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第5回:部分最適がDXを壊す― なぜツール導入は進むのに成果が出ないのか

第4回のおさらい

『解けない問題は分解されていない― DX人材に必要なのは「解決力」より「分解力」』と題して、問題解決には良い解決アイデアではなく、良い分解が重要であることを整理してきました。

DXは進んでいるのに成果が出ない

多くの組織でDXの取り組みが進んでいます。

新しいシステムを導入し、業務をデジタル化し、データ活用を進める。
ツールも増え、IT投資も拡大しています。

それにもかかわらず、こうした声をよく聞きます。

「DXを進めているが成果が見えない」
「ツールは増えたが、業務はむしろ複雑になった」
「現場が疲弊している」

なぜこのようなことが起きるのでしょうか。

その原因の一つが、部分最適の連鎖です。

部分最適とは何か

部分最適とは、組織あるいは業務プロセスの一部だけを改善することです。

例えば、

営業部門は営業の効率を上げようとする。
経理部門は経理の効率を上げようとする。
IT部門はシステムの安定性を高めようとする。

それぞれの判断は合理的です。
それぞれの部門は、自分たちの仕事を良くしようと努力しています。

しかし問題は、組織や業務プロセス全体の視点が抜け落ちることです。

各部門が自分の最適を追求すると、全体としては新しい問題が生まれることがあります。

DXの現場で起きる典型的な失敗

DXの現場では、次のようなケースがよく見られます。

ある部門が業務効率化のために新しいシステムを導入したとします。

その部門の作業は確かに速くなりました。
入力作業も自動化され、データも整理された。

しかし別の部門では、新しい入力作業が増えてしまう。

結果として、

・入力作業が二重になる
・データの管理が複雑になる
・業務フローが分断される

といった問題が生まれます。

つまり、一部の効率化が全体の非効率を生むのです。

これは技術の問題ではありません。
構造の問題です。

問題は「関係性」にある

現実の業務は、単独で存在しているわけではありません。

人、情報、ルール、プロセスなどが相互に関係しながら動いています。

そのため、一つの部分だけを改善すると、別の場所に影響が出ます。

例えば、

・業務スピードを上げると品質が下がる
・入力を簡単にするとデータ精度が落ちる
・承認を減らすとリスクが増える

こうしたトレードオフが生まれます。

つまり問題は、個々の要素ではなく、要素同士の関係にあります。

DXが難しい理由の一つは、まさにこの関係性の複雑さです。

日本のカイゼン文化がDXの邪魔をしている?

日本の職場では「カイゼン」が強みとされてきました。

現場が主体となり、日々の業務をより良くする取り組みは
確かに価値があります。

しかし多くの場合、
現場のボトムアップで始まる構造になるため
対象範囲は自部門や担当業務に限られます。

その結果、各所で効率化が進む一方、
部門間の連携や全体の流れは見直されないままになる。

こうして善意の改善が積み重なるほど、
組織全体では部分最適が強化されてしまうことがあります。

カイゼンとDXとは、
目的も構造もその進め方も全く異なる別物だと思います。

なぜ教育では全体視点が育たないのか

ここで一つ考えたいのは、教育の問題です。

多くの教育では、個別の問題を解く力が重視されます。

数学の問題を解く。
プログラムを書く。
与えられた課題を解決する。

こうした訓練は重要です。

しかし現実の社会問題は、単一の問題として与えられることはほとんどありません。

複数の要素が絡み合い、問題の境界も曖昧です。

それにもかかわらず、教育の中では「全体を見る力」を体系的に学ぶ機会が少ないのが現状です。

DXに必要なのは全体を見る力

DXを成功させるためには、部分最適ではなく全体最適を考える必要があります。

そのためには、

・どの要素が関わっているのか
・要素同士はどう影響し合っているのか
・どこにボトルネックがあるのか

こうした構造を理解する視点が欠かせません。

つまりDXとは、単なる技術導入ではなく、

システム全体を設計し直すこと

でもあるのです。

部分最適を超えるために

部分最適を避けるためには、まず構造を見る必要があります。

誰が関わっているのか。
どんな情報が流れているのか。
どんなルールがあるのか。
どんな順序で業務が進んでいるのか。

こうした要素を書き出し、関係性を整理する。

このプロセスを経て初めて、全体として意味のある改善が見えてきます。

DXの本質は構造を理解すること

DXの議論では、どうしても技術の話が中心になります。

しかし現場で起きている問題の多くは、技術ではなく構造の問題です。

ツールを導入しても成果が出ないのは、
部分最適の連鎖が起きているからです。

DXを進めるために本当に必要なのは、

全体を見る視点です。

個々の改善ではなく、
システム全体を理解すること。

そこからしか、本当の変革は始まりません。

第6回に向けて

第5回では、部分最適を目指そうとする動きが、かえってDXの歩みを難しくしていることをその問題構造から整理してきました。
第6回は複雑にからまった問題をどのように解きやすくするのかについて話してみたいと思います。

成功事例をそのまま導入しても機能しないのはなぜか。モデルとは現実の単純化である。その前提を理解しないDXは再現性を持たない。

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