け顔で肩を竦める灰原。
「そんなことあらへんて。愛ちゃんのこと信頼してんのよ」
「そうかしら? 和葉さんはいいわね。服部さんにプロポーズしてもらえて」
 和葉の左手には結婚指環が輝いている。
「へへへ。照れるなあ。せやけど平次のやつ、中々プロポーズせんからちょっと煽ってやったんやけどな」
「あら、そんなこともあるのね」
「あいつ鈍いからなあ」
「ふふふ。見てると分かるわ」
「あんな。あたし愛ちゃんとコナン君見とると、胸がきゅんきゅんしてたまらんのや。こんなお似合いのカップル見たことないなーって。あ、蘭ちゃんと新一君もいいカップルやけどな」
「ありがとう。あなたたちも本当に素敵なカップルよ。いえ夫婦ね。私、あなたたちを見てると胸がぽかぽかするの」
「 さよか。大きにな愛ちゃん♪」

 4人はレストランで遅いランチを食べたあと、外の景色のよく見えるガラス張りの休憩スペースで、のんびりアイスクリームを食べていた。
 そこへ突然FBI捜査官のジョディ・スターリング、ジェイムズ・ブラックが現れる。
 金髪のジョディが緊張した面持ちで言った。
「やはりここにいたのね。クールガイ」
「一体どうしたんですか? おふたり共ご一緒で」
 眼鏡を掛けた老紳士のジェイムズが真剣な表情で説明する。
「今から42時間前に、赤井秀一とベルモットが消息を断った」
「なんだって!」
「私はシュウがジンと接触したんじゃないかと推測しているの」
「ちょい待ち。黒ずくめのやつらは五年前に一網打尽にしたはずやろ!」服部はジンが死亡したと思っていた。
「ええ、我々のリストに載っている構成員は全員逮捕したわ。ただ一人ジンを除いてね」
「5年前、ジンの乗ったヘリはベルモットが放った対空ミサイルが命中し墜落。ヘリは東京湾に沈みジンの生死は不明だった。……ところが四日前、ジンらしき人物が埠頭の監視カメラに映っているのをFBIの分析班が発見したのだ。我々はジンがロスに潜伏しているナイトバロンの残党と接触し、組織を壊滅させた張本人である江戸川コナン君、君に対する復讐を開始したと睨んでいる」
「あなたの安全を確保するために私たちが来たのよ」
「マジかよ!」
 腕を組んで考え込むコナンと服部。
「なんやえらいことになってもうたな」
 そこへ突然、ジョディのスマホに着信が入る。急いでタップするジョディ。同じFBI捜査官のアンドレ・キャメルからだ。
「大変です! 今あなたたちのいるエンジェルスゲートの最上階に時限爆弾を仕掛けたとジンからFBIに通報がありました」
「なんですって!」
「時限爆弾は只今より45分後にセットしたと言っています」
「分かったわ。今から民間人の避難誘導に入ります。あなたはレスキューとパトカー、そして爆弾処理班の手配を」
「イエッサー!」
「ジョディさん!」
「このビルの最上階に、時限爆弾を仕掛けたとジンから通報があったそうよ。タイムリミットは45分」
「なんやて!」
 瞬時に計算するコナン。45分ではこのビルの人間を全員を避難させるのは難しいだろう。爆弾処理班を呼んでも間に合わない可能性が高い。
「オレが時限爆弾を解除しに行くよ」
「クールガイ!」
「そやったらオレも行くで」
「いや、おまえはみんなと避難してくれ」
「アホ! おまえひとり危険な目に遭わせられんわ」
「おまえは和葉さんと結婚したばっかだろ。みんなと早く逃げてくれ。な」コナンの真剣の表情にただならぬものを感じる服部。
「そうか……すまんがそうさせてもらうわ。せやけど絶対無事で帰って来いよ」
「ああ」
「クールガイ。ジンの狙いはきっとあなたよ。充分気をつけて」
「大丈夫。オレは何度も危ない綱渡りをしてっから。それより45分ではすべての人間を避難させるのは難しいと思う。そして12階が爆発してもビルが完全に崩壊することはないと思う」
「そうね。他の階に爆弾が仕掛けられてなければだけど」
「恐らく仕掛けられていない。短時間で怪しまれずにこのビルを崩壊させるだけの爆弾を仕掛けるのは不可能だ」
「Oh! その通りね。だとしたら私たちはどうすればいい?」
「爆発したときの被害を考えて高い階から優先的に避難させるんだ」
「OK。12階は結婚式場になってるけど幸い今日は使われてないみたい。11階から順に客を避難させるわね」
「ええ、頼みます」
 コナンは12階へ、それ以外は民間人の避難誘導に取りかかった。
 けたたましい警報が鳴り響く中、階段をダッシュし最上階へかうコナン。エレベーターは民間人の避難のため使わなかった。
 やがて12階にたどり着くコナン。フロアは真っ暗でがらんした結婚式場になっていた。照明を付け、折り畳まれたテーブルや椅子、什器や備品の入った箱を開けながら爆弾を探す。
 ようやく音響装置の裏側に黒く塗装された不審な箱を発見する。中を開けたら時限爆弾だった。早速解除に取り掛かる。
「くそっ。このコードが多すぎてわかんねえ」
 複雑に絡み合った五色のコードのどれが正解か分からない。
 コナンは慌ててスマホを取り出すと、爆弾の内部を撮影し服部のLINEに送信した。
(どれが怪しいと思う?)
 すぐに服部から電話が掛かってきた。
「……今写メ見たで。これは軍用やない、自作や。電子回路が中央にあって、左右にリレーとトランジスタ……。こいつ、回路の組み方が独特やで!」
「おまえ、分かるのか?」
「ああ、大阪府警で何度かおっちゃんから見せてもろうたわ。まず黄色と黒は電源系統、触るなよ。赤は制御用、緑はタイマーのスタート信号……。多分青が起爆装置に繋がっとる。タイミング的にも起爆直前で回路が閉じるタイプや。そいつを切れば回路が成立せんくなるはずや」
「本当か?」
「オレが警察で見てきたタイプと似とる。少なくともこの様式なら理論的に青や」
「分かった。どっちにしろもうすぐ爆発的するんだ。賭けるしかねえな」
 コナンは躊躇なく青いコードをニッパーで切った。しかしタイマーは停まらない。
「停まらねえ」
「なんやと!」
 コナンはすぐさま緑のコードを切った。しかしタイマーは停まらない。他のコードも試すが変わらなかった。
「くそっ! 全部ダミーだ。これは……解除できねえように作られている」
「やられたんか! ジンは解除不能の爆弾に偽装コードを混ぜてたっちゅうんか」
「ああ、そうみてえだ。オレはまんまとジンの仕掛けた罠にはまっちまったらしい」
「しかし一体どうすんねん! ……そや! 今屋上にヘリ呼ぶからな。待っとけよ」
「待て服部……こっちは何とかすっから民間人の避難頼む」
「……そうか? せやけど絶対生きて帰って来いよ」
「おう」
 服部が言い終わると同時に電話を切るコナン。
 時限爆弾のタイマーはすでに10分を切っている。今から降りても間に合わないだろう。
 万事休す。ため息をつくコナン。三角座りになって考え込む。しかしどう考えても助かる方法はない。最後に思い出すのは灰原のことだった。
 しばらくそうやってぼんやりしていると、不意にドアを開いて灰原が現れた。
「灰原! おめーなんで来たんだよ!!」
 声を荒げるコナン。
「嫌な予感がしたのよ。ジンはあなたを憎んでいた。時限爆弾もあなたを誘い出すための罠なんじゃないかと思ってね」
「答えになってねえよ。もしこれがジンの罠だとしたら、おまえまで爆発に巻き込まれてしまうじゃねえか」
「別にそれでもいいのよ。あなたがいない人生なんてつまらないもの。自分の最期ぐらい自分で選ばせて」
「おまえ……」
 灰原が自分のためにここまで来たという事実にコナンは感動して震えた。
 そしてコナンは涙を流した。これまでどんな悲劇的な事件に遭遇しても一度も泣かなかったコナンが……。コナンは小刻みに震えている。
 コナンの隣に座った灰原は、コナンの片手に自分の手を重ね合わせた。
「最期に見るのがあなたの泣き顔なんて嫌よ」
「ありがとな。……おまえが来てくれてうれしいぜ。正直、さすがのオレでも死ぬのはこえーんだ」
 コナンは涙を拭って笑った。
「言ったでしょ。あなたは私が守るって」
「ああ、オレとおまえはずっと一緒な」
「ええ、そしてふたりが天国に旅立ったあとも、その魂はずっと一緒にいつづけるの。宇宙が終わるその時までね」
「おめーホント詩人だよな」
「うるさいわね。最期ぐらい好きに言わせなさいよ」
 その時、急にコナンの脳裏に今朝のニュースが思い浮かんだ。高層マンションから猫が転落したのに、軽傷だったというニュースだ。
「なあ灰原、一か八か子供の姿に戻ってみねえか」
「なんでよ?」
 灰原は万が一に備えてAPTX4869を持ち歩いていた。しかし灰原は不服だった。残り僅かな時間を薬を飲んで苦しむのは美しくないと思ったからだ。しかし……。
「何か思い付いたのね」
「今朝のニュースで見たんだ。猫が34階から落ちたけど軽傷で済んだって」
「猫の真似でもするつもり?」
「いや、ただの悪あがきだ。この高さから飛び降りりゃ、何をしようが致死率100%だ。しかし、同じ100%でも子供の姿に戻れば体重が軽くなった分、落下の衝撃は和らぐ」
 肩を竦める灰原。
「どっちみち100%なのにあがくのね。分かったわ」
 灰原は肩に掛けているポシェットからアポトキシンを取り出してコナンに渡した。ふたり同時に飲み込む。
「地獄の底までついていくわ。江戸川コナン君」
「バーロ。天国だっつうの」
 手を繋いだままふたりは、苦しみに喘ぎながら徐々に小さくなってゆく……。
 起爆装置は残り5分を切った。
 ぶかぶかの上着を身にまとったコナンは、最後の力を振り絞って立ち上がると、ガラス張りの窓から外を眺めてあたりをつけた。そして什器の中にあった備品を取り出し、キック力増強シューズで蹴り上げ、強化ガラスを割った。凄まじい突風が入り込んでくる。
 灰原もぶかぶかの上着にくるまりながら、苦しそうに立ち上がると、コナンの左手を握り締めた。
 割れた窓から下を見ると、遠くにある車がマッチ箱のように小さい。さすがのコナンも足がすくんだ。ビルの20メートルほど前方の歩道には、こんもりと街路樹が植えられている
「見ろ灰原。この向こうに街路樹がある。どう見ても爆風であそこまで飛べる訳ねえけどな。仮に飛べたとしても枝が突き刺さるかもしれねえ」
「串刺しバーベキューなんて嫌よ」
「ああ……」
 コナンは小さくなった灰原を抱きよせた。
「灰原、オレはずっとおまえが好きだったんだ。寂しい思いをさせてごめんな」
「いいのよ。あなたと出逢えて幸せだったわ」
「……もし生きて帰れたらオレと結婚してくんねえか」
「ええ、いいわ」
 風が激しく吹き込みふたりの髪が乱れる。コナンは灰原をしっかり抱き抱えた。
 灰原はスマホを取り出してタイマーを確認する。さっき時限装置のタイマーと合わせてあったのだ。残り10秒。
「……いい、テンカウントよ」
「頼む」
「9……8……7……6……5……4……3……2……1」
 カウントがゼロになる直前、ふたりの小さな体は破れた窓から飛び出した。
 その直後、轟音と共に彼らのいたフロアが、目映いばかりの爆炎に包まれた。吹き上がる火柱と共に凄まじい爆風がふたりを空中へと押しやる。しかし街路樹までは届きそうにない……。


 200メートルほど離れた路上から炎上するビルを見上げる服部と和葉。辺りにはパトカーと消防車が集結しつつある。
 爆発炎上したのは12階のみだった。予測されていたビルの崩壊は9階までで食い止められた。ビルの上半分の民間人は避難していたため死者は出なかった。しかし予断は許さない。
「……ねえ平次。愛ちゃんとコナン君生きとるよね。爆発に巻き込まれたんとちゃうよね……ねえ、何とか言ってよ平次」
 平次の胸にすがって泣き崩れる和葉。
「……コナン……ウソやろ」
 服部はぎゅっと拳を握りしめ涙が出るのを必死に堪えていた。
「おまえが死ぬはずあらへんよな……」
 服部はコナン救出のため、ヘリの出動を要請したが間に合わなかった。
「……愛ちゃんな、コナン君がプロポーズしてくれるんを気長に待つゆうとったんや……それなのに……なんでこんなことに」
「……すまんコナン。オレのミスや……中途半端に客が避難出来る45分という時間。他の階に爆弾があるか確認するには間に合わん。それはコナンを12階に誘い込むための罠やったんや。それやのにオレは気づかんかった。すまん……コナン」
 遂に堪えきらずに涙を流す服部。

 その時、ビルの上空で何かが白く煌めいた。手庇を作り眺める和葉。
「……ちょっと平次、あれ見てみ!」
「ん?」
 和葉が指差す方向に白い三角形の物体が、夕陽を反射してきらめいていた。
「なんやあれは?……まさか……怪盗キッド!」
 すっとこちらに近付いてくる三角形のハングライダーの下には、白いシルクハットに白マントを付けた怪盗キッドがいた。両手にはぶかぶかの上着にくるまった小さいコナンと灰原を抱えているのが見える。
「あいつ、ホンマにロスまで来たんや……。おーい、こっちやでー」
 大きく両手を振る服部。
 やがてキッドがプロペラを停めて旋回しながら降りてきた。器用にハングライダーを操り、ふたりの前に着地するキッド。
「ちっす。……いやーさすがに今回はヤバかったぜ。赤井さんがLINEでタイミング教えてくれなきゃ、爆発に巻き込まれておじゃんだった」
「キッド! おまえよう来たのう」
「たまたまロスでビックジュエル展があってな。下見してたら赤井さんから至急このビルに来てくれってLINEがあったんだ。しかしこのふたりが子供の姿で良かったぜ。さすがに大人ふたりは抱えらんねえからな」
 両手に抱えたふたりを服部と和葉に渡すキッド。
「なんぼなんでもタイミング良すぎやろ。最後においしいとこ全部持ってきよって」
「へへっ、それが怪盗キッド様の真骨頂だせ。そんじゃ、ふたりを病院に頼むぜ。あばよ」
「こ、こら待たんかい!」
 キッドはプロペラのボタンを押すと、ハングライダーを器用に操りあっという間に空高く舞い上がった。
「行ってもうた……」
 呆気にとられる和葉。
「しかしホンマにキッドが来てよかったのう。今度ばかりはあいつがヒーローや」
「せやな。キッドが人気あんのも分かるわ」
 和葉が灰原を、服部がコナンを抱き抱えている。
 煤で汚れたふたりは穏やかに寝息を立てている。
「なんやふたりともええ顔しとるのう。死にかけたっちゅうに」
「ええ夢でも見とるんやろか」
「せやのう」



 コナンと灰原は解毒剤を持っているベルモットと連絡がつかないため、10歳ぐらいの子供の姿のままだった。探偵業は一時休止し、自宅兼事務所で今日はのんびり寛いでいた。
 リビングでソファに座って推理小説を読むコナン。気怠そうに小指を耳に突っ込んでいる。たまたまリビングを通りかかった灰原がそれを見て眉をひそめる。
「ちょっと、こっち来なさいよ」
 そう言ってコナンを手招きする。
「はあ?」
「耳掃除してあげる。ほら」
 フローリングの床に正座して、太ももを叩く灰原。
「いいって別に…… 」
「なに照れてんのよ。私たち結婚するんでしょ」
「はいはい、ありがとうございます灰原さん」
  渋々灰原の太ももに首を載せ横になるコナン。
 竹の耳かきで丁寧にコナンの耳掃除する灰原。表情はおだやかだ。
「……こんないい女、そうそういないわよ」
「ああ、そうだな。取り扱いがすげー難しいけどよ。……痛って」
「それはお互い様でしょ」
 互いに軽口を叩きながらも、ふたりの間には心地よい時間が流れていた。
 耳かきを終えた灰原は、コナンの髪をそっと撫でた。コナンはいつの間にか寝息を立てている。
「……ったく。子供なんだから」



※名探偵コナンのパロディです。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※※ヘッダーは via CD「クウフク (starring VALSHE)」完全限定生産盤/名探偵コナン盤:今夜、あの街から(ビーイング)
をスクリーンショットで引用しました。
※画像はAIが作成しました。



いいなと思ったら応援しよう!

島風ひゅーが 素晴らしい記事ですね♪