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第7回:成功事例が役に立たない理由― 再現性を生むのは「抽象化力」である

第6回のおさらい

『モデルとは「扱える形にするための嘘」― なぜ成功事例はそのままでは機能しないのか』と題して、DXを進めるためにはモデルとして現実を組みなおすことの重要性を整理してきました。

なぜ成功事例は活かされないのか

DXの文脈では、成功事例の共有が盛んに行われています。

「この企業はこうやって成果を出した」
「このツール導入で業務が改善された」

こうした情報は一見すると非常に有用に見えます。

しかし実際には、

「同じことをやっても、うまくいかない」
「期待した効果が出ない」

といったケースが多く見られます。

なぜでしょうか。

それは、成功事例が役に立たないのではなく、使い方を誤っているからです。

※「成功事例の共有」は私も好きでよく聞きます。
 否定しているわけではありません。

成功事例は「結果」でしかない

成功事例として共有されるものの多くは、最終的な「結果」です。

・どのツールを使ったか
・どのプロセスを導入したか
・どんな成果が出たか

しかし、その背後にあるものは十分に語られないことも多いです。

例えば、

・どんな課題を解こうとしていたのか
・どんな前提条件があったのか
・どんな制約の中で意思決定したのか

こうした要素です。

つまり成功事例とは、

特定の条件のもとで成立した一つの結果にすぎません。

前提条件を無視すると何が起きるか

問題は、この前提条件を無視したまま事例を取り入れてしまうことです。

例えば、

ある企業ではデータ分析基盤の導入により意思決定が高度化したとします。

それを見て、別の企業も同じツールを導入した。

しかし結果は出ない。

このとき、何が起きているのか。

・データの整備状況が違う
・業務プロセスが違う
・意思決定の文化が違う

こうした前提条件が異なるにもかかわらず、
表面的な手法だけを真似しているのです。

その結果、再現性が失われます。

本当に見るべきは「構造」である

成功事例から学ぶべきことは、結果そのものではありません。

見るべきは、その背後にある構造です。

つまり、

・どんな課題があったのか
・どんな要素が関係していたのか
・どのような因果関係で結果が生まれたのか

これらを理解することが重要です。

同じツールでも、置かれている構造が違えば、結果は変わります。

逆に言えば、構造が似ていれば、手法は違っても同じような成果に近づくことができます。

抽象化とは何か

ここで重要になるのが、抽象化という考え方です。

抽象化とは、個別の事例から本質的な要素を抜き出すことです。

具体的には、

・何が共通しているのか
・何が本質なのか
・どこが条件依存なのか

を切り分けることです。

例えば先ほどのデータ分析の例であれば、

「ツール導入」が本質なのではなく、

・意思決定にデータを組み込む構造
・データが活用されるプロセス設計

こうした点が本質かもしれません。

このレベルまで抽象化できて初めて、他の組織でも応用可能になります。

抽象化できないとどうなるか

抽象化ができない場合、次のような行動になります。

・成功事例をそのままコピーする
・うまくいかなければ別の事例を探す
・また同じことを繰り返す

つまり、

具体の模倣を繰り返すだけになります。

これでは知識は増えても、再現性は高まりません。

DX人材に求められる力

DX人材というと、技術力やデータ分析力が注目されがちです。

しかし、それだけでは不十分です。

本当に必要なのは、

抽象化して考える力です。

個別の事例から構造を読み取り、
自分たちの状況に合わせて再構成する。

このプロセスがなければ、どれだけ多くの事例を知っていても意味がありません。

成功事例の正しい使い方

では、成功事例はどのように使うべきなのでしょうか。

ポイントは3つです。

  1. 前提条件を確認する

  2. 構造を理解する

  3. 自分たちの状況に合わせて再構成する

このプロセスを経て初めて、事例は価値を持ちます。

再現性を生むのは抽象化である

DXが難しい理由の一つは、再現性が低いことです。

同じことをしても、同じ結果にならない。

この問題を解決する鍵が、抽象化です。

個別の事例をそのまま使うのではなく、
本質を取り出し、自分たちの文脈に適用する。

この思考ができるかどうかで、DXの成否は大きく変わります。

会社でのあるある

会社でも『事例を真似してウチもやれ!』と、
社長や役員が発言されることがあります。

それは単に導入して使え!ということではなく、
上記の3つのポイントを含む対応のことを言っているハズです。
ハズ・・・

また、あるチームの有効事例を知り、
他のチームにも連携しろ、上司が発言されることがあります。

これを受けて連携されるのは、
「何やったか」「成果」だけだったりしますね。

これは、そもそも再利用性のない情報だったりします。
当然ながら広がらないですね。

上司は何をどこまで連携するのか、を指示すると
会社も変わってくるかもしれません。

事例を見る視点を変える

成功事例は無意味ではありません。

むしろ重要なヒントを多く含んでいます。

ただし、それは「答え」ではありません。

問いを深めるための材料です。

どんな構造があったのか。
なぜその結果が生まれたのか。

そうした視点で事例を見ることができれば、
初めて価値が生まれます。

DX人材に求められるのは、
事例を増やすことではなく、事例を読み解く力です。

その中心にあるのが、抽象化力なのです。

第8回に向けて

第7回では、成功事例が役立てられない理由と、役立てられるようにするうえで必要なポイントを整理しました。
第8回は次のステップとして、PoCをやっても効果が得られない原因を、構造の面から深掘ってみたいと思います。

PoCが形骸化する組織の共通点。仮説なき実行は検証にならない。DXを「実験」として設計する視点を提示する。

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