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ミズキさんは現場を止めることがある|タレントを輝かせる人の話

Project MOON No.11

後ろできゅっとまとめたポニーテールが跳ねる。
今日もミズキさんは現場に走っていく。

「はーーい!すみません。もうスタンバイですよね。タレント呼んできます!」

「はい!すみません。化粧直してすぐに戻ります。3分で戻ります!」

「はーい!すみません!」

右に左に声が飛ぶ。
いつからか、
ミズキさんが入る撮影は現場がまとまり、
最後まで崩れない。
そんな声もちらほら聞こえるようになっていた。

ミズキさんは、
某タレント・モデル事務所のマネージャーで、
担当のタレント・モデルを30人ほど抱えている。
事務所はそれほど大きくはなく、
所属は総勢100名ほどで、
ミズキさんの担当は10代から30代の男女が中心だった。

社長1人、
マネージャー3人で100名のタレントを抱えるその事務所では、
それぞれにおよそ30名ずつが割り当てられていた。

Tシャツとデニムの動きやすい服装、
そして頭のつむじあたりでまとめたポニーテール。
遠くまで通る声で、
右に左に走り回っていた。

現場に必要があれば、
表情も声色も態度も、
役割さえも変わった。
必要があれば強い目で監督を見つめ、

「できません。あと1時間待ってください。必要な時間です。」

と言い切り、
説得に当たった。
そして必要があれば、

「本当にすみません。虫がいいのはわかってます。ただ、あと1時間は彼女に必要な時間なんです。
このショーが一番いい形で成功するために、
彼女のベストを発揮させてあげたいんです。
どうにかもう少し時間をください。」

と頼み込んだ。
理由は問題ではなかった。
所属タレントがそれぞれのベストを尽くす環境を整えるために、
その場に必要な役割を引き受けていた。

現場では、
必要があれば監督の前に立ち、
必要があれば頭を下げ、
必要があれば時間を止め続けた。

「ミズキが現場にいると所属タレントが輝く」

「ミズキさえいれば現場がうまく回る」

「ミズキがいると良い作品が仕上がる」

そんな声が、
現場や監督の間で聞こえるようになっていた。

所属タレントも、
ミズキさんがいることに安心を感じていた。

彼女は所属タレントのことを悪く言うことはなかった。
小学生のタレントは

「ミズキさん」「ミズキさん」

となつき、
われわれ大人のタレントは
その後ろ姿を見ていた。

タレント事務所において
所属タレントは商品である。
炎天下で長引く撮影に体力を奪われるときには
日傘を差し出し、
汗をかけば拭きあげ、
服が乱れれば整え、
髪が風になびけばセットをしなおし、
疲れた表情をすれば甘いものを取りに行き、
表情が暗ければポジティブな声をかけ続けた。

「今日もかっこいいね。」

「その髪型も似合ってる」

「この現場にいるタレントの中で一番目立ってるよ」

「この前のCMも良かった」

「そういえば、あなたの好きなタレントさんがこの前の舞台、とっても良いって褒めちぎってたわよ」

そしてタレントがようやく笑顔になると、
にっこり笑い、
次のタレントのところへ飛ぶように走った。

必要があれば監督の前に立ちふさがり、
額が地面につきそうなほど頭を下げ続け、
1時間でも2時間でも撮影を止め、
タレントのベストパフォーマンスを引き出した。

今日もミズキさんは、晴天の空の下を颯爽と走りまわる。
誰かが輝くために、必要な順番を引き受けながら。



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