IT&Scienceで地域人材育成を考える 第2回:AI講座だけでは育たない。本当に必要なのは「考える力」
前回のおさらい
第1回は「就職支援だけでは足りない。自治体が今考えるべき「就業力」とは」と題して、AI時代に人の価値となる「就業力」が自治体が担う就職支援として必要となることを整理してきました。
AIを使える=AI時代に活躍できる?
「AIを学べば、AI時代を生き抜ける。」
最近、そんな言葉を耳にする機会が増えました。企業でも自治体でも個人向けでも、生成AIに関するセミナーが開催されるようになり、AIに触れる機会は確実に増えています。
もちろん、破壊的に業務を変革しうるAIを多くの人が使うことは、企業の成長や地域の発展にとても良い流れだと思いますが、私は一つだけ気になっていることがあります。
それは、「AIを使えること」と「AI時代に活躍できること」は、必ずしも同じではないということです。今回は、私がなぜ「考える力」の方が重要だと考えているのか、その理由をお話ししたいと思います。
AIは答えを出せても、問いは作れない
生成AIを使うと、驚くほど自然な文章が作れます。企画書のたたき台も作れますし、プログラムを書くこともできます。便利な時代になったと実感します。日々のAIの進化も目覚ましく、圧倒的に賢い内容を作ってくるようになりました。
でも、AIを使っていて気づくことがあります。AIの答えは、入力する問いによって大きく変わるということです。
例えば、「地域企業の人材不足を解決したい」という相談だけでは、AIの仕組み上、一般的な回答しか返ってきません。一方で、「若者の地域外流出が続く理由を、産業構造・教育・情報発信の3つの観点から整理してほしい」と質問すれば、返ってくる内容はぐっと深くなります。
つまり、AIの価値を決めているのは、AIそのものではありません。何を課題だと感じるか、それに基づいてどんな問いを立てられるかであり、それを担うのは人の役割です。
「考える力」とは何を指すのか
「考える力」とは何でしょうか。私は、頭の回転が速いことでも、知識が豊富なこと(※1)でもないと思っています。
仕事で本当に必要なのは、
・何が問題なのかを整理すること
・原因を推測すること
・仮説を立てること
・データや事実を基に検証すること
・結果を踏まえて改善すること
こうした一連のプロセスです。
実は、これは研究開発でも、企業の改善活動でも、行政の政策立案でも共通しています。
私自身、IT業界で長く仕事をしてきましたが、成果を出している人ほど、「すぐに答えを出す人」ではありません。まず現状を整理し、「そもそも何が問題なのか」を丁寧に考える人でした。この姿勢は、AIがどれだけ進化しても変わらないと感じています。なお、本当にできる人が一瞬で答えを出すのは、経験に基づいて精度の高い仮説と検証を一気に済ませて発言しているのであって、構造は同じー
(※1)知識が豊富であれば事例引用・応用として多くのことを発想できます。学生時代の基礎学力もこれにあたり、私自身は知識を身につけることもとても大事だと実感しています。理論物理など世の中で役立つ訳はない学問なのですが、そんなことはない!!(120dB)
科学的思考は、研究者だけのものではない
「科学的思考」と聞くと、理系や研究者だけに必要なものだと思われるかもしれません。科学的思考とは、「思い込みではなく、事実を基に考えること」だと思っています。
例えば、「若者が地方に残らない」という課題があったとします。ここで、「給与が低いからだ」と決めつけるのは簡単です。
しかし、本当にそうでしょうか。
企業を知らないからかもしれません。
キャリアの将来像が描けないからかもしれません。
地域で挑戦できるイメージを持てないからかもしれません。
一つの答えを決めつけるのではなく、複数の可能性を考え、データや現場の声をもとに検証していく。これが科学的思考です。
私は、この考え方は研究室だけではなく、自治体の仕事にも、企業にも、日常生活にも必要なものだと思っています。
AI時代だからこそ、人に求められる役割が変わる
AIが普及すると、「人の仕事がなくなる」という話をよく耳にしますが、なくなるのは、「考えなくてもできる仕事」だと思っています。
一方で、人に期待される仕事は増えていきます。
例えば、
・課題を発見する
・関係者と対話する
・地域の未来を描く
・新しい価値を生み出す
こうした仕事は、簡単にAIへ置き換えられるものではありません。AIに置き換えられるイメージがあるとすれば、それは『AIを使いこなす人に奪われてしまう』のであって、『AIそのものに奪われる』わけではありません。つまり、AI時代は「人が考える仕事」の価値が高まる時代なのです。
だからこそ、就業支援でも、AIツールの使い方だけを教えるのではなく、「どう考えるか」を育てることが重要になるのではないでしょうか。
IT&Scienceが伝えたいこと
私は「IT&Science」という考え方を通して、人材育成について発信しています。その名前から、「ITスキルを教える活動ですか」と聞かれることがあります。もちろん、ITの知識は大切です。でも、それ以上に大切なのは、ITをどう使い、どんな課題を解決するのかを考えることです。
ITは道具です。AIも道具です。その道具を使いこなすためには、科学的に考える力が欠かせません。だから私は、AI教育と科学的思考は別々のものではなく、セットで育てるべきものだと考えています。
次回に向けて
AIはこれからも私たちの仕事を大きく変えていくでしょう。だからこそ、「何を学ぶか」だけではなく、「どう考えるか」を学ぶことが、これまで以上に重要になります。
就業支援も同じです。
AIツールを体験して終わるのではなく、その先にある「考える力」を育てることができれば、一人ひとりが変化に対応し、自分らしい働き方を選べるようになります。私は、それこそがAI時代の就業力であり、自治体の就業支援がこれから目指すべき方向ではないかと考えています。
次回は、「自治体の就業支援はどう変わるべきか」をテーマに、就職支援から地域人材育成へと視点を広げながら考えていきたいと思います。
