【金々先生】はこうして生まれた?春町の隠れ作と重版事件から読み解く黄表紙誕生秘話
現在放映中の大河ドラマ「べらぼう」。
江戸時代の出版社兼本屋である版元・蔦屋重三郎を主人公に、当時の出版物が続々と紹介されるのも楽しいところですね。
今まで一般に詳しく知られていなかった江戸時代中期の出版文化に注目が集まっていますが、最近新たにまとめられた論文で通説が覆されるような話が出てきているとのことで驚きました。静岡大学の教授・小二田誠二先生からご教示いただいたものです。
実際にはすでに研究者の間では議論されてきた話題だそうですが、今回はその論文をもとに、春町と黄表紙の新たな一面を覗いてみましょう。
春町の黄表紙と新たな発見
江戸時代、庶民の娯楽として親しまれた黄表紙。
絵と文字が組み合わさったこの読み物は、当時の文化や風俗を映し出す貴重な存在です。そんな黄表紙の創始者とされるのが、恋川春町という作家。大河ドラマでは、岡山天音さんが演じてらっしゃいますね。
ドラマにも出てきた春町の代表作『金々先生栄華夢』は特に有名。1775年に刊行されたこの作品は、出世を夢見て田舎から江戸に出てきた男が、途中で立ち寄った粟餅屋でうたた寝をし、その夢の中で大富豪の跡取りとして遊里で遊びまくるというお話です。

この作品は、同じく春町の手による『当世風俗通』との類似性がこれまで研究者の間で話題になってきました。『当世風俗通』とは、春町が絵をつけ、朋誠堂喜三二(ドラマでは尾美としのりさん)が文を書いた当時のファッションブックのようなもの。実は、下記の論文で、この二つの間に、なんと別の作品があったことが指摘されているのです。
さらに、鱗形屋の重版事件と『金々先生栄華夢』の発行時期の順序に関する通説も覆される話が出てきていました。今回はこれらの論文をもとに、春町と黄表紙の新たな一面を覗いてみます。
『春遊機嫌話』の存在
まず注目したいのが、春町が『金々先生栄華夢』以前に描いた『春遊機嫌話』という作品です。
実は『金々先生栄華夢』には、その発想やアイデアの元として『当世風俗通』という作品が挙げられてきました。『金々先生栄華夢』の中に出てくる絵が、先に発行された『当世風俗通』と非常によく似ているからです。
例えばこのように。↓

しかし、下記の中村正明氏の二つの論文によると、その間に『春遊機嫌話』という作品が存在していたとのこと。
◆「『春遊機嫌話』序文をめぐって : 『金々先生栄花夢』との関わり」中村正明
◆「春町作黄表紙の成立考」中村正明
上記二つの論文によれば、『春遊機嫌話』という作品は、『金々先生栄華夢』と同じ安永四年に、これまた『金々先生~』と同じく鱗形屋から出版されています。内容は江戸庶民の正月の催事にまつわる楽しい小噺を絵入り本にしたものだそう。この中に『当世風俗通』と『金々先生栄華夢』と同種の絵が見られるそうです。

※国立国会図書館では『春遊機嫌袋』というタイトルで登録されていますが、ここでは論文内の表記『春遊機嫌話』で統一しています。
三つの作品から絵を抜き出してみると、こういうことです。

さらに、同年ではあるものの、『春遊機嫌話』は正月に刊行され、『金々先生栄華夢』は夏秋頃の刊行であったことが妥当とされています。
つまり、黄表紙というものは、ファッション誌『当世風俗通』→小噺集『春遊機嫌話』→『金々先生栄華夢』といった流れで出来上がったということ。
『春遊機嫌話』という作品は、今までほとんど取り上げられてこなかったそうですが、黄表紙や江戸の出版の歴史を紐解く手がかりとして、今後もっと注目されるかもしれませんね。
節用集重版の時系列問題
また、上記の『金々先生栄華夢』の刊行月が正月ではなく、夏秋頃となったという点で、面白くなってくるのが鱗形屋が関わる節用集の重版の件です。
節用集というのは、当時使われていた日常用語を集めた一種の辞書で、庶民にも重宝された実用書。ドラマでも取り上げられていましたが、この節用集を本来なら上方の本屋しか出せないところを勝手に重版していたとして(ドラマでは偽版と言っていましたが)、鱗形屋の手代が詮議にかけられたという事件がありました。
この事件について、これまで通説では、重版の詮議は『金々先生栄華夢』の後に行われたと考えられてきました。なぜなら、『金々先生栄華夢』は安永四年正月に発行、重版事件は五月に起きた、とされていたからです。
ところが、これらの論文によれば、『金々先生栄華夢』の発行は安永四年夏秋とのことですから、その順序が逆で、5月の節用集重版のほうが先だったということになります。
となると、重版が発覚して慌てた鱗形屋が、夏秋に新作を売り出して売上挽回を狙ったのかも…と、新たな想像が膨らみますよね。
今回のドラマでは、節用集の研究をされている研究者の方も協力されているそうで、ドラマ内では重版事件が先で、その後『金々先生~』の出版となっていました。実は通説よりも新説を取り入れて作られている、ということがこれでわかりましたね。
今回の大河「べらぼう」、想像以上にすごいかも…!?
※節用集に関して、現在の唯一の重要文献として下記も教えていただきました。ドラマに協力された佐藤貴裕氏の御本です。
江戸の出版の最新情報を知りたい方に…
今回、この論文の存在を教えてくださったのは、静岡大学人文社会科学部・言語文化学科の教授、小二田誠二先生です。
先生は駿府十返舎一九研究会の立ち上げに関わられたほか、蘭字(輸出用茶箱ラベル)の研究会も主宰されています。
※こちらの江戸学講座はすでに終了しています。今後同様の講座が開講される場合は、SBS学苑の公式サイトをご確認ください。
そしてなんと、そんな先生の「江戸学講座」が4月から開講されるとのこと!
内容は、
「大河ドラマの主人公、蔦屋重三郎と関わった駿河所縁の人々、恋川春町、十返舎一九、吉野屋酒楽、そして紀定丸を取り上げ、それぞれの関わり方を比べながら、江戸と地方との交流の様子、当時の駿河地域の文化などについて見てみましょう。現地訪問の見どころだけでなく、図書館やインターネットの調べ方も含めて学びます」
とのことなので、まさに大河ドラマ「べらぼう」で江戸の出版文化に興味をもった方にピッタリな内容。
しかも通説ではなく最新の研究情報もお話いただけるそうなので、初心者さんはもちろん、さらにもっと深く知りたいという方にもおすすめです。史料の調べ方まで教えてもらえるって一生使えるスキルになりますよね。
4月開講で定員がありますので、ご興味ある方はお早めに♪
日程や場所など詳しくはこちらから ↓ ↓ ↓
おわりに(まとめ)
以上、今回は通説を覆す注目の論文を紹介しました。
《まとめ》
・黄表紙は、ファッション誌『当世風俗通』→小噺集『春遊機嫌話』→黄表紙『金々先生栄華夢』の流れで誕生したと考えられる。
・『金々先生栄華夢』の刊行よりも節用集の重版事件のほうが先に起きた可能性が大きい。
詳しくは各論文をぜひお読みになってください。
大河ドラマ「べらぼう」をもっと深く楽しめる、江戸学講座もお見逃しなく。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう~!
【関連記事】
✅大河べらぼう鑑賞|金々先生栄華夢の魅力とは?試し読みあり
✅【保存版】黄表紙とは?江戸のコミック完全ガイド
【追記】下記のコメント覧に小二田先生から節用集重版についての詳細が届いています。合わせてチェックしてみてくださいね!
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