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第八回笹井宏之賞応募作「水の花束」古井さらさ



ひかりには骨がないから音もなく落下して射すサイドテーブル

白いイヤホンをほどいて正解のほうから風が抜けてゆく春

洗面器 一直線に運ばれてゆく泡を見ている僕がいる

晴れた日がこわれながらに降ってくる 七年前と同じく歩けば

清潔な羊のような公園でふっくらしているだけの僕達

噛めば噛むほどゆるやかになる昆布 夕焼けのなかごみ出しに出る

音楽を聴いているひとの先端が肉まんを持つ 夜が流れる

雪に手を伸ばしてしまうかんじでおやすみと言った おやすみ

怖い目にあったのだろう いちじくは木皿の上に紅くひらいて

ノースリーブを着るとたしかにかるくなる 妊婦のお腹とすれ違う

食べたくはないけど何か入れたくて買ったみたいな言葉が届く

くびすじに秋の西陽をあてながら何度も果てる 花瓶にさせば

記憶など水性だろう浴室で口をひらけばあふれてしまう

チュニックの丈が僅かに恥ずかしい 水を両手で抱えて飲んで

やわらかいソフトクリームの幹を食む 自転車で風景を抜き去って

かつて人は猿だったから年下のあなたに会うと手を握らせる

微笑みが肉の切れないナイフのように顔にだらしなくぶら下がる

セーターとジュースは似てる いろんな色の粒がより集まっていて

会いたいと思う 水が飲みたいと思うとき水に味はないよう

ライブの照明は涙目で見たときの街だったからいつか沈むね

はちみつの瓶をさかさにしておいて月をみている 時間は募る

ねこがのびちぢみする動画のなかにある人間ののびきった声

定食屋さんでごはんを選べると話してくれる恋人の声

こぼさずにタコスを食べる 八月を回せば差し込むオレンジの龍

植物の温室のなかはグミみたいな空気があってうれしい ふれる

しいたけのまるい匂いがするスープ ひとりで観ていた映画がおわる

ねると回復するなんてあほっぽい かぼすジュースをだくだくと飲む

スーパーはもっとすごいものっぽい 毎日同じように暮らして

たきたてのお米があって一生はこういうふうにはじまり終わる

東京が東京にあると思えるのは僕が東京にいないから 

ひらかれた牛乳パックはまなうらの白さ 夜がぬるくはいって

恋人が眼鏡を外し知らない人になってすぐ恋人になる 

十月はすぐに解散してしまう たまごをまっすぐ割り落とす朝

パン屋さんはパンを買うまで出られない パウルクレーのいちじくの絵

久しぶりに食べると美味しいものはいつ食べても美味しい 揚げたドーナツ

パトカーの響きがあって底なしにあかるい鳩がいる パトカー

クリームやチーズの類 四季がありつづけることのわずかな重み

長葱をたんたんと切る 切られゆく葱の光のすくない通路

フェリーにも乗ってみたい 木のマドラーをゆっくりまわしながら話した

かみさまは冬に住んでいてほしい あかるく澄んだ夜明けの粒に

火の粉のようなビーズを通し続ければ迷わなくなる星月夜

シュトレンを薄く薄くきっていく これからのすべてに間に合うように

真夜中にお腹が空いて今ここが満月になる 夜の抜け道

夢の中で泳ぐときいつもより水が水の色をしていることの

ジャム瓶をポッケに入れて散歩へと出れば道がひかりのほうへ

くちびるに触れたら触れた質感があってむすうの花がひらいて

明け方の銀の硬貨をコーヒーにかえて過ぎ去る花屋の跡地

まぶしさは若さではない 買ってきた端切れをいくつか縫いあわせゆく

たこやきを食べれば舟が残されて周りの声ばかり寄せてくる

牛乳を寝かせて仕舞う ひっそりと真冬の群れを見送るように

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