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空き地からの眺め|【狸の短編小説】

私には、自分を縛る見えない鎖がある。

生まれたときから足枷をつけられ、
他人とは違う場所に立たされている。
そう感じ続けてきた。

世界は残酷なほど平等ではない。

同じ陽光を浴びているように見えても、
地面の下では全く違う土壌に根を下ろしている。

隣の芝生は青いなんて呑気なものではない。
見える芝生は、誰かが丹精込めて耕した
肥沃な大地に咲く色とりどりの花畑。

そこに立つ人々は、
最初から美しい花冠をかぶり、悠々と走る。

一方、私はといえば、
枯れ草が生い茂る、寂れた空き地の真ん中で、
錆びついた手足を眺めることしかできなかった。

何度、そこから出ようともがいたことだろう。
自分も花畑へ行けるはずだと、
枯れ草を掻き分け、固い土を素手で掘る。

爪が剥がれ、
指の関節は腫れ上がり、泥にまみれた。

けれど、辿り着いたのはいつも同じ場所。
ただ、目の前の荒れ地が少し広がっただけ。

私は悟った。
ここが、私のスタートラインなのだと。

この空き地から花畑を目指すこと自体が、
高望みなのかもしれない。


SNSを眺めるたび、
胸の奥がキリキリと締め付けられる。

輝かしい笑顔。
好機に溢れたキャリア。
彩り豊かな休日。

「私も楽しんでるよ」

平静を装い、画面の光を眺めては、
空き地で静かにため息をついた。

羨ましい、悔しい、そして何より、
そんな自分を情けなく思った。

彼らが辿り着く場所は、
私が手を伸ばしても届かない光。

手の届く範囲のことだけをすればいい。
そう自分に言い聞かせても、
見えない壁はすぐそこにある。

「才能がある」
「頑張りが足りない」
「挑戦しろ」

どれも無意味な言葉。
水を与えられなかった種には、
どんなに太陽が照りつけても芽は出ない。

最初から種も植えられていないのなら、
なおさらだ。

できること、できないこと。
その線引きは残酷で、
けれど抗えない真実だと思っていた。


夜、ひとりきり、
薄暗い部屋で天井のひび割れを眺めていた。

そのひびが、
私の荒れた地図のように見えてくる。

私という空き地のどこにどんな凹みがあり、
どこに小石が転がっているのか、
自分では知っているつもりでいた。

しかし、その認識が
どれほど表層的だったかを、
私はその時初めて知った。

ふと、自分の手のひらを見つめる。
泥と砂埃で汚れていると
ばかり思っていたそこには、
幾重にも刻まれた細い線が見える。

これまでは華やかな手と比較するばかりで、
自分の手のひらをじっくりと見たことなどない。

これは私の手。
土を掘り、泥にまみれ、
何かを掴もうとしてきた私の手。

不器用で、傷だらけで、
どこか諦めの色が滲んでいる。
けれど、それでも、これだけは私自身。

この手で何ができるのか。
どんな土をどれだけ掘り起こせるのか。

空き地から出ることは無理でも、
せめてこの空き地の中に
何かを植えられないだろうか。

これまで、ただ絶望の中で立ち尽くし、
ここが私の空き地だ」と嘆くばかりで、
空き地そのものを、
真正面から見つめてこなかった。

自分の足元にある土が、
どんな質なのか、深さはどれくらいあるのか。

本当に「できない」と
決めつけてきたことのすべてが、
本当の意味で不可能なことなのだろうか?

今まで自分自身を、
広大な花畑と無名の空き地を隔てる境界線の
空き地側」にいる者、という視点で見ていた。

けれど、その境界線は正しいものだろうか。
私が立っているこの地面は、
確かに他人のそれとは違う。

でも、これは、間違いなく私の地面だ。

その気づきは、涙になった。
止めどなく、頬を伝う温かい滴は、
これまでの澱んだ感情を洗い流す。

それは諦めの涙ではない。
悔しさの涙でもない。

泥だらけの自分を、惨めな自分を理解し、
受け入れられたことへの、
深く静かな感謝のような涙。

胸の奥で固く閉ざされていた何かが、
ゆっくりと解けていくのを感じる。

重荷が下りた。呼吸が楽になる。

外の世界はまだ眩しく、
花畑の存在も変わらない。

けれど、生まれた小さな視界の変化は、
空き地をこれまでとは全く違う場所に見せる。

錆びついた手足も、
ひどく重いものではなくなっていた。

前に進む第一歩は結局、
他との差を知ることでも、
他と同じ場所を目指すことでもない。

それは、ただ、自分がどこに立っていて、
どんなものを持たない代わりに、
どんなものを確かに持っているのか。

不器用で傷だらけでも、
その「自分」の輪郭を、
濁りなく見つめることだった。

空き地の真ん中で、私は立ち上がる。
空を見上げる。

ひび割れた天井だと思っていた雲は、
以前よりもずっと高く、澄み渡って見えた。



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