見知らぬ人との対話は、設計できるか──人柄だけでは説明できないもの
─対話の技術─
「対話に置かれている条件を整える」
見知らぬ人と、机を挟んで話しているうちに、思いがけず会話が続くことがあります。どうしてこの人とは話せるのだろう、などと考える間もなく、話題が次へと移っていきます。
ところが、別の場所では、同じように初対面の人が机を囲んでいても、なかなか言葉が続きません。こちらでは話せているのに、あちらでは話せない。同じように知らない人と向き合っているのに、何が違うのでしょうか。
そんなとき、私たちは相手の人柄や、自分との相性を思い浮かべます。話しやすい人だったから。気が合ったから。そう考えたくなります。
けれど、本当に、それだけなのでしょうか。
523人が集まった週末
見知らぬ人同士が話をするとき、何がその会話を左右するのでしょうか。人柄や相性だけでなく、どのような場で、どのような時間を過ごすのかというところから対話を考えた研究者がいます。
アメリカの民主主義研究者、ジェームス・フィシュキン(James Fishkin)は、2019年9月、テキサス州グレイプバインという町で、ある大規模な討論を実施しました。
集まったのは、無作為に選ばれた全米の登録有権者523名です。参加者は週末を通じて、妊娠中絶、移民政策、所得格差、銃規制など、意見が分かれやすい47の政策項目について話し合いました[1]。
参加者は10数人程度の小グループに分かれ、進行役のもとで討論します。事前には複数の立場から論点を扱った資料が配られ、小グループでの討論と、専門家パネルへの質疑を組み合わせたセッションが週末を通じて繰り返されました[1]。
ここでは、見知らぬ人同士が集まって、思いのままに話していたのではありません。話し合いが始まる前から、対話のための条件が用意されていました。
話し合ったあと、何が変わったのか
週末の討論を終えた後、参加者たちの意見がどのように変化したのかが調べられました。
47の政策項目のうち、特に意見の対立が大きかった26項目を見ると、22項目で共和党支持者と民主党支持者の意見が近づいていました。そのうち19項目では、その変化が統計的にも確認されています[1]。
話し合う前から意見が一致していたわけではありません。異なる立場の人たちが同じ場に集まり、資料を読み、小グループで議論し、専門家に質問する。その過程を経たあとで、いくつもの争点について両党の支持者同士の意見の隔たりが小さくなっていました[1]。
フィシュキンが提案した「討論型世論調査」は、1988年に提案され、1994年のイギリスでの最初の実施以降、世界各地で行われてきました[1]。
日本でも
日本でも、同様の試みが行われています。
2012年8月、慶應義塾大学三田キャンパスで開かれた、「エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査」です。真夏の時期に全国から285名が集まり、2日間にわたって原発とエネルギー政策について話し合いました[2]。
この調査には、フィシュキン本人も監修委員長として参加し、進行役を対象とした講習の講師を務めています[2]。
ここでも、参加者には事前資料が配布されていました。小グループは15人程度です。進行役には、「自分たちの見解を披瀝することは厳しく禁止」とされ、自分自身の意見を示さないことが求められていました[2]。小グループの討論と全体会議が交互に進行します。
対話の場に置かれたもの
フィシュキンがつくってきた対話の場には、見知らぬ人同士が、目的を持って話し合うための条件が組み込まれていました。
事前に共有する情報、少人数での話す場、進行役、全体での質疑を組み合わせ、複数のセッションにわたって話し合う時間。対話する人を選ぶのではなく、誰が集まっても話し合えるよう、対話の場が整えられています。
そう考えると、対話を見るときには、「誰と話すか」だけでなく、どのような場で話すのかにも目を向けることができます。人と人が向き合う前に、すでにそこに置かれているものまで含めて、対話を見ることができます。
誰かと向き合うとき、相手の人柄や相性だけでなく、話すための場や条件を整える。そう考えると、対話することへの見方も少し変わります。
参考文献
[1] James Fishkin, Alice Siu, Larry Diamond, and Norman Bradburn "Is Deliberation an Antidote to Extreme Partisan Polarization? Reflections on 'America in One Room'" American Political Science Review 115(4), 2021, pp.1464–1481 https://doi.org/10.1017/S0003055421000642
[2] エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査実行委員会『エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査 調査報告書』2012年 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/npu/kokumingiron/dp/120827_01.pdf ⇒ https://warp.ndl.go.jp/web/20230315173003/https://keiodp.sfc.keio.ac.jp/wp-content/uploads/エネルギー・環境DP調査報告書.pdf
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