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リハビリはゲーム感覚で!39.5:とある父親の誕生日≪ 脳梗塞(脳卒中)の前向き闘病記≫

休憩話14:とある父親の誕生日


あるところに、少し体が不自由になったお父さんがいました。

本当なら、その週末は家族旅行の予定でした。

いちごを摘んだり、ドッグランで遊んだり、温泉に浸かったり・・・。

家族で楽しむ予定でした。

けれど今、
お父さんは病院のベッドの上にいます。

自力で起き上がることも出来ず、
鼻には小さなチューブがついています。


もうすぐ誕生日でした。

お父さんは思いました。
今年は祝って貰えないだろう、と。

病院だし、しょうがない。


誕生日だけではありません。

キャンセルになった旅行のように、
もう家族で出かけられる日はこないのかも知れない。

そうやって、先にあきらめておくほうが、楽でした。


誕生日の当日。

リハビリから戻ったお父さんは、
思わず声をあげました。

「うわ、なんやこれ!すごい!」


白い病室の壁に、たくさんの風船が揺れています。
天井近くには、少し曲がったガーランド。

家族みんなが声をそろえます。

「パパ、誕生日おめでとう!」


あきらめていたのは、
お父さんだけだったのです。


音楽の鳴るカードを渡されます。
開くと、思ったよりも大きな音が鳴ります。

「写真撮ろう」
お母さんが言います。

「カード見えるようにね」

三姉妹は場所の取り合いで少しもめて、
やっと落ち着きます。


シャッターが鳴ります。


病室での誕生日の写真が撮れました。


そこには、車椅子のお父さんと、三姉妹と、お母さんが写っています。



これまで家族の祝い事では、少し違いました。

お父さんがカメラを準備して、
三脚を立てて、角度を直して、
「いい匂い、お腹すいた」と言われながら写真を撮っていました。



今年は、お父さんは何もできません。

ただ、座って写るだけなのです。


でも、そこには、
いつもと変わらない幸せが詰まっていました。


そのあとも、三姉妹はすぐには帰りませんでした。

学校のこと。
家事のこと。
売店が少し高いこと。

どうでもないような話まで、楽しそうに続けます。

去年より、長く話してくれています。

元気だったころより、
病気になった今のほうが、
なぜか一緒に話す時間が長いのです。


そのことに気づいたとき、
お父さんの胸の奥が、じわっと熱くなりました。


誕生日だけではありません。

入院してから、三姉妹は毎日やって来ます。

最初はお母さんと一緒に受付をしていましたが、
今ではそれぞれ自分だけで受付を済ませて、
慣れた顔で入ってきます。

看護師さんが言います。

「今日も娘さん来てくれてるんですね」


“今日も”。

お父さんはやっと気づきました。


今日だけではないのです。


毎日なのです。



誕生日の写真の中では、みんな笑っています。

けれど、その笑顔の向こうには、
毎日の行き来と、小さな努力があることを、
お父さんは初めてちゃんと感じました。

とても幸せなことでした。


お父さんの目には、少しだけ涙が浮かんでいました。


三姉妹は言います。
「退院したら絶対いちご狩り行くから」
「山登りもいきたい」


未来の話を、当然のようにします。




1ヶ月半前、お父さんは、
物語がここで止まるかもしれないと考えていました。

けれど、家族のアルバムには、
まだ続きがありました。


さっき撮った写真を、お父さんはもう一度見ました。



風船は、いつかしぼみます。
ガーランドも外されます。
病室の壁は、また白く戻ります。


でも、この一枚は永遠に残ります。



そして、その次のページには、
まだ何もありません。


これからも物語が続くための、
あたらしい場所なのです。





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