データ分析は「質問力」の勝負に変わった
10年前、データ分析を任された人が最初にやったことは勉強だった。
分厚い関数の本を買う。ピボットテーブルを練習する。VLOOKUPの引数でつまずき、夜が更ける。
数字が出る頃には会議が終わっている。
いま同じ仕事はこう始まる。
AIに日本語で聞く。「この売上データを得意先別に集計して」。
30秒で、表が返ってくる。
長年この分野の入り口に立ちはだかっていた「手」の壁が消えた。
なら、データ分析を学ぶ必要はもうないのか。
逆だ。学ぶ場所が変わった。
AIは、どこまでやってくれるのか
答えから言う。60点までだ。
ある経営者がこう言った。
「AIが60点までの分析を作ってくれるなら、残りを100点に近づけるのは人間の役割」
私はこれが現場の実感としていちばん正確な言葉だと思っている。
60点の中身は、集計・グラフ・平均や構成比・要約。かつて何日もかかった作業だ。AIはこれを数分で出す。ここは遠慮なく任せていい。
では残りの40点は何か。
3つある。
その数字が正しいかを確かめること。
その数字を現場の事情とつなぐこと。「この月に落ちたのは、あの担当が抜けた月だからだ」と言えるのは、現場を知る人だけだ。
そして次に何を聞くかを決めること。
この40点はAIには埋められない。データに書かれていないことだからだ。
そして、この40点の入り口に立っているのが「質問」だ。

質問力とは、何か
定義を言い切っておく。
データ分析の質問力とは、業務の困りごとをデータへの問いに翻訳する力である。
たとえば、困りごとがこうだったとする。
「最近、リピートのお客さんが減った気がする」
これをこう翻訳する。
「今年4〜6月に2回以上購入した顧客の数を、去年の同じ3ヶ月と比べて」
気がする、が、確かめられる問いに変わった。これが翻訳だ。
もうひとつ。
「なんとなく、在庫が多い気がする」
これはこう翻訳できる。
「商品ごとに、いまの在庫数が直近3ヶ月の平均販売数の何ヶ月分にあたるかを出して、多い順に並べて」
翻訳のコツは、「気がする」の中身を期間と比べ方に置き換えることだ。難しい言葉はひとつも要らない。
逆の例も見てほしい。
「売上を分析して」
AIはこれにも答える。それらしい表とグラフが返ってくる。60点の顔をしている。
だが、誰のどの行動にもつながらない。困りごとから出発していない質問は、正しく集計された使い道のない答えを生む。
質問がぼやけていれば、AIの60点は0点に近づく。
質問が良ければ、60点は80点から始まる。
ここで前回の話がつながる。
翻訳の元手は業務の困りごとだ。それをいちばん知っているのはデータの専門家ではない。毎日その業務をやっている人だ。
つまり、あなただ。
外部の分析の専門家は、集計の腕であなたに勝つ——勝っていた。その腕を、いまはAIが誰にでも貸してくれる。残った勝負は、どちらが良い問いを立てられるか。得意先の顔と、売り場の匂いと、先月の会議の空気を知っているのは、あなたのほうだ。
専門知識という壁が消えたいま、「現場を知っている」が、データ分析でいちばん強い資格になった。
だから私は前回、雑に任されたあなたは良い位置に立っている、と書いた。
質問力は才能ではない。型がある。
「誰が・何を・どう見たいか」。
この型は第5回で検算の型とセットで渡す。
その前に次回。まず15分、手元のExcelをAIに読ませてみる。
理屈より先に、驚いてほしい。
「聞いたら、返ってきた」——その体験が、すべての始まりになる。
📝 この章のチェックリスト(3点)
AIは60点までの分析を数分で作る。100点に近づけるのは、人間の役割。
データ分析の質問力とは、業務の困りごとを、データへの問いに翻訳する力。
困りごとをいちばん知っているのは現場のあなた。それがAI時代の最強の資格になる。
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