べらぼう34話|持つ者と持たざる者。蔦重は書をもって抗う
大河べらぼう、34話『ありがた山とかたじけ茄子』の感想・考察です。
いや~、……あんな悲壮な「屁」の会あり??
以前の楽しくのびのびと馬鹿に興じていたのと大違い。不気味なほど静かな耕書堂に、「屁!屁!屁!屁!」と響き渡る蔦重や戯作者たちの声は実に不穏でした。
今回は、城中と市中でそれぞれ時代をのぼりつめた蔦重と意次の想い、そしていよいよ雲行きが怪しくなってきた黄表紙について、感想・考察していきたいと思います。
◎前回の33話はこちら。新之助の最期、蔦重を慰める歌麿と『画本虫撰』について感想・考察しています。振り返りにぜひ👇
持つ者と持たざる者。いつの世も一転する価値観
時代の恩恵を受けた者とそうでない者
今回は、松平定信が老中首座に抜擢され、世の中が一転するまさにその瞬間。
共に成り上がりとして、時代の恩恵を受けることができた蔦重と意次らにとってはいい時代でした。
しかし松平定信のように、本来なら成り上がりの意次よりも身分が上であったのに政治の中心から外されたと恨む者、また、反対につつましく生きてきたおふくや新之助にとってはそうではなかったでしょう。
人は自分より利を得る者にはうっすら恨みをいだいているもの。バブルが弾ければ、今度は正反対の質素倹約が流行る。贅沢な暮らしをする者を糾弾し、つるし上げ、見せしめにし、「つつましく身の丈にあった暮らしをしましょう」と正論を語るのは実に聞こえがいい。
けれど、特に吉原や出版で身を立てている蔦重にとっては、まったくもって賛成できかねる風潮。真っ白な越中ふんどし(松平定信は越中守なので、蔦重はふんどしと呼んでいるのですね)なんぞくそくらえ。
どちらが正気か…?
「倹約に励み分をわきまえて働く。私には至極真っ当なことに聞こえる」というおていさんに、蔦重は「正気でいってんのかよ」と返します。
「こいつ(定信)は世のため死ぬまで働け遊ぶな贅沢すんなって言ってんだよ、そんなのどうとったって正気の沙汰じゃねえだろうが」
しかしおていさんも負けません。
「派手に遊びまわる方を通だの粋だのともてはやす。そもそも今までの世がとち狂っていた!新しいご老中の考えは極めて真っ当で皆は喜んでいる。まずはその世のあるがままを受け入れるのも本屋にとって大切なことではありませんか」
このドラマは、主人公が蔦重であるからといって、片方だけに偏らない。両方の視点があることをちゃんと描いているんですよね。人間の欲望が世を大きく動かすこともあり、しかし行き過ぎると社会が成り立たなくなる。
自由な時代をかけのぼった蔦重と意次
ただ蔦重にとっては、すばらしい時代だった。訪れた田沼邸で、蔦重は今までの世をこう評します。
「田沼さまの作り出した世が好きでした。皆が欲まみれでいい加減で、でもだからこそ分を超えて親しみ心のままに生きられる隙間があった。吉原の引手茶屋の拾い子が、日本橋の本屋にもなれるような」
それに田沼もこう返します。
「俺もお前と同じ成り上がりであるからな。持たざる者には住みよかったのかもしれぬ。けれど、それは持てる側からすれば、住みづらく憤懣やる方ない世ではあったはずだ。今度はそのお方らが正反対の世を目指すのは、まあ、当然の流れだ」
「ありがた山のとんびがらすでございます」
と頭を下げる蔦重に、意次が「こちらこそ…かたじけ茄子である」と返すところもよかったですね。まだ若かった蔦重が勢いこんで初めて田沼邸を訪れた第一話が蘇りました。
蔦重の決意、「書をもって抗う」
この意次との対面で、蔦重は心を固めます。
戯作者たちを集めて告げたのは、「この流れ(世間の風潮)に、書をもって抗いてえと思います」という決意。
「倹約を心掛け遊興におぼれず分をつとめろ、死ぬまで贅沢するな働けとは、誰が楽しいんです?面白えんです?面白いのはただ一人、世をてめえの思う形にしたふんどし野郎だけじゃねえですかい?」
この言葉におていさんもハッとしたようですね。
しかし、四方赤良先生こと、大田南畝は苦しそうな表情。
「世の中に蚊ほどうるさきものはなし 文武といいて夜も眠れず」
この戯れ歌が南畝が書いたものだという噂が立ち、若年寄から詰められて処分されるかもしれないという状況になっていました。史実では、南畝が書いたものではないとはっきりしているそうですが。
✅べらぼうコラム #34 より
しかも、誰袖を身請けした(ドラマでは意次の息子・意知の代わりにということでしたが)旗本・土山宗次郎は行方をくらましており、今まで土山をスポンサーのようにしてきた南畝はいつ自分に累が及ぶか戦々恐々。
けれど、蔦重は定信が読売を使って自分の良いウワサを書き立てている、これを見逃していいのか、それならこちらは…と二つの提案をしましたね。
・田沼を叩き、定信をあげると見せかけて実は定信を落とす黄表紙。
・倹約ばやりの世の中に目の玉が飛び出るほど豪華な狂歌絵本
そして出されたのが、
・『文武二道万石通』
・『時代世話二挺鼓』
・『悦贔屓蝦夷押領』
・『画本虫撰』
これらについては、長くなりますので、また別の記事で書けたらいいなと思っています。
✅追記/『画本虫撰』の記事を書きました。あわせてどうぞ。→歌麿が描いた自然美の極致|狂歌絵本『画本虫撰』
おわりに(どうか戯けられる世が続きますように)
以上、蔦重の「書をもってあらがう」という決意、そして時代が一転する瞬間について感想・考察してみました。
ちょうど9月7日は石破総理が辞任を表明したところであったり、また若く世間受けの良い政治家である定信がどなたかとかぶったり…。
江戸の話が現代の話かわからなくなるほど考えさせられる回でした。
この時期の黄表紙には、政治がらみが多くなって、最初のころの単純な馬鹿さわぎとは毛色が変わってきます。
まだまだ私は未熟で勉強すべきとこだらけですが、ドラマのおかげで黄表紙をいろんな方向から見ることができて、誠にありがた山のかんがらす。
そうそう、石燕先生の「ちっぽけな虫の恋を、お前キンキンに…」のセリフがとても好きでしたね~。
結局ただただ良い人だった三浦様も癒しでした笑
原田泰三さんは、ムックリを一ヶ月も練習したそうですよ。
印象的なセリフやシーンがあれば、ぜひコメントで教えてください。
それではまた次の記事でお会いしましょう~♪
📚 関連記事
べらぼう感想マガジン — 毎話のディープな感想や江戸文化の裏話をお届け
📙『江戸生艶気樺焼』が現代語訳で全文読める!
黄表紙のぞきシリーズ:べらぼうにも登場した『金々先生栄華夢』や『江戸生艶気樺焼』、『御存商売物』など江戸の黄表紙を当時のレイアウトのまま現代語訳で楽しめるシリーズ。大河べらぼうのお供に最適です。通販サイトアリスブックスからどうぞ♪
「黄表紙のぞき」シリーズの詳しい記事はこちらから👇
いいなと思ったら応援しよう!
江戸の面白ネタを掘り起こして発信中。サポートしてもらえると、さらに楽しい記事をお届けできます!