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IT&scienceで大学教育を考える第3回:AI時代のキャリア教育とは― AIを使うだけでは勝てない理由

前回のおさらい

前回は『なぜ学生は考えられないのか― “自己分析”だけでは就職できない理由』として、大学で行われている就業支援では社会で必要とされている”就業力”に触れていないのでは?という点について整理しました。

AI時代におけるモヤモヤ

ここ数年、多くの大学でAI教育への関心が高まっています。生成AIを活用した授業やAIリテラシー講座、プロンプト作成の演習。企業でもAI活用研修は大盛り上がりで、「AIを使える人材が欲しい」という声が聞こえてきます。確かにAIは今後の社会において欠かせない存在になるでしょう。学生のうちからAIに触れ、活用方法を学ぶことは重要です。

しかし、私は少し気になっていることがあります。それは、「AIを使えること」と「AI時代に活躍できること」は同じではないということです。

むしろAIが普及するほど、人間に求められる能力は変わっていくのではないかと思っています。

AIは答えを出してくれる?

生成AIの進化は本当に驚異的。レポートのたたき台を作る、企画書をまとめる、文章を要約する、アイデアを出す、簡単なプログラムを書く。少し前であれば専門知識や経験が必要だったことが、誰でも短時間でできるようになりました。

大学教育においても、その恩恵は大きいでしょう。学習支援、情報収集、文章作成、発想支援など、様々な場面で活用できます。大学のレポートなどは自分の頭で考えて作られているのでしょうかー

しかし、ここで考えなければならないことがあります。AIは確かに答えを出してくれます。ですが、その答えが正しいかどうかまでは保証してくれません。

AIは「答えらしきもの」を作る

生成AIを使ったことがある人なら分かると思いますが、AIの回答はとても自然。また自信満々に説明してくれますし、文章も整っています。

だからこそ危険でもあります。なぜなら、それっぽい答えと、正しい答えは違うからです。

実際には、古い情報を含むこともある。前提条件が間違っていることもある。論理の飛躍があることもある。専門家が見れば違和感のある内容でも、一般の人には見抜けないことがあります。

つまり、AIを使うだけでは十分ではなく、AIの答えを評価する力が必要になるのです。

AI時代ほど「問い」が重要になる

もう一つ重要なことがあります。生成AIは、入力された問いに対して回答を返します。つまり、良い問いには良い答えが返りやすく、曖昧な問いには曖昧な答えしか返らないということです。

例えば、「大学教育について教えて」という質問と、「AI時代において大学が育成すべき就業基礎力とは何か」という質問では、得られる結果は大きく変わります。

何を知りたいのか。どの視点で考えるのか。どんな前提条件を置くのか。こうしたことを整理できなければ、AIの能力を十分に引き出すことはできません。

つまりAI活用の本質は、プロンプトの書き方ではなく、問いを立てる力なのです。優秀なプロンプト例では、記載すべきことを"#"を使って構造的に記していますが、実はこの構造そのものよりも渡すべき情報ができるだけ網羅的に挙げられていることの恩恵が大きいと感じています。

社会では正解が与えられない

大学の授業では問題が与えられますし、試験範囲も評価基準もあります。しかし社会に出ると大学とは状況が異なり、そもそも何が問題なのか分からない、何が正解なのかも分からない。そんな場面ばかりです。

例えば企業で、「若手社員が定着しない」という問題があったとします。この原因は何でしょうか。給与?人間関係?仕事内容?育成制度?実際には複数の要因が絡み合っていると思います。

ここで必要なのは、正解を探すことではありません。まず、「どこに原因がありそうか」という仮説を立てることです。そして情報を集め、検証しながら考え続けることです。

AIはこの作業を支援してくれます。しかし、仮説を立てることも、最終的に判断することも、人間の役割です。

AI時代に必要なのは「考える責任」

AIが普及すると、人間は考えなくてよくなるといったイメージを持つ人もいますが、私は逆だと思っています。AIが優秀になるほど、人間はより重要な判断を担うことになります。

どの情報を信じるのか、どの選択肢を採用するのか、どのリスクを取るのか。これらはAIでは決められません。

最後は人が決めるしかないのです。つまり、AI時代に必要なのは「考える力」だけではありません。「決める力」そして、「判断に責任を持つ力」です。

大学教育は何を教えるべきか

では、大学は何を教えるべきなのでしょうか。もちろんAIツールの使い方も必要ですが本当に重要なのは、AIを使いながら考える力を育てることです。

例えば、
・情報を鵜呑みにしない
・前提条件を疑う
・複数の視点で考える
・仮説を立てる
・判断理由を説明する
こうした力です。

これらは単なるITスキルではなく、社会で働くための基礎的な思考力です。私はこれを、「AI時代の就業基礎力」と呼びたいと思います。

AIを使える人ではなく、AIを使いこなせる人へ

これからの社会では、多くの人がAIを使うようになるでしょう。そうなった時に差がつくのは、AIを知っている人でもAIを使える人でもありません。

AIを使いながら、問いを立て、仮説を考え、判断できる人です。

大学教育もまた、「AIの使い方」を教える段階から、「AIを使いこなすための思考力」を育てる段階へ移行する必要があるのではないでしょうか。

次回は、「企業が本当に求める基礎力 ― 学際的スキルとは何か」について考えていきたいと思います。

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