【第三十八度線の火──和平が世界を焼いた日⑩】
第九部
七月十二日 — インドの静かな前進
インドは宣戦布告しなかった。
ただ、国境地帯で部隊配置を変えた。
チベット亡命政府の代表と会談した。
中国による少数民族弾圧を非難した。
インド洋での中国船舶監視を強化した。
サイバー空間で、中国系ネットワークへのアクセス遮断を始めた。
世界はまだ、それを参戦とは呼ばなかった。
だが、中国は分かっていた。
西からインド。
東から日本と米国。
南から台湾海峡。
北からロシアの沈黙。
内側から上海、香港、ウイグル、チベット、内モンゴル。
包囲は、砲弾ではなく、地図そのもので始まっていた。

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