べらぼう19話|鱗形屋と感動和解!春町の未来予想も紹介
べらぼう19話、「鱗の置き土産」について感想・考察します。
◎前回の18話、「歌麿よ、見徳は一炊の夢」についての感想・考察はこちら。歌麿の過酷な幼少期や喜三二の黄表紙「見徳一炊夢」から、サブタイトルの意味を読み解いています。
今回一番心にぐっと来たのは、鱗形屋(片岡愛之助さん)が恋川春町(岡山天音さん)から頭を下げられたときに、思わず手をあげて喜びそうになったところ。あの満足そうなにんまりとした笑顔が忘れられません!
なんという素敵な蔦重と鱗の旦那との和解回。以前は蔦重につかみかかって「俺の店を返してくれよ」と怒鳴ったこともある鱗形屋。こんな形で、本に夢を託す二人が再び意気投合、協力し合うことになろうとは。
史実から見れば堅物すぎる春町も、おそらくとある視点から誇張されたキャラクターなのではと考えています。
今回は鱗形屋の置き土産として、喜三二につづき春町という強力な作家を迎えることになった蔦重。そして春町が100年どころか《人王三万三千三百三十三年先》を予想した「楠無益委記(くすのきむだいき)」についてなど、ドラマと史実の両面から感想・考察していきましょう!
本への情熱が蔦重・鱗形屋・春町を繋ぐ
節用集の重版(ドラマでは偽版)問題がひびき、とうとう日本橋を離れて店を縮小することになった鱗形屋。
鱗形屋が持っていた吉原細見の版権と、息子・万次郎は西村屋が引き取ることに。そして今まで鱗形屋と組んでいた人気作家の恋川春町は、鶴屋喜衛門のお抱えとなります。
しかし、春町と鶴屋喜衛門はどうにもそりが合わない。誰もやっていない新しいことに挑戦したいという春町と、リスクをとるより昔の二番煎じでもいいから売れるものを作ってほしいという鶴屋。
いや、これ完全に現代の作家と編集者のやりとりとだぶりますよね。現代の出版関係者が思わず苦笑するさまが私には見えましたよ笑
悩む春町を見てなんとかしてあげたいと思う鱗形屋。そして、春町という人気作家をどうにかして抱え込みたい蔦重。
三者の想いを一つにつなげるきっかけは、須原屋の一言でした。
「うちが細見を買っていたのは蔦重に頼まれたからなんだ。返せと言われても商いは返せない。だからせめてもの償いってことさ。おまえさんも何かやっておくことはないかい、江戸を去る前に償いってやつをよ」
ハッと驚く鱗形屋。ここから、鱗形屋と蔦重の粋なやりとりがはじまります。
鱗形屋「鶴屋から春町先生をかっさらって暮れの鐘。かっさらうのは得意だろう?(ニヤリ)」
蔦重「それなら『誰もやったことのねえ案思(あんじ)』を共に考えて暮れの鐘」
戦いのゴングならぬ、仲直りの鐘が鳴り、そして始まるアイデア出し。ブレインストーミング。なにせ今までにない新しいアイデアだから大変です。
喜三二や京伝(北尾政演)、志水燕十(歌麿に絵を描かせていた北川豊章)なども加わり、これはどうだあれはどうだとわいわいきゃっきゃ。歌麿も参戦して「絵から考えてみたら?」なんて。このシーン、とっても楽しかったですね。わくわくしました。
最終的に蔦重が思いついたのは「百年先の髷を見てみたい!」
おおお、それだあああああ!
それで決まったのが100年先の未来のお話。なんせ未来のお話だから古いも新しいもない。そう言われたら確かにその通りですね。
この新しいアイデアに乗った春町は、蔦重のところで本を出すことを決めます。春町は蔦重と鱗形屋が裏で協力していたことは知らないので、今まで世話になった鱗形屋を潰した蔦重のところへ行くのは申し訳ないと思って頭を下げる。
そこで、思わず鱗形屋は「しめた!」とほほを緩ませて手をあげそうになる…が、あわてて渋い表情に戻すもやっぱり微笑んでしまう。この愛之助さんのうれしさ溢れる演技、すごく良かったですよね~。何回でも見たい笑
さらに、鱗形屋の置き土産は春町先生だけではありませんでした。もう一つ、蔦重に手渡したのは、大昔に鱗形屋が作った古い版木。なんとそれは蔦重がはじめてのお年玉を握りしめて買い、そして瀬川に贈った思い出の赤本「塩売文太」の版木ではありませんか。
「俺にとっちゃこんなお宝ねえです」
と感激する蔦重に、
「ウチの本読んだガキが本屋になるってよ、こんな冥利に尽きる話があるかよ!」
と、これまた感無量の鱗形屋。
こんな風に人と人をつないで、一生を通じて心の支えとなってくれる、大切な思い出となって、辛いときも心を奮い立たせてくれる。本にはその力がある。そのことをきちんと描いてくれてた回、いつにもまして心に響きましたね。
恋川春町の未来予想図「楠無益委記」とは?
さて、今回のドラマの中では「100年先の江戸を描く」ということになっていましたが、実際に恋川春町が書いたのは100年先どころではありません。
人王三万三千三百三十三代の先(神様ではなく人の王、つまり天皇が世を治めてから三万三千三百三十三代先の未来)を思いっきり面白く予想したものでした。それが「楠無益委記(くすのきむだいき)」(無益委記とも)という作品です。
さて、そんな未来に、髷はどうなっているのでしょうか??

ハイ、こんな感じ。
「髷は釣り竿のごとく」になってるらしいです笑
羽織も紐も引きずるくらいに長くなる。少し前に腰でズボン(パンツ)を引きずるように履くファッションが流行りましたが似たような感じでしょうか。

これは旧暦の六月(盛夏)が大寒(一年で最も寒い日)になり、つららの汗を流しながら「冷にゅうめん」を食べているところ。暑いんだか寒いんだか意味不明です笑

こちらは「女郎」ではなく「男郎」が登場して、道中しているところ。「おいおい、あれが今話題の男郎か」なんて下品な品定めをしながら見ているヤンキー風の男たち(地回り)も女に変わってます(右端)。男女逆転。
そうそう、ドラマの中で歌麿が「春町の絵は、ああ春町だなあって、なんとも言えない味がある」と言ってましたよね。実はこの「楠無益委記」、作者名ははっきりわからないのですが、絵から恋川春町の作だろうと推定されている作品なんです。そういうところもさらりと盛り込んでるようで感心しましたね。
ちなみに、恋川春町は前回の感想記事でも書いたように、鳥山石燕の門下ですが、勝川春章にも私淑、つまり直接指導は受けていないけれど尊敬して模範としていたと言います。
名前の恋川春町も、勝川春章を意識して付けたとのこと。で、べらぼうでも登場した「青楼美人合姿鏡」というの、覚えてらっしゃいますか?
#大河べらぼう 第10回にちなんだ浮世絵をご紹介。『青楼美人合姿鏡』は北尾重政と勝川春章の合作ですが、2人で同じ頁を描くのではなく、頁ごとに別々に分担していました。顔の違いはほとんどないのですが、林美一氏によれば、耳の描き方にわずかな違いがあり、左が重政、右が春章と推測されています。 pic.twitter.com/hz6xzsdWgW
— 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (@ukiyoeota) March 9, 2025
太田記念美術館さんのXのポストを引用させていただきますが、この北尾重政や勝川春章の絵に恋川春町の絵はとてもよく似ているな~と思ったんですよね。
これは私の想像にすぎませんが、当時の流行りだった重政や春章のタッチを春町はうまく取り込んでいたのかな~なんて思っています。それが春町の人気の一因だったかも。詳しい方がいたらご教示くださいませ。
ドラマの堅物キャラクターはどこから来たのか?
ドラマのストーリー自体はとても面白く見ていますが、恋川春町があまりに堅物すぎる、というのが、史実の春町を少しでも知る人が共通して持つ感想かなと思います。
実際の春町は、喜三二と共に遊び人が参考にするメンズファッション誌「当世風俗通」を出したり、ダジャレやおふざけ満載の黄表紙をたくさん書いている人物。吉原に通いなれた通人であったことは確かで、「吉原の誘いを断る堅物で古臭い人物」というドラマのイメージとはかけ離れています。
▶参考/ステラnet べらぼうコラム#19
ただ、もしかして…と思うことは一つ。それは最近、私のnoteでもご紹介した松原哲子著『草双紙って何?』という本。この中で、松原氏は春町が黄表紙に書いている地口やダジャレが当時としては少し古いものである、と指摘しています。※流行語は廃れるのも早いので、春町がうっかりしていたか、それとも意図的に遊んだのかはわかりません。
おそらくこういう指摘から、脚本家やスタッフの方々はイメージを膨らませて、春町の「堅物で古臭い」というキャラ設定を行なったのではないか、と思っていますが、さてどうでしょうか。
実際は上記のステラnetべらぼうコラムで解説されているとおり、堅物でも古臭いおじさんでもないよ~というのは伝えておきたいところですけれど笑
おわりに(次回は大田南畝登場?)
以上、蔦重と鱗形屋、そして春町の三者がつながった今回の回。春町の「楠無益委記」の紹介や、キャラ設定についても感想・考察してみました。
そのほか、喜三二の作品を極上上吉(ナンバーワン)と評した大田南畝の「菊寿草」についても書きたかったけれど、もう長すぎたのでカット。
◎追記/大田南畝の「菊寿草」についてなど、19話のプチネタについて書いた記事をアップしました!下記へどうぞー。
将軍家治が、知保の方の狂言自殺を「それでもそれは悲鳴だろう」と言ったシーンもよかったですよね。本質を見抜ける人はすばらしい。
あと、須原屋役の里見浩太朗さんの声の良さ!
御年88歳だそうですが、まったくおとろえない張りに聞きほれてしまいます。
次回は、狂歌の天才・大田南畝が登場するようですね。
私は小林ふみ子氏の本で、なんでも「めでたい」に変える才能をもった南畝がさらに大好きになりました。予告編では赤ん坊を抱いている南畝が映っていたようですが、おしめが干された我が家の所帯じみた風景も笑い飛ばす、おもしろポジティブ南畝を桐谷健太さんがどう演じるか、もうワクワクがとまりません…!
蔦重と鱗形屋の奇跡の和解、春町先生の葛藤、田沼意次を信頼する将軍…、あなたはどのシーンが気になりましたか?
ぜひコメントで教えてくださいね~。
それではまた次回の記事でお会いしましょう♪
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