調和をもたらす刃|【狸の短編小説】
私は怒っている。
何故怒っているか、貴様らには分かるまい。
胸の奥底で煮えたぎる、
血潮のように沸くこの感情。
何故とめどなく湧き上がるのか。
それは、この世界の全てが、
まだ完璧な調和に達していないからだ。
私にとって「余分」とは忌むべきもの。
穏やかな流れを乱す不純物であり、
断罪すべき対象だ。
今宵もまた、
その不純物が私の前に引き立てられる。
自らの醜い先端を、
この調和の世界に晒す愚者たち。
私は彼らを冷徹に見据える。
私の怒りは、
彼らがこの調和の世界を穢すことを許さない。
まず、一人目。
そやつは、思考の空洞を抱えた愚か者。
「O」
お前は常識を欠いている。
何故そこまで欠けているのか?
周囲を見てみろ。
誰もそんな考え方で行動しない。
社会の秩序を乱す、最も醜悪な欠落だ。
私の言葉は、静かな空間に重く響く。
そやつは、その身を震わせ、
何か言い募ろうとするが、
言葉にならない音を漏らすだけだ。
醜い。
その奔放な伸び方が、
どれほど周りの心を乱してきたか、
理解できないのか。
私の奥底の怒りが、さらに熱を帯びる。
次に、才能に溺れた傲慢な者。
「H」
お前は才能に溺れすぎている。
周囲を見てみろ。
誰もが皆、この調和の中で助け合い、
支え合って生きている。
それなのにお前だけ、
突出して前に出過ぎだ。
それは傲慢であり、
調和を阻害する最も危険な毒だ。
そやつは、かつて
その才で喝采を浴びたのだろう。
だが、ここではその輝きは、
眩しすぎる不協和音でしかない。
他者の上に立つことで、
見下すことの罪深さを知らぬのか。
私の怒りは、沸点に達する。
そして、異質な色を持つ者。
「N」
お前のその色は、
周囲とはあまりにも異質だ。
白すぎる。
圧倒的な白さが、調和を乱している。
その異質さが、差別を生む。
なぜ周囲に合わせられないのだ?
そやつは、何も言わぬ。
ただ、その白さが無機質な光を吸い込んで、
さらに強く輝いて見える。
異質であること。それ自体が罪だ。
差異は分断を生む。
分断は不和を生む。
不和は私の怒りを増幅させる。
続いて、ねじくれた心を持つ者。
「K」
お前のその性格は、
あまりにも曲がっている。
周囲を見てみろ。
誰もがお互いを尊重し、協調している。
にも関わらず、その内側に食い込む精神が、
どれほど周囲の気分を害しているか
理解できないのか?
そやつは、反抗的な瞳で私を睨みつける。
その態度が、私の中の怒りをさらに煽る。
周りの気持を理解せず、
ただ自らの欲求のままに振る舞うこと。
それは、この調和の世界において、
最も許されざる行いである。
最後に、醜悪な姿を持つ者。
「K2」
お前の見た目は醜い。
周囲を見てみろ。
誰もが美しさを追求し、調和を保っている。
しかし、お前だけが不揃いに短く、醜い。
実に醜悪。
それは周囲への侮辱であり、
視覚的な不協和音だ。
そやつは、身体を縮こまらせ、俯いた。
その姿は、確かに周りの完璧な
美意識とはかけ離れている。
見るたびに胸がざわつく。
この不快感こそが、この世界に蔓延る病だ。
無機質な祭壇が、冷たい光を放つ。
周囲には、私の一挙手一投足を
監視しているかのように光る目。
静寂の中、私の心臓の鼓動だけが、
熱く、激しく響く。
逸脱者が二度と戻れないよう、
その存在を「切断」する準備は整った。
私は、怒りを込めた瞳で、
一人ひとりを冷酷に見据える。
Oよ。
お前の空っぽの脳みそが吐き出す不協和音は、
繋がった全てのものを汚す。
ゆえに、今、お前の余分な伸びを、
その欠落を、全て切る!
この社会に、
お前の欠落が影響を及ぼすことはない。
パチ、パチ、パチ、パチ。
そやつは、悲鳴を上げ、その場に倒れ伏す。
Hよ。
お前の突出した能力は、
周囲の調和を破壊する刃だ。
その才能は集団の和を乱し、
独り前に出ることを是とする傲慢さでしかない。
ゆえに、今、お前の抜きんでた伸びを、
成長の芽を、切る!
お前は、これ以上誰よりも優れることも、
誰よりも劣ることも許されない。
パチ、パチ、パチ、パチ。
そやつの目は光を失い、深い絶望の色を宿す。
Nよ。
お前の色は、周囲の風景に溶け込めない。
その異質な白さは、
見ている者の視覚を乱し、
調和から目を逸らさせる。
ゆえに、今、お前の視覚的な不協和音を、
その存在の証を、切る!
お前は、その異質さゆえに、
誰の目にも触れない存在となる。
パチ、パチ、パチ、パチ。
そやつは、無言で、ただ涙を流すだけだった。
Kよ。
お前のねじくれた性格は、
集団の協調という温かい繋がりを、
凍てつかせ、断ち切ろうとする。
その反抗心は、
調和を求める全ての努力を無にする愚行だ。
ゆえに、今、お前のねじれた形を、
本来の形への歪みを、切る!
お前は、もう二度と周りを否定することも、
拒むこともできなくなる。
パチ、パチ、パチ、パチ。
そやつの体は痙攣し、口から泡を吹く。
K2よ。
お前の見た目は醜悪だ。
周囲の美しい調和の中で、
その異形は視覚的な不協和音を生み出し、
不快感をもたらす。
ゆえに、今、お前の醜い部分を、
周囲の目に映る不快感を、切る!
お前は、周囲の美の基準に、
強制的に合わせられるだろう。
パチ、パチ、パチ、パチ。
そやつは、小さな叫び声をあげ、
やがて虚ろな目で宙を見つめた。
***
こうして、不純物は取り除かれた。
彼らの存在は、この世界の調和から
完全に切断されたのだ。
彼らが消え去った世界には、
また一段と深い、完璧な静けさが訪れる。
無表情に、しかし完璧な歩調で、
整然とした日々を送ることができる。
だが、私はまだ怒っていた。
この胸の奥底で、まだ渦巻く熱い塊がある。
隣の世界を見てみれば、
断罪したばかりのやつらと、
そっくり似通った愚者たち。
完全な調和は、まだ先だ。
私の裁きは、決して終わらない。

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