べらぼう21話『蝦夷桜上野屁音』京伝に嫉妬する春町?
べらぼう21話、『蝦夷桜上野屁音(えぞのさくらうえののへおと)』。
老舗版元の底力と、出世作を出した京伝に嫉妬する春町に「俺たちは屁だ~!」の爆笑迷言が飛び出した《歌麿大明神会》についてなど、今回もモリモリ感想・考察をしていきます。
◎前回の20話の感想はこちら。本屋バトルに、初登場の狂歌の親分・大田南畝についてなど、感想・考察しております。あな鰻~♪
いや~、面白かった。毎回面白いけれど、なんなんでしょうか。あの屁で盛り上がり歌いだし踊りだす作家と編集者の会は笑
その反対に怖かったのは、えなりかずきさん演じる松前藩の八代藩主・松前道廣。よくぞこのキャスティング! 真逆のイメージでよりサイコパスみがましてたような…。
Xでは「鬼えなり」、「あいつは上弦の鬼だろ?(by 鬼滅の刃)」などと言われていて思わず噴きだしました。
ではさっそくいってみましょう~!
老舗版元の底力! ディレクションの凄さを思い知る蔦重
前回で、西村屋の裏をかき、見事市中でも自店の本を取り扱ってもらえるようになった蔦重。
しかし早速にも、老舗版元の長年培った技術力にしてやられることになります。
京伝の作家としての才能を見抜いた鶴屋

ひとつは、鶴屋の指図で書いた山東京伝の青本(黄表紙)「御存商売物(ごぞんじのしょうばいもの)」が大田南畝の絵草紙評判記『岡目八目』で激褒めされたこと(「御存~」については後述します)。
今までさんざん付き合いがあったはずなのに、その京伝の才能を見抜けなかったことを蔦重は悔しがります。京伝はこう言っていましたね。
「ここ足せ、ここにうがちを、ここを省け、なんて鶴屋さんに言われるままに書いていたらコツがつかめてきちゃって」
鶴屋の名編集者ぶりが浮き上がってきました。19話では恋川春町とまったくそりがあわなかった鶴屋ですが、京伝とはうまく息が合ったということでしょう。
あくまでドラマのキャラクターとしてですが、鶴屋の合理性と京伝の柔軟さがうまくはまった、という感じでしたね。「読者に受けるパターン」を鶴屋が伝え、それを京伝ががっちり受け止めモノにした、と。
画工としての北尾政演でなく、青本作家・山東京伝を売り出した鶴屋の新人発掘力はさすがです。
鶴屋は元は京都の書物問屋から江戸へ出店した版元。風間俊介さん演じる鶴屋喜右衛門がプライド高そうなのは、そんな「上方下り」のせいもあるのでしょう(当時の「上方下り」はいわばブランドでした)。
今後、人気作家となる京伝をめぐって蔦重と鶴屋のさらなるバトルが発展していくんでしょうか。
鈴木春信以来の錦絵を得意とする西村屋

またもうひとつは、西村屋が出した「雛形若菜」の摺の美しさ。蔦重がパクって出した「雛形若葉」とは雲泥の色の鮮やかさでした。
実は西村屋は、もともと錦絵が出始めた明和頃から鈴木春信の作品を出していた錦絵を得意とする版元。

鈴木春信とは、今私たちが浮世絵と聞いて思い浮かべる多色摺の錦絵の誕生にかかわった一人。繊細なかわいらしい美人画で知られる絵師です。
つまり、錦絵にかけては長年蓄積された知識とテクニックを持っているわけです。だからこそ、今までも西村屋は「錦絵は任せてくださいよ~」と自信を持っていましたよね。
私も以前、印刷会社や出版社で働いていましたが、その際にも「色校」と呼ばれる、印刷物の色の仕上がりを事前に確認するための校正作業がありました。
例えば雑誌の表紙や大手クライアントの広告などは、厳しいチェックがあります。墨かぶりをトル(暗っぽさをなくす)とか、実物に色を近づけるために色見本や商品サンプルを印刷会社に渡すとか、人物の顔が美しく映えるように明るくする、赤みを足す…などなど。
こういった細かなディレクション(指示だし、べらぼうでは「指図」と言っていましたね)が、特にビジュアルを重要視する印刷物にはとっても大事なのです。
錦絵(浮世絵)は画工の才能のみで語られがちですが、彫師・摺師はもちろんのこと、こういった版元のディレクションや企画力、センスも作品の出来に大いに関係しているということを改めて感じましたね。
しかしそのディレクションの方法も、もはやすっかり耕書堂の頼もしいスタッフ兼画工となった歌麿が、絵師の北尾重政や摺師・七兵衛から教えてもらっていました。
この経験が今後のドラマ内で、歌麿の傑作のひとつであり、素晴らしい摺の技巧が施された「画本 虫撰(えほん むしえらみ)」の誕生に活かされてくるんじゃないかな~なんて思ってますが、どうでしょうか。

大田南畝が激褒め!山東京伝の出世作「御存商売物」
さてさて、京伝の出世作「御存商売物」がフューチャーされて、京伝のお調子者っぷりが目立っていました。
でもこれ、若手新人が並いる大人気作家たちをおさえて、いきなり大賞に選ばれたわけですからすごいことです。
「すいません、どうも一等になっちまって」
と京伝がにやにやしながら頭をかいて、蔦重との話もそこそこにぴゆーっと飛び出していったのも無理はありません。

上記が大田南畝の「この黄表紙がすごい」のその年バージョン『岡目八目』。京伝の作品は一等である「大上上吉」とされています。
文の冒頭には(赤線部分)
「京伝とは仮の名であって、実は紅翠斎(北尾重政)の門人である政演である」
と紹介されているので、まさしく「山東京伝」という作家名はほぼ知られていなかった、北尾重政門人の「北尾政演」という画工の名前のほうが通りがよかった、ということが分かりますね。
この「御存商売物」、大田南畝が激褒めしただけあって、本当によくできた物語です。何が素晴らしいかというと、当時の本たちが擬人化されて大騒動をひきおこすという内容。

赤本、黒本、青本(黄表紙)のほか、役者絵が描かれることが多い一枚絵は役者のような色男に、多色刷りで華やかな錦絵はナンバーワン遊女に、焼きもち焼きの奥さんは短気だから「いろはたんか(短歌)」という名前で……などなど、当時の出版物がひととおり登場して、その一つひとつに細かな洒落が効いているというところ。
当時の人も「うまいもんだねこりゃ」とにやにやがとまらなかったでしょうし、現代の私たちが読んでも、こんなに江戸時代の江戸には多彩なジャンルの出版物があったのか、と驚いてしまいます。
◎全文読んでみたいという方は、下記の「続続 黄表紙のぞき」という、当時のレイアウトのまま現代語訳した本を通販しております。よろしければぜひ実際の黄表紙をそのままの形で読んでみてください♪
狂歌名は酒上不埒。すねた春町先生の次回作に期待!
一方、この京伝の大出世作に嫉妬の炎をめらめら燃やしていたのが恋川春町。
実は恋川春町の狂歌名は酒上不埒(さけのうえのふらち)というんですよね。ここから、酒癖が悪い、というキャラクター設定にしたのかな、と思います。
ただ、私のイメージではもっとこう通人っぽい、色っぽい意味での「ふらち」かなと思っていたのですが、実際はどうなんでしょうか笑
ドラマでは、すっかりふてくされていじいじした、かなり面倒な作家先生という感じでしたが、いや突然吐き出した悪口にもセンスが光っていてみんな怒るよりも呆然と聞いてしまっていたようでしたよね(ちょっと書き出して勝手に解釈してみました)。
京伝には
「今日出んと女にモテぬと焦りける、人の褌ちょいと拝借」。
京伝なんか今出世しないと女にもてないと焦ってるだけだろ、人の作品を勝手に盗みやがって!
南畝には「四方の赤、酔った目利きが品定め、岡目八目囲碁に謝れ」
四方の赤(当時の人気酒店の酒名からつけた南畝の狂名)、お前の酔っぱらったような適当な判定の評判記に岡目八目と名付けるなぞ、囲碁に失礼だぞ!(岡目八目は囲碁用語)
とばっちりを受けたのは友人の喜三二。
「気散じと名乗らばまずは根詰めろ、詰めるも散らすも吉原の閨(ねや)」
朋誠堂喜三二の名の由来が「干せど気散じ(空腹でも気にしない)」で気散じというなら、まずは根つめてみやがれ、どうせお前が詰めたり散らすのは吉原の寝所の中だろうがな!
これ、脚本家の森下さんがお考えになったんでしょうか。それとも色んな方が関わっているのかな。とてもよくできていてすごいなあと感心しました。
こんな悪口言われたら、悪口とも思わず拍手してしまいそう。他人の悪口を言うときは、このくらいセンスを効かせてみたいものです(無理)。
そして最後は「てめえらなあ、てめえらなんかなああ~~!」と声を張り上げた途端、出たのが隣にいた次郎兵衛義兄さんの屁。
なんと次郎兵衛義兄さんがこの緊張をほどくとは。一家に一台、次郎兵衛義兄さんです。
そこで、立ち上がった南畝の
「お、俺たちは屁だああああ~~~!」
からのなぜかみんなで屁の合唱。
「七へ八へ へをこき井出の山吹の みのひとつだに出ぬぞきよけれ!」
これは「七重八重花は咲けども山吹のみのひとつだになきぞあやしき」(後拾遺和歌集/兼明親王)が元歌。
「七重八重に花は咲くけれど、山吹には実が一つもないのは不思議なことだ」という大変美しい内容の和歌です。
しかし、南畝にかかると
「七回も八回もたくさん屁をこいて、結局山吹色の実がひとつもでなかったとは清いことだ(大意)」
みたいなヒドイ歌になってしまいました笑
この「七へ八へ~」の歌は実際に南畝が詠んだ狂歌です。ほんと屁が好きなんだなぁ…。
しかし、結局春町先生は筆を折る!なんて言ってしまいました。なんとか春町先生の機嫌を直してもらって、新しい作品を書いてもらわないと…。
今後、春町先生が書く作品は一体どんなものになるんでしょうね。あの悪口のセンスの良さがキラリと光る作品になるんでしょうか。
おわりに
『べらぼう』21話、今回も要素が盛りだくさんすぎましたね~。
鶴屋と西村屋のディレクション力、そして歌麿を「とびっきりのそうきたか」にしたいという蔦重、京伝の才能と春町の嫉妬がぶつかり合う中、歌麿大明神会の「俺たちは屁だ~!」の爆笑で締めるこのカオス感、たまりません。
「北辺にすくう鬼」と言われた松前道廣の不気味さも効いてて、笑いと緊張のバランスが絶妙でした。蝦夷地を召し上げるためにお忍びで吉原に潜り込み情報を探る田沼意知と、その美男ぶりに一目ぼれしてしまう誰袖の恋の行方も気になるところ。蔦重に身請けを迫っていた件はもういいのかな?笑
次回はすねた春町先生がどんな作品で巻き返しを図るのか、歌麿や京伝がどのように才能を開花していくのかとても楽しみです。
歌麿、京伝、春町、南畝、喜三二…、きらめく江戸の文化人たち、あなたが気になっているのは誰ですか?
気軽にコメントしてくださいね。
あ、大文字屋は二代目となって引き続き伊藤淳史さんでしたね。この予想は当たりました!
それではまた次の記事でお会いしましょう~♪
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