べらぼう33話|新之助の最期と歌麿が命を写した『画本虫撰』
大河べらぼう33話、「打壊演太女功徳 (うちこわしえんためのくどく)」の感想・考察記事です。※ネタバレあり
この数回、辛く苦しい回が続きました。おふくと坊の死、困窮する庶民、打ちこわし、そして今回は新之助の死…。
一体人は、何のために生まれて何のために生きるのか。
まるで、現在放送中の朝ドラ「あんぱん」のほうの曲のようですが、今回も悲しかった。
けれど、蔦重を慰める歌麿の言葉にほっと涙があふれましたね。歌麿がいてくれてよかった~!
◎前回の32話はこちら。田沼意次の復活から松平定信との駆け引き、一橋治済の暗躍、そして新之助の覚醒について感想・考察しています。振り返りにぜひ👇
今回も新之助について、そしていつのまにか頼もしくなっていた歌麿、さらに「画本虫撰(えほんむしえらみ)」について、感想・考察していきます。
新之助は真のサムライになった
前回、蔦重が願った、誰も死なない打ちこわし。
史実でも、米商人やそれと結託した幕府役人を糾弾する木綿旗が辻などに立てられたといいます。これには、幕府による徒党への弾圧を牽制する意味があったとのこと。つまり、この打ちこわしは盗みや暴行ではなく、正当な幕府への訴えであると主張した、ということですね。
✅べらぼうコラム #33 より
このことから、庶民を統制する知識のあるリーダーがいたことが考えられるそうですが、ここにドラマでは蔦重と新之助をあてはめたのはエモすぎないですか。
新之助は後に自分でこう語ります。
「俺は何のために生まれてきたのかわからぬ男だった。貧乏な武士の家の三男坊で平賀源内の門を叩いてもモノにはならず、そしておふくと坊も守れなかった」
いやいやいや、それはちがうよ新さん。
私はこんな風に人々が暴徒と化そうというときに、知識と理性をもって皆を冷静に統率しようとする人物を尊敬します。そんな人が、実際に天明という時代にいたことを心底素晴らしいと思う。
へっぴり腰で切腹しようとしてもできなかったあの頃の新之助が、うつせみを吉原から足抜けさせ、近郊の農家で暮らしを立て、さらに江戸に戻っても貧しいなか、二人で必死に力を合わせて生きてきて…
その一つひとつの過程を、成長を知っているからこそ、おふくと坊を殺したのは世であると気付き、きちんと主張を掲げてお上へ訴えよう、そう思い実行した新之助は、間違いなく尊いと思う。
しかし、ここでもせっかくの統制を破り、暴徒を煽ろうとする「丈右衛門だった男」。金をもってけもってけと言う。
「盗みはやめてもらいたい!これは我らの想いを示すための打ちこわしなのだ。盗みはやめてもらいたい!」
新之助の声が切ない。どんな崇高な理想も、すぐに目先の欲望にむらがる人々にかき消されてしまう。どうにも、このあたり、すぐにSNSのウワサや炎上に便乗して騒ぎ立てる現代の我々にも重なって、見ているのが苦しくなるほどです。
これは早く打ちこわしを収めるしかない。
そこで蔦重が考えたのは、一流の歌い手、富本斎太夫を呼び、鉦や太鼓で踊りながらお救い米ならぬ、お救い銀が出ると歌って廻ること。
庶民をぎらつく金で扇動する「丈右衛門だった男」がいるのなら、こちらは楽しいエンタメの力で庶民の殺伐とした心を和らげようとする。
そう、今回のサブタイトルは「打壊演太女功徳 (うちこわしえんためのくどく)」。演太女ってエンタメのことですよね?
それを憎々しげににらみながら、「丈右衛門だった男」が踊っている蔦重に近づいてくる。その手には匕首(あいくち)が。
あわや、蔦重!
というところで、新之助が蔦重をかばって刺されてしまいました。
「蔦重を守れてよかった、俺は世を明るくする男を守るために生まれてきたのだ」
蔦重に抱えられ、そう告げて亡くなった新之助。
その顔は、微笑んでいて、幸せそうでしたよね―――。
新之助は、本懐を遂げて武士になったのだ、と思いました。
歌麿が命を写し取った『画本虫撰』
新之助が自分をかばって亡くなったことにショックを受けた蔦重を、励ましたのはふらっと耕書堂を訪れた歌麿でした。
「新さんはいい人生だったと思うんだよ、さらいたいほど惚れた女がいて、その女と一緒になって、苦労もあったろうけど、きっと楽しいときも山ほどあって、最後は世に向かっててめえの想いをぶつけて貫いて」
これはおふくの人生にも言えるかもしれない。
身分を捨て、命をかけてでも、自分を苦界から救い出してくれた男がいて、その人と一緒になって、苦楽を共にできて…。
そう思えば、このところずっと辛すぎた流れにも少しほっとできた想いです。
蔦重は歌麿を助けたいと言ってきたけれど、今回は助けられる立場でしたね。歌麿も、自分の過去に苦しみながらも、鳥山石燕という師のもとで成長していっている、ということでしょう。
蔦重へ見せた絵は、細かな筆遣いで活き活きと虫や花を写し取ったもの。後に歌麿の名作の一つ、『画本虫撰(えほんむしえらみ)』として刊行されるその絵でした。
「絵ってなァ、命を写し取るようなとこがあんだって。いつかは消えてく命を紙の上に残す……」
このドラマの言葉を聞いて、『画本虫撰』を見返してみると本当にしみじみと胸に沁みます。



✅『画本虫撰』全編はこちらで見ることができます。
この花は、この虫は、まさしく200年以上前に歌麿が見たもの、その時の命でしょう。史実の歌麿はどんな思いで写し取ったのか。
ドラマと重ねると、より想像が深くなり、絵が心に響いてくるように思われますね。
おわりに(次回、蔦重は書をもって幕府にあらがう?)
今回は、悲しくも新之助が本懐を遂げられた回でした。
歌麿もいよいよ才能を開花させていくと見えます。
しかしその一方で、江戸城内ではかつての毒が塗られた手袋の件で、高岳が大崎から脅迫された模様(ここ、少しわかりづらくなかったですか?)。
身の危険を感じた高岳は、脅迫に屈し、松平定信の老中登用を認めてしまいました。
いよいよ田沼意次が窮地に。次回の予告では、蔦重は「書をもって抗う」と言っていましたがどうなるのでしょうか。
久しぶりに「屁!屁!」という声も聞こえていましたが、早くこの心が晴れる展開が来るといいですね(来るの?)。
新之助の最期、歌麿の言葉、印象に残ったものがあればぜひコメントください。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう♪
✅ 前回の感想はこちら
べらぼう34話 感想・考察 —持つ者と持たざる者。蔦重は書をもって抗う
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