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設計も、保全も、生産技術も……どれが欠けても工場は回らねぇ。お前らが目指す道、どれも立派だよ。|「失敗は技術者の宝」#1

――技術者は損な役回り?――

「あー、営業の宇留瀬(うるぜ)の奴いいよなー、先月社長賞もんの超大型案件の契約取ったんだって。」

「えっつ、そうなんだ。珍しくコーヒーおごってやるよなんて言うもんだから、きっと何か裏があるんじゃないかと思ってたんだ。」

「あれは、営業課長の瓜益(うります)さんが9割以上決めてきたのを宇留瀬に譲ってあげたらしいよ。大型案件を契約するとお客様の信用が上がるからってさ。」

「それはそうと、最近、購買の加卯瀬(かうぜ)の態度、でかくないか?」

「取引先の社長が毎日、加卯瀬のところに頭下げにやってきてるから天狗になってるんじゃねぇの。」

「あー、営業も購買も華やかでいいよなー。」

「それに引き換え、俺たちとくりゃー、毎日毎日課長から叱られ、誰からもチヤホヤされることなく、全くやってらんねーよ。」

(一同)「はぁー」

「清木(せいぎ)、雪渓(せっけい)、保善(ほぜん)、お前たちなー、横で聞いてりゃー揃いも揃って若いのに辛気臭い話してるんじゃねぇぞ。」

「あっ、香高(かこう)さん、俺たちの話、聞いてたんですか?」

「こっちは別に聞きたくもねーけど、カウンターで飲んでたら、はーだの、へーだのジメジメとした陰気臭い話が聞こえてくるからよ。辛抱たまらず飛んで来たってわけよ。」

「香高さん、俺たち人生の選択間違ったんじゃないかって話してたんすよ。営業とか購買とかそういう日の当たる職業を選ぶべきじゃなかったのかって。」

「バカヤロー!お前ら耳の穴かっぽじってよく聞けよ。この世で技術者ほど誇り高き職業はない!誰にも見えねぇ場所を支えるのが“技術者の誇り”なんだよ」

「でも、香高さんには俺たちの気持ちはわからないっすよ。」

「香高さんは現場の人ですし。」

「俺も技術者だぜ。」

「えっ。」

「俺も昔は雪渓と同じく機械設計をしてたんだ。でもあるとき、加工を知らなきゃ本当の設計はできないって気づいたんで、課長に言って半年間だけ加工工場で実習させてもらえるように頼んだんだよ。でも、旋盤仕事をしていた時に切子がスルスル出てくるのが快感で、加工の面白さを知ってしまったんだな。それから40年間加工一筋よ。」

「香高さん、かっこいいっす。」

「お前ら、そんなしかめっ面してないで、一人ずつ将来の抱負でも語ったらどうだ。」

「特にないっすね。」

「むずいっす。」

「右に同じ。」

「無理やりにでもひねり出せ!」

(一同)「うーん。」

「香高さん、俺実は。。。」

「おっ、雪渓、何かあるんか?」

「実は俺、いつか構想設計やりたいと思ってるんすよ。」

「いいじゃないか、立派な目標だ。でも、それを目指すには雪渓はもっと現場を知らないとだめだ。設備は机上で使うんじゃない。現場で使うんだよ。」

「香高さん、ありがとうございます。俺、やってみます。」

「よし、頑張れ。次は誰だ。清木か?保善か?」

「香高さん、俺、止まらない現場を実現したいんだ。今は現場の人に迷惑ばかりかけてるけど、現場の人が設備故障の心配がなく、安心して仕事ができる工場にしたいんだ。」

「保善よ、お前いいこと言うな。保全の基本中の基本は現場に喜んでもらえる仕事をすることだ。だけど保善よ。そうなるためには今のように手当たり次第部品を交換しているだけではだめだ。機械が壊れるのは必ず原因があるはずだ。それを粘り強く究明する仕事を愚直に続けていくんだ。」

「香高さん、実は俺そのことに薄々気づいてたんだけど、愚直に原因究明することを避けてきたんだ。知らないことが多すぎて考えるのが怖かったんだ。」

「その気持ちよくわかるぜ。でも本気で向き合う覚悟を決めたら周りの人がきっと全力でサポートしてくれるだろうよ。」

「香高さん、ありがとうございます。」

「さぁ、清木よ、時間はたっぷりあったんだ。次はお前の番だよ。」

「香高さん、こんなこと言うの、なんだか恥ずかしいけど、俺、人間と機械がお互い協力しあって最高の製品を作り上げる工場を創りたいんだ。AIとかロボットとかも駆使して。」

「清木よ、何も恥ずかしがるこっちゃねえ。素晴らしい目標だよ。だがな清木よ、そのためにはもっと現場の人と会話しなきゃなんねえ。工場は生産技術だけで作るもんじゃねえ。現場と生産技術がお互いの持ち味を遺憾なく発揮しあって協力して作るもんだ。」

「香高さん、ありがとうございます。俺、やってみます。」

「いいか。設計も、保全も、生産技術も……どれが欠けても工場は回らねぇ。お前らが目指す道、どれも立派だよ。」

「みんなが、どんな技術者になるのか楽しみだ。俺もまだまだ引退できねーな。」

(一同)「香高さん、これからもよろしくお願いいたします。」

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