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賢者の時間|【狸の短編小説】

 結婚を真剣に考え始めた、一人の男がいた。

 彼には3人の恋人がいるのだが、
 将来の相手として、ふさわしいのは誰か。

 彼は決めかねていた。

 そこで、彼女たちの価値観を知るため、
 一つのテストを試みることにした。

 3人にそれぞれ100万円を渡し、こう告げる。

「君が最も価値があると思う
 使い方をしてみてほしい」

 1ヶ月後、男は彼女たちから報告を受けた。


 一人目のA
は、エステや美容医療で
 全身を磨き上げ、高級な服をまとって現れた。

「あなたに『綺麗な人をもらった』と、
誇りに思ってほしくて」

「この美しさを保つことが、
妻になる私の務めだと思ったの」

 彼は感心した。
 なるほど、妻の美しさは夫のステータス。
 素晴らしい考えだ。


 二人目のB
は、男が欲しがっていた腕時計と、
 趣味の道具一式をプレゼントした。

「あなたの喜ぶ顔が、私の一番の幸せ」

「あなたの日々の疲れを癒やし、
支えることが私の喜びだから、
すべてあなたのために使ったの」
 

 彼は感動した。
 なんて健気なんだ。
 これほど尽くしてくれる人はいないだろう。

 
 三人目のC
は、100万円を200万円に増やして
 男の前に差し出した。

「お金をただ消費するのではなく、
二人で賢く資産を築いていく」

「その姿を見せることが、
将来の不安をなくす一番の証明だと思ったの」

 彼は唸った。
 なんと賢明な女性だろう。
 人生を共に歩む相手として心強い。


 Aの「美しさ」Bの「献身」Cの「賢さ」。
 三者三様の完璧なプレゼンテーション。

 彼は、誰を選んでも素晴らしい結婚生活が
 待っていることを確信した。

 そして彼は、深く、深く、考えた。

 綺麗な妻を隣に歩かせるためには、
 自分も常に釣り合う男でいなければならない。

 献身的な妻の期待に応えるためには、
 常に感謝と愛情を表現しなければいけない。

 賢い妻と家庭を築くためには、
 自分の金遣い一つにも
 合理的な説明が求められるだろう。


 後日、友人に結婚について聞かれた男は、
 晴れやかな顔でこう答えた。


「面倒だから、やめにした」



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