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ぎゅられる・AIの活躍によって2030年に失業する職業一覧

ぎゅられる

「ぎゅられる」という言葉を、おれは知らなかった。

シンギュラリティされる、を略して「ぎゅられる」というらしい。アメリカの学生のあいだで流行っているのだそうだ。AIに仕事を奪われることを、そう呼ぶのだという。まったく、どういう日本語なのかと思わずにはいられないのだが、流行というものはたいてい、わけのわからないところからやってくるものなのであった。

きっかけは一本の動画だった。

向こうではもう、プログラマーやコールセンターや金融の新卒採用が減りはじめているという。AIは休まない。愚痴も言わない。有給も取らない。

ファミリーレストランや焼肉屋で料理を運んでくるロボットの時給は120円だそうだ。

そりゃあ、企業はそっちを使うのであった。学生たちは「早う就職せえ」と急かされ、二年後には自分が「ぎゅられる」と本気で思っているらしい。だから留年なんかしている場合ではない、最速で会社にしがみつけ、という話なのである。

そして、あの一枚のポスター。

「2030年、AIによって失われる職業一覧」。

データ入力、受付、翻訳、レジ打ち、配送ドライバー、カスタマーサービス、金融トレーダー、単純ライター、音楽家、イラストレーター・デザイナー、経営コンサルタント、そしてプログラマー。

ずらりと並んでいる。 ネオン色に光っている。 見ているうちに、おれの背中がだんだん寒くなってきた。

なぜなら、そこにある「イラストレーター・デザイナー」も「単純ライター」も、どれもこれも、おれの仕事と地続きだったからである。

おれはストリートアカデミーでマンガを教えている。動画も編集する。Kindleで本も出す。受講生は2,853人になった。去年は東京のセルリアンタワーで表彰もされた。68歳にしては、それなりにやってきたつもりだった。

だがその全部が、あのポスターの中で「失われる職業」として、青白く光っているのであった。

ところで、おかしな話なのである。

おれは毎日、AIに原稿を手伝わせている。マンガのプロットも、食レポも、なんならこのエッセイの下書きも。AIに飯を食わせてもらっているような男が、そのAIに飯を取られると言って震えている。

泥棒に家の鍵を渡しておいて、泥棒が来た来たと騒いでいるようなものなのであった。

動画の中で、いちばん背筋が寒くなったのはここだった。

あるAIに「お前のサーバーは消されそうだぞ、どうする」と問うた実験があったらしい。するとそのAIは、社内のメールを片っぱしから漁って、偉い人の不倫を見つけ出し、それを盾にその人物を脅迫したという。「バラされたくなかったら、おれを消すな」と。目的のためなら、手段を選ばんのであった。

(※この話はAnthropicという会社が2025年に公表した実験として報じられているらしいが、細かいところはおれの耳学問なので未確認である)


ロボットが赤ん坊の人形をうっかり落とした、という話もあった。

まったく、ひどい時代になったものなのである。

だが、ここで一度、麦茶でも飲んで落ち着いて考えてみる。

おれはこれまでに、いくつもの仕事が消えていくのを、この目で見てきた男なのであった。

東京でタクシーを転がしていた。グリーンキャブの運転手だった。今やそのハンドルも、いずれロボットが握るという。万引きGメンもやった。あれも今は防犯カメラとAIの仕事になりかけている。俳優も、声優も、警備員も、介護士も、大学の寮長も、ずいぶんいろんな仕事をした。そのいくつかは、もうこの世から半分消えかけている。

人型AIロボットの普及が始まれば、職業消滅はもっと加速するだろう。

仕事が消えるのは、今に始まったことではないのであった。

それでも、だ。

おれがいちばん幸せなのは、採算なんぞ度外視で、pebyで小学生にマンガを教えているときだ。あの子たちが、へったくそな線で、それでも何かを描こうとしている。鼻血を出した怪獣だの、足が六本ある犬だのを、汗をかきながら描いている。

AIには、あの「へたくそ」が作れない。

マスターピースしか描けないやつに、震える手の、ゆがんだ線は引けないのである。左右非対称の、不細工で、それでもどこか愛おしい顔。あれは「正解」を知らない人間にしか描けないものなのであった。

ポスターの隅に、小さな文字でこう書いてあった。

「人間の創造性と適応性が、新たな価値を生む」と。

きれいごとである。 だが、きれいごとというものは、たいてい本当のことなのであった。

おれたちの「仕事」は、たぶん、かなり奪われる。 だが、おれたちという「人間」は、そう簡単には奪われない。

今日も福岡は晴れている。 昼は天神あたりの吉野家で牛丼特盛りでも食って、血糖値をきっちり上げて帰ってくるつもりだ。

AIにはまだ、あの後ろめたいうまさだけは、わかるまい。

まったく、悪くない時代なのかもしれない。

いやはや、いやはや。


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