春闘「大手と中小の格差」を、データの読み方から疑ってみる
どもどもー!damakoroです。
前回の記事で2026春闘1次集計5.26%の話を書いたんですけど、その後ニュースを眺めていたら、今度は「大手5%超え、中小は4%台に届かず」「広がる賃金格差」みたいな見出しが続々と流れてきまして。
で、これも僕、ちょっと違和感があったんですよね。
「大手と中小の格差」って、確かにあります。データ上もそう出ます。でも、その格差をどの数字とどの数字を比べて言っているのかを意識せずに「広がる格差!」って言い切るのは、かなり雑な議論なんじゃないかと。
今日は、データアナリストとして日々数字を扱ってる人間の目線から、「春闘の格差」というテーマをちょっとだけ解像度を上げて読み直してみたいと思います。煽る話でも擁護する話でもなくて、そもそも数字の出どころがいくつもあるという話です。
同じ「2025春闘賃上げ率」が、3つも4つもある
いきなりですけど、こちらのチャートをご覧ください。

これ全部、同じ「2025年春闘の賃上げ率」です。
連合・全体(最終集計):5.25%
連合・中小(300人未満):4.65%
経団連・大手(500人以上):5.39%
経団連・中小(500人未満):4.35%
どれも嘘じゃないし、改ざんでもない。それぞれ正規の集計です。でも、同じテーマで数字が4種類ある。なぜこうなるかというと、集計主体ごとに「対象」も「定義」も違うからです。
少し整理します。
連合は、傘下の労働組合がある企業から集めた数字です。労働組合に組織されている労働者の話で、加重平均で計算されます。「中小」の定義は組合員300人未満。
経団連は、原則として経団連会員企業のうち大手企業(従業員500人以上)と中小企業(500人未満)を別建てで集計しています。連合と違って労組ベースではなく、企業単位の調査です。「中小」の定義も連合と違う。
厚労省にもまた別の調査があります。「賃金引上げ等の実態に関する調査」「毎月勤労統計」「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」など、複数の統計がそれぞれ別の数字を出しています。
つまり、新聞やテレビが「賃上げ率は◯%」と報じるとき、それはどれかひとつの集計値を切り取ったものであって、「日本全体の労働者の平均」ではないんですよね。
ここを押さえずに「大手は5.39%、中小は4.35%、格差がある!」と言われても、データを扱う人間としては「どれとどれを比べてるの?」って引っかかるんです。
さらに厄介なのは、雇用者の大多数が"そもそも集計の外側"にいること
もうひとつ、決定的な話があります。
連合の集計は労組がある企業しか入っていません。日本の労働組合の組織率は、近年16%前後で推移しています(厚労省「労働組合基礎調査」)。つまり、連合が出している5.25%という数字の背後には、日本の雇用者の8割超が含まれていないわけです。
経団連の方も、対象は経団連会員企業中心です。中小企業の集計は「原則500人未満」と言いつつ、実態として地方経済団体経由で集めた17業種・数百社規模。日本の中小企業は約358万社あると言われている中で、これも当然全体を代表する数字ではありません。
参考までに、総務省「令和3年経済センサス」によると、日本の常用雇用者の企業規模別構成はこんな分布です。
〜99人:37.3%
100〜299人:14.6%
300〜999人:15.0%
1,000〜4,999人:15.5%
5,000人以上:17.6%
雇用者の約半分は300人未満の企業に勤めているんですよ。そして、この層こそが連合・経団連いずれの集計でも、サンプリングの精度が一番低いゾーンなんです。
報道で「中小4.35%」と言われたとき、そこに含まれている中小企業は、労組があって、経団連会員ネットワークに繋がっていて、そもそも調査に回答する余裕がある比較的しっかりした中小です。本当に苦しい中小、賃上げできない中小、そもそも調査票が届かない零細企業は、数字の外側にいる可能性が高い。
つまり、報道される「中小の賃上げ率」は、中小企業の中でも上位層の数字である可能性が高いんです。下振れリスクは数字に反映されきっていない。
ここまでが、データの読み方の話です。
それでも格差は事実、ではなぜ広がるのか
ここまで「データの読み方が雑」という話をしてきましたが、誤解しないでほしいのは、大手と中小に賃上げの差がある、という事実そのものは否定できないということです。連合と経団連、別々の集計でも同じ方向の結果が出ているので、傾向としては信頼していい。

過去5年の経団連最終集計を見ると、大手と中小の賃上げ率はおおむね1ポイント前後の差で推移しています。25年で言えば大手5.39%に対し中小4.35%、その差は1.04ポイント。これは安定して観測できる構造的な差です。
では、なぜこの差が生まれるのか。
教科書的には「中小企業は利益率が低くて賃上げ余力がない」と説明されます。これは半分正解で、半分は不十分です。もう一段踏み込むと、中小の賃上げを左右する最大の変数は労務費の価格転嫁ができているかどうかなんですよ。

中小企業庁の「価格交渉促進月間フォローアップ調査」によると、労務費の価格転嫁率は2022年9月時点の33%から、2025年9月には50%まで上昇しています。3年で約17ポイントの上昇は、地味ですが構造的な変化です。
価格転嫁ができれば、人件費が上がった分を取引先に価格として乗せられる。乗せられれば、賃上げの原資ができる。賃上げできれば、人手不足の中で人材を確保できる。──このループが回り始めた中小は、賃上げができるようになってきているんです。
逆に、価格転嫁ができていない中小は、いくら人手不足でも賃上げの原資が出てこない。「賃上げしたいけど物理的に無理」という状態になります。
加えて、2026年1月には中小受託取引適正化法(改正下請法)が施行されました。発注側と受注側の対等な取引関係を促し、労務費の価格転嫁をさらに後押しする法律です。これが効いてくれば、26年以降は中小の中でも価格転嫁が進んだ層から賃上げが加速する可能性があります。
つまり、「中小だから上がらない」ではなくて、「価格転嫁ができている中小は上がるし、できていない中小は上がらない」という構造になっているわけです。中小をひとくくりに語る時点で、もう解像度が足りていない。
じゃあ何を見れば「自分の話」になるのか
長々と書いてきましたが、僕ら中小勤務の側がこのテーマと向き合うときに本当に必要なのは、報道の5.39%や4.35%といった数字を眺めることじゃなくて、自分の会社にとって意味のある問いを立てることだと思っています。
データリテラシー的に役立つ問いを3つだけ挙げておきます。
問い1:自社の業界の労務費転嫁率はいくつか?
中小企業庁の調査は業種別の数字も出しています。建設・運輸は転嫁が進んでいて、サービス業(特に対個人)や情報通信は進んでいない。自社が属する業界の数字を見れば、業界全体の天井がどのへんにあるかが分かります。
問い2:自社は労組経由の集計に入っているか?
入っていれば、報道の数字と自分の給与は連動する可能性が高いです。入っていなければ、ニュースの数字は基本「他人事」だと思った方がいい。これだけで、ニュースを見るときの精神衛生がだいぶ違ってきます。
問い3:自社の経常利益はこの3年で増えているか?
賃上げの原資は最終的に利益から出てきます。経常利益が伸びていない会社で「世の中が上がってるからうちも」と期待するのは、構造的に無理筋です。逆に、利益が伸びていて人手不足にも悩んでいるなら、賃上げの可能性は十分にある。
この3つの問いに自分なりに答えを出した上で、初めて報道の数字との"距離感"が測れるようになります。
まとめ
整理します。
同じ「2025春闘賃上げ率」でも、集計主体(連合/経団連/厚労省)と対象(労組/経団連会員/全国)で数字は4種類以上ある。「格差」を語るときは、どの数字と比べているかを意識する必要がある
雇用者の約半分は300人未満企業に勤めているが、その層こそ集計の精度が低い。報道の「中小◯%」は中小の中でも上位層の数字である可能性が高い
それでも大手と中小に1ポイント前後の差があるのは事実。最大の要因は労務費の価格転嫁。転嫁率は3年で33%→50%まで上昇し、26年1月施行の改正下請法でさらに後押しされる構図
「中小だから上がらない」ではなく「価格転嫁ができているかで二極化している」のが正確
自分の会社の話に落とすには、業界の転嫁率・労組の有無・自社の経常利益、この3点を見るのが現実的
格差の存在を否定したいわけじゃないんです。ただ、報道の見出しレベルで「広がる格差!」と消費されている情報を、もう一段だけ解像度を上げて読み直すと、見える景色がかなり違ってくる。データを扱う仕事をしていると、こういう「数字の裏側にある定義の話」が結構大事だなと改めて思いました。
それじゃあ、今日はこのへんで! 最後まで読んでいただいてありがとうございました。 よかったらスキ・フォロー・コメントしていってもらえると、次の記事を書くモチベーションになります(笑) それでは、damakoroでした〜!
参考データ・出典
連合「2025春季生活闘争 最終回答集計結果」
経団連「2025年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果(最終集計)」(2025年8月6日公表)
経団連「2025年春季労使交渉・中小企業業種別妥結結果(最終集計)」
厚生労働省「労働組合基礎調査」
厚生労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」
総務省「令和3年経済センサス」
中小企業庁「価格交渉促進月間フォローアップ調査」各回
第一生命経済研究所 各種レポート(岩井紳太郎氏)
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