佐野の桜と誰袖の桜、抜き放たれた刃の悲劇|べらぼう27話
佐野家の桜は枯れ、田沼家の桜は咲き誇る。誰袖が待ち望んだ花見の日、佐野政言の刃が田沼意知に振り下ろされた――。
大河ドラマ『べらぼう』27話は、桜に象徴される三人の想いが悲劇へと突き進む切なすぎる回でしたね。今回はドラマの感想・考察と共に、浅野内匠頭だけではない江戸城で起きた刃傷事件についても紹介します。
◎前回、26話の感想・考察記事はこちら。蔦重と真に夫婦になったおていと、布団をかぶって寂しさに耐える歌麿。サブタイトル「三人の女」について書いています。👇
桜への想いが交錯する。佐野政言と田沼意知、そして誰袖の運命は…?

石部琴好 作 ほか『黒白水鏡』,[出版者不明],寛政1 [1789] 序. 国立国会図書館デジタルコレクション
今までの伏線が畳みかけるように、最後のシーンに集約されてしまいました。
皆さんお気づきでしょうが、佐野政言が狩で自分の矢が見つからず落ち込んでいたところに、「実は意知が隠したのを見た」と告げに現れた怪しい男。
その後も、桜の下で理不尽に政言を責める父について心配するようなふりをしながら、政言の心をあおっていましたよね。
そう、彼は平賀源内を麻薬で追い詰め、源内が人を斬ったように見せかけた「丈右衛門だった男」。
皮肉にも、田沼意知はこう言っていましたよね。
「源内を見放せと言ったのは自分である」と。
あのとき、源内を救いたいと言った父・意次を止めず、源内を罠にはめた犯人「丈右衛門」を突き止めていたら、もしかしたら、政言はあのようにそそのかされずに済んだかもしれません。そして意知の命も救われたかも…。
いや、それでもまた違う人物がその役を担うだけだったでしょうか。裏で糸を引く巨魁・一橋治済について、どうにもできない限りは――。
それにしても、跡取として父の期待に応えたくても応えられない不遇さに苦しむ政言も辛ければ、父・意次と共に良い政(まつりごと)を行ないたいと意欲に燃えていた意知も哀れ。政言29歳、意知35歳──、まだこれからの二人が、こんな悲劇の結末を迎えるとは残念でなりません。
誰袖もまた、旗本・土山宗次郎の名を借りてではあるものの、念願の意知に身請けされた喜びをかみしめ、約束の花見に心を躍らせていたところ。意知が凶刃に倒れた報せを受けて、一体どれほど衝撃を受け悲しみ苦しむのか、想像するだけで胸が締め付けられます。
今回のサブタイトルは「願わくば花の下にて春死なん」。毎回サブタイトルの巧みさに驚かされますが、今回も大変見事なサブタイトルだったと思います。
桜と死。日本人はどうしても華やかな美しさの中に滅びを見る。咲くはずだった佐野家の桜と、誰袖のためを思って意知が詠んだ狂歌が見事に響き合って、2人の青年の命が散るイメージを描き出しています。
赤穂浪士や佐野の事件だけではない、複数起きていた江戸城での刃傷事件
さて、桜と死で思い起こすのは、赤穂藩主・浅野内匠頭の辞世の句。
「風さそう 花よりもなお我はまた 春の名残を 如何にとかせん」(風に誘われて散る桜の花よりも、さらに私の名残惜しさはどうすればいいのか)
江戸城の松の廊下で、浅野内匠頭が吉良上野介に斬りかかった事件は有名ですよね。しかし実は、今回ドラマで描かれた佐野政言の事件も含め、太平の世と言われる江戸時代ながら意外にも江戸城内では多くの刃傷事件が発生しています。
<江戸城内での刃傷事件>
寛永五年(1628年):幕府目付・豊島明重が江戸城西の丸で年寄・井上正就を殺害、翌日切腹。
貞享元年(1684年):江戸城中で若年寄・稲葉正休が大老・堀田正俊を刺殺。
元禄十四年(1701年):播磨国赤穂藩主・浅野長矩、江戸城中で高家・吉良義央に刃傷に及ぶ。浅野は即日切腹、改易(赤穂事件)。
享保十年(1725年):江戸城中で松本藩主・水野忠恒、長州藩士・毛利師就を刃傷、翌日改易。
延享四年(1747年):江戸城殿中で、旗本・板倉勝該が隈本藩主・細川宗孝を刺殺。
天明四年(1784年):3月24日、新番士・佐野政言、江戸城で若年寄・田沼意知を刃傷。4月2日意知没。翌日、政言も切腹。
文政六年(1823年):西丸書院番・松平外記、雑言悪口を言った同僚の本多伊織らを江戸城殿中詰所で殺傷して自殺(西丸騒動)。
▶参考/「見る・読む・調べる江戸時代年表」山本博文監修(株式会社小学館)
これらの刃傷事件は、武士の名誉や権力闘争の闇を映し出します。しかし、動機など詳細は伝聞や後世の創作も重なってはっきりしない場合が多々。
今回の佐野政言の事件も、私怨説、公憤説、乱心説などありますが、真相ははっきりしていないようです。
ただ、政言が意知を斬ったタイミングと偶然にも米の価格が下落したタイミングが重なったこともあり、佐野政言は「世直し大明神」と称されるようになりました。庶民のフラストレーションは、時に狂暴な結末を喜ぶ。なんともいえず複雑な気持ちになりますね。
おわりに(この終わり方で1週休みはつらい…!)
今回は、佐野政言、田沼意知、そして誰袖の三人の悲劇をメインに感想・考察しました。
江戸城内での刃傷事件もこんなにあったのかと驚かれた方も多いのではないでしょうか。
ちょうど政言が刀を振り下げたところで、今回は終幕。さて次週…といきたいところですが、なんと7月20日は参院選の開票速報のため放送休止とのこと。
この状態で一週待つのはつらい…!
しかし、現実の私たちの目の前の米騒動や様々な問題をしっかり見据える週とも言えますね。
7月20日は選挙に行って、自分の想いを凶刃ではなく紙に託してきましょう。私は19日、20日は京都の祇園物怪市に出店のため、期日前投票を済ませておく予定です。
来週は、今までのべらぼうの振り返り記事もやりたいな~と考えています。もしよければ今までで印象に残っているシーンなど、気軽にコメントで教えてください。
それでは、また次の記事でお会いしましょう~!
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