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FBI心理分析官 灰原愛


「なんやわし、死んでしもうたんかいな」
 銀色の台車に載せられた、長身に短髪で顎髭を蓄えた全裸の中年男が突如口を動かして喋り出した。
「そうよ。ご愁傷様ね」
「あんた検死医か。ごっつ美人やな」
 男は目玉をぎょろりと動かして言った。
 赤みがかった茶髪に白い肌、白衣にゴーグル付けた灰原愛は評判の美人検死医であり、かつFBI心理分析官を兼任している。
 普段はロスアンジェルスを拠点に活動をしているが、今回江戸川コナンの日本での調査活動に伴い来日していた。そしてコナンが依頼された長野の事件とは別件で、大阪府警から殺人事件の被害者の検死を依頼され承諾したのだった。
 黒ずくめの組織「ナイトバロン」との戦いが終結し、二人がロスに移住してから5年経っていた。灰原愛23歳、江戸川コナン22歳の春である。灰原とコナンはロスに移住した1年後、ベルモットに解毒剤を貰い、子供の姿から大人に戻ることに成功している。
 大人に戻った灰原はコナンの探偵業をサポートし続けるか、FBIに入局して新たなキャリアを築き上げるか悩んだ。そして熟考の末、後者を選んだ。必然的にふたりは別々の事件を追うことが多くなったため、一緒にいられる時間は激減した。灰原はそれを寂しく思ったが自分にとってベストな選択だと信じていた。
 彼女は死体を見ると瞬時に生前の姿を脳内に再現し、会話が出来るという特殊能力がある。彼女によれば卓越した洞察力と日頃のプロファイリングの賜物である。まるで幻覚のようだが、その時に得た情報を元に、これまで何度も殺人事件を解決に導いているので一種の共感覚だと本人は思っている。

「ねえ、あなたに聞きたいことがあるのよ。長谷川源堂さん、あなたを殺した犯人は誰?」
 死体は灰原を見てにやりと笑った。
「こんな別嬪さんに、裸見られるなんて溜まらんなあ」
「ちょっとはぐらかさないでよ。言わないとこうよ」
 灰原は外科用カッターで腹を横に切り裂いた。
「やめてーや! 今言いますさかい堪忍してー!」
「ほら、早く言いなさいよ」
「あのな姉ちゃん。わし、脳味噌腐ってきてんねん。急かさんでくれんか」
「はいはい、悪かったわね。ゆっくり思い出すのよ」
「あれはたしか……パチンコで大勝ちした夜やった。最新のエヴァを打ってな。いきなりドックンから綾波レイ背景になって、レバーブルブル大当たりや! そこから確変が止まらず連チャン連チャン……笑いが止まらん」
「パチンコの話はいいから要点を言いなさい」
「まあそのあと換金してからコンビニで酢漬けイカとウォッカを買うてな。浮かれ気分で道頓堀を歩いてたんや。月が出とったなー」
「それから?」
「いい気分でボロアパートに帰ってきてな。そうそう誰ぞ階段から降りて来るのにすれ違ったな。無精髭を生やした背の高い兄ちゃんや。侍みたいに髪を後ろで束ねてたな。それから鼻唄混じりに玄関の鍵開けようと鍵出してたら後ろからグサッと」
「あなた、人から恨まれるようなことしてないわよね」
「何ゆうとんねん。わしは感謝されこそ。ん? 感謝こそすれ。ちゃうちゃう感謝こそされ……。あかん、脳味噌腐ってよう分からんわ」
「はいはい分かったわ。心当たりはないのね。それじゃ怪しいのはその男しかいないわね」
「せやな」
 腕を組んで考えると灰原。
「その男が通り魔的犯行でないとすると、何かアパートで窃盗などの犯行を犯した……。その帰りにあなたに顔を見られた。だから口封じにあなたを殺した……ということが考えられるわね」
「なーる。ごっつ賢いなあ姉ちゃん」
「いえ、言ってみただけでこの可能性は低いわ」
「……あっ!」
「何か思い出したの?」
「わし、DVDプレイヤーにTATSUYAで借りたセクシービデオ入れっぱなしやった。悪いが姉ちゃん、わしの部屋に行ってTATSUYAに返してくれへんか?」
 肩を竦める灰原。
「おあいにく様。あなたの部屋は鑑識が全部調べたはずよ。関係ない遺留品は遺族に手渡されたはず。きっと滞納金を払ったでしょうね」
「んな殺生な。ほんなら恥ずかしくて成仏できひんやないかい」
「だから早く犯人を見つけてあなたが成仏しやくするのよ。ほら、ちゃんと思い出して。パチンコ店で変な人に絡まれなかった?」
「ん?……そうゆうたら」
「何かあったの?」
「絡まれたんやないけどな。わしの前にエヴァ打っとった白髪でオールバックのおっちゃんが、わしの後ろで腕組みして見物しとったわ。顔ひきつらせてのう。そりゃ悔しいやろな。1000回ハマりやから7万はつこうたで。わしは500円で当てたんやから」
「それよ! そいつが犯人に違いないわ。パチンコ店に連絡しなきゃ」
「なんでやねん!」

 灰原が我に帰ると死体は元通り、目を瞑り口を閉じたまま台車に横たわっていた。

 灰原は急いで着替えると固定電話から、コナンのスマホに電話を掛けた。予想に反してすぐに出た。
「もしもし江戸川君? 今どこにいるの?」
「おう、灰原か。今新幹線が大阪駅に着いたところだ」
「そっちの事件はどう?」
「こっちは大方、片がついたぜ。あとはチハヤさんと長野県警に任せておけば大丈夫だ。そっちはどうだ? 手掛かりがないんだろ」
「だいたい分かったわ。被害者は市内に住む無職、長谷川源堂48歳。私のプロファイリングによると被疑者は被害者の前にパチンコをやっていた人物よ。止めた後に出された腹いせで刺したみたい」
「んな、バカな!」
「あら、人間の心の闇は計り知れないのよ。事実は小説よりも奇なり。これまでも驚くような動機で殺人を犯す人、たくさん見てきたじゃない」
「そりゃまあそうだけどよ。つーかなんで被害者がパチンコやってるって分かったんだ?」
「被害者の部屋で見つかった小さなビニール袋に、飴玉3個とうまい棒4本、カルパス1本が入っていたからパチンコの余り玉で交換したんじゃないかと思ったの」
「なるほど。よくそんなこと知ってんな」
「それぐらいすぐ分かるわ。小五郎おじさんがよく持って来たじゃない」
「ははは、そういやそーだったな」
「今から被害者の写真をあなたのスマホに送るから、道頓堀周辺のパチンコ店に行って、監視カメラのデータをチェックして頂戴」
「はいはい。分かったよ」

 灰原の予想は当たった。 
 道頓堀周辺のパチンコ店を一店ずつ回ったコナンは、僅か二時間半の間に被害者の映った監視カメラの映像データを発見し、被疑者の特定に成功した。コナンはその画像データをパチンコ店のサーバーから大阪府警のサーバーに転送した。あとは鑑識が顔認証システムを使って犯人を炙り出すだろう。




 その日の夜、大阪駅ビルの5階にある三星フランス料理店、WILLE(ヴィレ)で落ち合うふたり。
 灰原は白いイブニングドレス、コナンは黒いタキシードを着ている。
 テーブルにはキャンドルの灯が揺れ、グラスの中でワインが赤く輝いている。
「……いい店ね」
 窓の外に広がる大阪の夜景を見ながら灰原は呟やいた。特に目を引くのは青白くライトアップされた浪速ハルカスだ。
「ああ、ジャズの生演奏を聴かせる店なんてそうそうないからな。おまえ、この曲好きなんだろ?」
「よく知ってるわね。この曲を聴くと何だか落ち着くのよ」
 ジャズピアニストは店の隅の、少し暗い場所に置かれたグランドピアノでFly Me to the Moonを奏でている。ふたりが来たらこの曲を流すように頼んであった。
 流れるようなメロディがふたりを優しく包み込む。時折即興的なリズムが加わり曲に深みを与えている。
 前菜のスープを啜る灰原。
「……このポタージュはカボチャの甘みが際だっているわね」
「ああ、シェフの腕はたしかだな」
「あなたがこんなお店を知ってるなんて驚いたわ」
「久々の日本だしおめーに喜んでもらおうと思って探したんだぜ」
「あなたにしては気が利くじゃない。上出来よ」
「へへっ。まあな」頭を掻くコナン。


 メインディッシュの仔牛のフィレを食べる頃、ふたりの会話は自然と昼間の事件のことへ流れていった。
「……たっく。こっちの事件もオレが解決してやろうと思ったのに、やっぱおめーには敵わねえな」
「あなたの推理は物証偏重なのよ。今まではそれでよかったかもしれないけど、今回のように通り魔的犯行の場合はお手上げでしょ」
「ちげーねー」 両手を挙げるコナン。
「丁寧に物証を集めて、論理的に真実へ導く手法もいいけど、被害者の内面深くプロファイリングすることによって、一気に真実に辿り着くこともあるの」
「たしかにな……。そういやおめー、黒ずくめの奴らが近くにいると匂いがするって言ってたよな。超能力でもあんのか?」
「いいえ。私はスーパーナチュラルを信じないわ。類い稀な洞察力とちょっと勘がいいだけよ。誰かさんと違ってね」
「はは……。今回はオレの完敗だな」
 無造作にフォークに突き刺した肉を頬張るコナン。
「従来の調査方法だとやがて行き詰まるわ。あなたも心理学を学びなさい。……特に女心をね」
「へいへい」
 肩を竦めるコナン。実は心理学を応用したプロファイリングはコナンの苦手な分野だった。
「オレの推理とおまえのプロファイリング、ふたつ合わさりゃこの世に解けねえ謎はないかもな」
「そうかもしれないわね。……ところでいいの? せっかく大阪まで来たのに服部さんと連絡取らなくて」
「いいんだよ。あいつは和葉ちゃんと結婚したばっかでラブラブだろうからよ。邪魔したくねえんだ」
「そう。……あのふたり、いい夫婦になりそうね」
「ああ、夫婦漫才みてえなな」
「そうね……。そういえば江戸川君。FBIにはね。二人の伝説の捜査官がいたの。知ってた?」
「へえ、知らねえな。なんてんだ?」
「フォックス・モルダー捜査官とダナ・スカリー検死官。なんでも息の合ったコンビで、数多くの未解決事件を解決したそうよ。副長官ともツーカーだったらしいし」
「やっぱFBIにもすげーヤツがいたんだな」
「ええ。私たちも彼らのようないいコンビになれるかしら?」
「バーロ。オレたちはずっと前からいいコンビだったろ」
「……そうね。ありがとう」
「ところでおめー。よく聞いてなかったけど、なんでFBIに入ったんだ」
「言わなかった? 私、あなたに守られてばかりいるのが嫌だったのよ。ずっと引け目を感じてたわ。だからFBIに入局したの」
「そうだったのか。おまえ、射撃の腕は中々らしいもんな。赤井さんが言ってたぜ」
 灰原は拳銃の所持を許可されていた。同じFBI捜査官の赤井秀一が教官となり拳銃、ショットガン、カービン銃を使った訓練を受けていた。
「ええ、初めての射撃テストで60発中56発をQターゲットに命中させたわ。もちろん合格」
「すげーなそれ」
「ハワイ親父のあなたとは違うでしょうね」肩をすくめる灰原。
「ははは。オレも腕がなまんねえように練習しねえとな。……ところでよ……」
「何よ」
「おめーがFBIに入ってから、一緒にいられる時間、減ったよな」
 半年前に灰原がFBIに入局してからふたりで事件を調査することはなくなり、灰原が何日も家に戻らないことも多かった。
「あら、もしかして寂しいの?」
「バ、そんなんじゃねえよ。ただおめーがいねーと全然仕事になんねえんだよ」
「ったく素直じゃないわね。寂しいなら寂しいって言いなさいよ」
「……さ、寂しいんだよ。おめーがいねーと」顔を赤らめるコナン。
「ふふふ」
「なんだよその勝ち誇った顔は! おめーだって寂しい癖に」
「別に……。あなたが認めるとは思わなかったから」
「わりーかよ」
「いいえ」
(……私だって本当は寂しいのよ。だけどあなたの側にいると頼り切ってしまう。そんな甘い自分が嫌なの。少しは察しなさい)
「なあ、何とかなんねえか?」
「しょうがないわね。上司にWワークできないか相談してみるわ」
「わりー。恩に着るぜ」 
 両手で拝むコナン。
「いいのよ。事件を解決するのは同じことだから」
 ほっと胸を撫で下ろすコナン。
「これで一安心だせ。これからもよろしくな、愛」
「ええ、よろしくね。……あなたは私が守るから」
 微笑み合ったふたりは赤ワインのグラスをカチッとぶつけた。

(江戸川君。あなたと過ごしたこの5年、悪くなかったわ……。この先どんなことが起こってもあなたとなら乗り越えられる気がするの。これから私たちがどんな人生を歩むのか……楽しみよね)



※名探偵コナンのパロディです。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※ヘッダーの画像はネット上から引用させてもらいました。
※名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』場面カット(C)青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 2016 全 10 枚


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島風ひゅーが 素晴らしい記事ですね♪